急性冠症候群における二重抗血小板療法からチカグレロル単剤療法への漸減効果は?(RCTのメタ解析; Ann Intern Med. 2025)

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DAPTからチカグレロルへの漸減療法は有効か?

薬剤溶出ステント(DES)留置を受ける急性冠症候群(ACS)患者において、短期間の二重抗血小板療法(DAPT)から強力なP2Y12阻害薬単剤療法への移行が果たす役割については、まだ結論が出ていません。

そこで今回は、ACS患者を対象としたランダム化比較試験から、DAPTをチカグレロル単剤療法にデエスカレーション(漸減)する効果と標準的なDAPTの効果を比較することを目的に実施された個々の患者データのメタ解析の結果をご紹介します。

データ情報源はPubMed、EMBASE、Scopus、ClinicalTrials.gov、開始時点から2024年12月12日まで検索されました。特にDES植込みを受けたACS患者において、12ヵ月間の漸減DAPTをチカグレロル単剤療法とチカグレロルベースの標準DAPTとで比較したランダム化比較試験が対象でした。

本解析の一次エンドポイントは虚血エンドポイント(死亡、非手術的心筋梗塞、脳卒中の複合)と出血エンドポイント(Bleeding Academic Research Consortiumのタイプ3または5の出血)でした。

試験結果から明らかになったことは?

個々の患者データは3件の試験(TICO [Ticagrelor Monotherapy After 3 Months in the Patients Treated With New Generation Sirolimus-Eluting Stent for Acute Coronary Syndrome]、T-PASS [Ticagrelor Monotherapy in Patients Treated With New-Generation Drug-Eluting Stents for Acute Coronary Syndrome])、ULTIMATE-DAPT[Ticagrelor alone versus ticagrelor plus aspirin from month 1 to month 12 after percutaneous coronary intervention in patients with acute coronary syndromes])から得られたデータでは、9,130例のACS患者がランダムに登録されました; 3,132例がST上昇型心筋梗塞(STEMI)、3,023例が非STEMI(NSTEMI)、2,975例が不安定狭心症でした。

チカグレロル単剤群標準的DAPT群ハザード比 HR
(95%CI)
主要虚血エンドポイント1.7%2.1%HR 0.85
0.63~1.16
主要出血エンドポイント0.8%2.5%HR 0.30
0.21~0.45

主要虚血エンドポイントの発生率はチカグレロル単剤群と標準的DAPT群で差がありませんでした(1.7% vs. 2.1%;ハザード比[HR] 0.85、95%CI 0.63~1.16)。

主要出血エンドポイントの発生率はチカグレロル単剤群で低いことが示されました(0.8% vs. 2.5%;HR 0.30、CI 0.21~0.45)。

これらの所見はSTEMI、NSTEMI、不安定狭心症の患者で一貫していました。

試験の限界として、抗血小板療法を調節するための他のデエスカレーション戦略が含まれていないことがあげられます。

コメント

DAPTの実施期間について結論は得られていません。

大規模ランダム化比較試験から得られた個々の患者データに基づくメタ解析の結果、DES留置を受けるACS患者において、DAPTをチカグレロル単剤療法に漸減することは、ACSの種類にかかわらず、虚血イベントを増加させることなく、標準的なDAPTと比較して大出血のリスクを低下させることと関連していました。

試験数は3件と限られていますが、患者数は10,000例弱と充分です。バイアスリスクが残存していることを踏まえても、結果は大きく変わらないものと考えられます。

ただし、そもそもチカグレロルを選択する必要性について疑問が残ります(アジア人を対象とした試験ではfail)。事実、試験によっては従来薬よりもリスクが増加することが示されています。より低コストな他のP2Y12阻害薬よりも明確に優れているのかについての更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 大規模臨床試験のメタ解析の結果、DES留置を受けるACS患者において、DAPTをチカグレロル単剤療法に漸減することは、ACSの種類にかかわらず、虚血イベントを増加させることなく、標準的なDAPTと比較して大出血のリスクを低下させることと関連した。

根拠となった試験の抄録

背景:薬剤溶出ステント(DES)留置を受ける急性冠症候群(ACS)患者において、短期間の二重抗血小板療法(DAPT)から強力なP2Y12阻害薬単剤療法への移行が果たす役割については、まだ結論が出ていない。

目的:ACS患者を対象としたランダム化比較試験から、DAPTをチカグレロル単剤療法にデエスカレーション(漸減)効果と標準的なDAPTの効果を比較する。

データ情報源:PubMed、EMBASE、Scopus、ClinicalTrials.gov、開始時点から2024年12月12日まで。

試験の選択:特にDES植込みを受けたACS患者において、12ヵ月間の漸減DAPTをチカグレロル単剤療法とチカグレロルベースの標準DAPTとで比較したランダム化比較試験。

データの抽出:一次エンドポイントは虚血エンドポイント(死亡、非手術的心筋梗塞、脳卒中の複合)と出血エンドポイント(Bleeding Academic Research Consortiumのタイプ3または5の出血)

データの統合:個々の患者データは3件の試験(TICO [Ticagrelor Monotherapy After 3 Months in the Patients Treated With New Generation Sirolimus-Eluting Stent for Acute Coronary Syndrome]、T-PASS [Ticagrelor Monotherapy in Patients Treated With New-Generation Drug-Eluting Stents for Acute Coronary Syndrome])、ULTIMATE-DAPT[Ticagrelor alone versus ticagrelor plus aspirin from month 1 to month 12 after percutaneous coronary intervention in patients with acute coronary syndromes])から得られ、9,130例のACS患者がランダムに登録された; 3,132例がST上昇型心筋梗塞(STEMI)、3,023例が非STEMI(NSTEMI)、2,975例が不安定狭心症であった。主要虚血エンドポイントの発生率はチカグレロル単剤群と標準的DAPT群で差がなかった(1.7% vs. 2.1%;ハザード比[HR] 0.85、95%CI 0.63~1.16)。主要出血エンドポイントの発生率はチカグレロル単剤群で低かった(0.8% vs. 2.5%;HR 0.30、CI 0.21~0.45)。これらの所見はSTEMI、NSTEMI、不安定狭心症の患者で一貫していた。

試験の限界:抗血小板療法を調節するための他のデエスカレーション戦略は含まれていない。

結論:DES留置を受けるACS患者において、DAPTをチカグレロル単剤療法に漸減することは、ACSの種類にかかわらず、虚血イベントを増加させることなく、標準的なDAPTと比較して大出血のリスクを低下させることと関連した。

主な資金源:なし(PROSPERO:Crd42024565855)

引用文献

De-escalating Dual Antiplatelet Therapy to Ticagrelor Monotherapy in Acute Coronary Syndrome : A Systemic Review and Individual Patient Data Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials
Yong-Joon Lee et al. PMID: 39961108 DOI: 10.7326/ANNALS-24-03102
Ann Intern Med. 2025 Feb 18. doi: 10.7326/ANNALS-24-03102. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39961108/

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