心筋梗塞後の便秘が心不全による再入院リスクを高める?(後ろ向きコホート研究; BMC Cardiovasc Disord. 2025)

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◆ はじめに:心筋梗塞後、便秘に注意したい理由とは?

心筋梗塞(MI)後の患者ケアでは、心機能や再梗塞予防に注目が集まりますが、「便秘」の存在が予後に影響する可能性があることをご存知でしょうか?

今回ご紹介するのは、心筋梗塞後の患者における便秘と心不全による再入院の関連性を後ろ向きに検討し、退院後6か月間のリスクに焦点を当てたコホート研究の結果をご紹介します。


試験結果から明らかになったことは?

◆ 研究の概要

  • 対象者:2012年~2023年に心筋梗塞で入院した1,324人(平均年齢 68歳、男性76%)
  • 便秘の定義下剤を継続的に使用している患者
  • 評価期間:退院後 最大3年間(中央値2.7年)
  • 主要評価項目:心不全による再入院と死亡率

◆ 主な結果

💡 便秘と心不全による再入院の関係(退院後の時期別)

期間再入院率(便秘あり)再入院率(便秘なし)統計的有意性
退院〜6か月7.8%2.1%p<0.0001
6か月〜3年4.8%3.9%p=0.17(NS)

✅ 多変量Cox回帰分析による調整後ハザード比

  • 0〜6か月間の心不全再入院:HR 2.12(95%CI 1.07–4.19, p=0.032
  • 6か月〜3年:HR 0.86(95%CI 0.47–1.57, p=0.63

つまり、便秘がある患者は、退院後6か月以内に心不全で再入院するリスクがハザード比で2倍以上高いという結果が示されました。


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◆ 解説:なぜ便秘が心不全リスクに影響するのか?

便秘は単なる消化器症状ではなく、交感神経刺激による血圧上昇や迷走神経刺激による不整脈誘発、排便時の努力(いきみ)による心負荷の増大など、心不全リスクを高める多面的な要素を有しています。

また、便秘は利尿薬による脱水や低カリウム血症、活動量低下などとも関連し、心不全との悪循環に陥りやすい状態です。


◆ 臨床的意義:退院後早期に便秘管理を

この研究から得られる臨床的示唆は明確です。

  • 心筋梗塞後の便秘は、心不全による早期再入院リスクの“見逃されがちな因子”である
  • 退院後6か月間は、便秘の有無を積極的に確認・管理することが予後改善につながる可能性
  • 下剤使用の有無=便秘のマーカーとして活用可能

◆ 試験の限界と今後の課題

  1. 便秘の定義が「下剤使用」に依存
     便秘症状の客観的な評価(排便頻度や腹部不快感など)は行われていません。
  2. 単施設レトロスペクティブ研究であり、一般化には注意
     他施設・他国での再現性や因果関係の確認が必要です。
  3. 便秘が心不全の原因か、それとも重症度の指標かは明確でない
     便秘はあくまで“リスクマーカー”であり、介入により再入院率を下げられるかは今後の検証が必要です。

◆ おわりに:心と腸はつながっている?

便秘と心不全、一見関係なさそうなこの二つの症状が、退院後の患者予後に密接な関係を持つ可能性が明らかになりました。心疾患の治療においては、“腸”のケアも見逃せない時代が到来しています。

心筋梗塞後のケアでは、便秘の有無にも目を向けてた方が良いのかもしれません。ただし、便秘が心不全予後悪化の直接的な原因であるとは断言できません。どのような患者で、便秘が重要なリスクマーカーとなるのか、便秘解消が心不全増悪を回避できるのか、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 後ろ向きコホート研究の結果、心筋梗塞後における便秘は退院後最初の6か月間の心不全による入院リスクの高さと強く関連していた。

根拠となった試験の抄録

背景: 急性心不全(HF)後の便秘患者は、HFによる再入院リスクが高い。心筋梗塞(MI)後のHFは患者の転帰に影響を与えるものの、便秘とMI後の患者予後との関連は依然として不明である。本研究では、HFによる入院に焦点を当て、便秘がMI患者の予後に与える影響を評価した。

方法: 2012年1月から2023年12月までに当院に入院した心筋梗塞患者1,324名(平均年齢68±14歳、男性76%)を対象とした。便秘患者は、下剤を定期的に使用している患者と定義した。

結果: 追跡期間(中央値2.7年)中に、115例がHFにより死亡し、99例が再入院した。ランドマーク・カプランマイヤー解析の結果、便秘のある患者とない患者における0~0.5年におけるHFによる入院率は、それぞれ7.8%と2.1%(ログランク検定:p<0.0001)、4.8%と3.9%(ログランク検定:p=0.17)であった。補正Cox比例ハザード解析では、便秘のある患者は便秘のない患者と比較して、0~0.5年におけるHFによる入院リスクが有意に高いことが明らかになった(ハザード比 2.12、95%信頼区間 1.07~4.19、p=0.032)。しかし、0.5年から3年の間には有意差は見られませんでした(ハザード比 0.86、95%信頼区間 0.47~1.57、p=0.63)。

結論: 便秘は、退院後最初の6か月間のMI患者のHFによる入院リスクの高さと強く関連していた。

キーワード: 便秘、心不全、入院、心筋梗塞、予後

引用文献

Effect of constipation on hospitalization due to heart failure in patients after myocardial infarction: a retrospective cohort study
Shigeto Namiuchi et al. PMID: 40437372 PMCID: PMC12121009 DOI: 10.1186/s12872-025-04874-7
BMC Cardiovasc Disord. 2025 May 28;25(1):410. doi: 10.1186/s12872-025-04874-7.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40437372/

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