背景|ベンゾジアゼピン系薬(BZRAs)の漸減はなぜ必要?
不眠治療で処方されるベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRAs)(ベンゾジアゼピン系薬およびZ薬)は、短期使用に限定すべき薬剤とされています。
特に高齢者や認知機能障害のある方では、以下の有害事象リスクが高まることが知られています:
- 転倒・骨折
- 認知機能低下
- 入院・死亡リスクの上昇 等
そのため「減薬(deprescribing)」の重要性が認識されてきましたが、実際の臨床での支援方法についてのエビデンスは限られていました。
試験結果から明らかになったことは?
研究デザインの概要
項目 | 内容 |
---|---|
デザイン | 系統的レビュー(システマティックレビュー) |
対象 | 65歳以上または認知機能障害を有するBZRA服用者 |
収録データベース | Embase, CENTRAL, Scopus, Medline(2024年1月検索) |
主なアウトカム | BZRA中止率/減量率/代替薬使用/睡眠や臨床転帰への影響 |
主要な結果
- 収録研究数:17報(16試験)
- 実施環境:病院/地域在宅/高齢者施設など多様な環境
各介入方法とBZRA中止率の幅
介入タイプ | 中止率の範囲 |
---|---|
書面教育(パンフレット等) | 23%〜72%(n=6) |
書面+口頭説明 | 14%〜57%(n=5) |
多要素介入(教育+医師面談など) | 9%〜100%(n=6) |
- 認知機能障害のある方に対する介入も1報あり、認知機能正常者と同程度の効果が報告された。
コメント|患者主体の支援がBZRA中止を促す
✅ 意義
- 短期的な非薬物介入でも、一定の中止率を達成できることが示されました。
- 医療者主導ではなく、患者自身が能動的に関わる教育的介入の有効性が確認されつつあります。
⚠ 限界と注意点
項目 | 内容 |
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バイアスのリスク | 多くの研究でハイリスクのバイアスが認められた(ROB2・ROBINS-I) |
睡眠や生活の質への影響は未評価が多い | BZRAs中止後の不眠再発や代替治療の必要性は不明な点が残る |
認知機能障害患者での研究は不足 | 効果・安全性の評価が今後の課題 |
🔍 今後の課題
- RCTによる質の高い比較試験が必要
- 認知機能障害を有する集団において、継続的かつ支援的なアプローチの構築が求められる
- 睡眠の質・転倒・介護者の満足度など多面的アウトカムの評価が重要
まとめ|「やめたい」を支援するエビデンスへ
高齢者や認知機能障害のある方におけるBZRAの非薬物的減薬介入は、一定の中止率を達成可能であるという希望を与える結果でした。
パンフレットや説明だけでなく、医師や薬剤師との対話を含む多要素的なアプローチが効果的である可能性が示されており、今後の臨床実装に期待が寄せられます。
対象となる研究数が少なく、更なる検証が求められるところです。一様に中止を行うよりも患者背景を踏まえた介入方法が求められるでしょう。
今後の報告に期待。

✅まとめ✅ システマティックレビューの結果、患者主導型介入はBZRAの服用中止につながったが、研究間で有意なばらつきが認められた。検討されたすべての介入が認知障害のある患者に同様に効果的であるかどうかは不明である。
根拠となった試験の抄録
背景: ベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRA)(ベンゾジアゼピンおよびZドラッグ)は、短期使用においては不眠症管理において限定的な効果をもたらす可能性がある。しかしながら、転倒、骨折、入院、認知障害などの有害事象のリスクを高める。高齢者および認知障害のある患者は有害事象リスクが高いため、BZRAの減薬(中止)は有益となる可能性がある。本レビューでは、高齢者および認知障害のある患者の不眠症治療薬として使用されているBZRAの減薬を支援するための、患者主導型の非薬理学的介入の効果を調査した。
方法: 2024年1月にEmbase、CENTRAL、Scopus、Medlineを出版日制限なしで検索した。スクリーニング、データ抽出、バイアスリスク評価(ランダム化研究はROB2、非ランダム化研究はROBINS-I)は、2名の著者が独立して実施した。対象としたアウトカムは、BZRAを中止した参加者の割合、BZRAの減少、他の薬剤への切り替え、睡眠アウトカム、臨床アウトカムとした。高齢者(65歳以上)または認知機能障害のある患者におけるBZRAの処方中止を検討した研究を対象とした。
結果: 病院、地域、高齢者介護施設における16件の研究を分析した17件の報告書が含まれた。BZRA中止率は、筆記教育(n=6)では23%~72%、筆記と口頭による教育を組み合わせた場合(n=5)では14%~57%、複数の要素を組み合わせた介入(n=6)では9%~100%であった。ある報告書では、認知障害のある人を対象としたBZRAのデプレスクリプション教育介入について調査し、認知障害のない参加者と同等の有効性を示した。ほとんどの研究はバイアスのリスクが高かった。
結論: 患者主導型介入はBZRAの服用中止につながったが、研究間で有意なばらつきが認められた。検討されたすべての介入が認知障害のある患者に同様に効果的であるかどうかは不明である。高齢者または認知障害のある患者におけるBZRAの減薬方法については、さらなる研究が必要である。
キーワード: 高齢者、ベンゾジアゼピン、認知機能障害、処方薬の中止、睡眠障害。
引用文献
Deprescribing Benzodiazepine Receptor Agonists in Older Adults and People With Cognitive Impairment: A Systematic Review
Aisling M McEvoy et al. PMID: 40342014 DOI: 10.1111/jgs.19512
J Am Geriatr Soc. 2025 May 7. doi: 10.1111/jgs.19512. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40342014/
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