下部消化管出血リスクにおけるNSAIDs+PPI vs. NSAIDs単独使用(共通データモデルによる解析; Gut Liver. 2025)

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プロトンポンプ阻害薬を併用すると下部消化管出血リスクが増加する?

最近の研究で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)の両方を使用している患者では下部消化管出血のリスクが高いことが示されています。しかし、実臨床における検証は充分ではありません。

そこで今回は、下部消化管出血のリスクを解析し、NSAID+PPI使用者とNSAIDのみの使用者の間でこのリスク比較を行った後向きコホート研究の結果をご紹介します。

このレトロスペクティブ観察研究で、5つの病院のデータを共通のデータモデルにより解析し、下部消化管出血のリスクを決定し、NSAID+PPI使用者(対象コホート)とNSAIDのみ使用者(比較コホート)の間でこのリスクが比較されました。

Cox比例ハザードモデルとKaplan-Meier推定は、広範な傾向スコアマッチング後に採用されました。

試験結果から明らかになったことは?

対象コホート24,530人と比較コホート57,264人のうち、傾向スコアマッチングを行った8,728組が解析されました。

ハザード比
(95%CI)
NSAID+PPI vs. NSAID
ハザード比
(95%CI)
NSAID+粘膜保護薬 vs. NSAID
下部消化管出血リスクHR 2.843
1.998~4.044
p<0.001
HR 2.057
0.714~5.924
p=0.172

下部消化管出血のリスクは、NSAID+PPI使用者でNSAIDのみの使用者より有意に高いことが示されました(ハザード比[HR] 2.843、95%信頼区間[CI] 1.998~4.044;p<0.001)。

同様の所見は、65歳以上の高齢者(HR 2.737)、男性(HR 2.963)、女性(HR 3.221)でも認められました。しかし、下部消化管出血のリスクは、NSAID+粘膜保護薬使用者とNSAID単独使用者の間で同等でした(HR 2.057、95%CI 0.714~5.924; p=0.172)。

コメント

スペインで行われた集団ベースの研究によると、1996年から2005年の間に、上部消化管(UGI)合併症/10万人が減少したのに対し、下部消化管(LGI)合併症/10万人は増加しています。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を使用している患者のUGI出血を予防し、消化性潰瘍や胃食道逆流症などの酸関連疾患を治療するために広く使用されています。しかし、最近の臨床試験では、NSAIDsとPPIの両方を使用している患者では、NSAIDsのみを使用している患者よりも小腸損傷の発生率が高いことが示されています。PPIの使用は、NSAIDまたはアスピリン使用者におけるLGI出血のリスク増加と関連している可能性がありますが、結論は得られていません。

さて、後向きコホート研究の結果、下部消化管出血のリスクはNSAID+PPI使用者でNSAID単独使用者よりも高いことが示されました。しかし、下部消化管出血のリスクはNSAID+粘膜保護薬使用者とNSAID単独使用者の間で同等でした。

本研究の限界として、観察研究であることから交絡因子を調整しきれませんが、可能な限りの調整を行うために傾向スコアマッチが行われています。交絡因子よりも結果に影響する要因として、下部消化管出血の定義や診断基準にばらつきがある点です。これについては、今回対象となった5病院間での調整が行われているものと考えられますが、これまでに発表された研究とは異なっている可能性が高いと考えられます。とはいえ、これまでの研究結果と矛盾しないことを踏まえると、ある程度、結果の信頼性があるものと考えられます。

さらにPPIの併用期間については、最低で90日間が設定されています。このため90日未満の患者におけるリスク評価はできませんが、慢性疾患の多くが3か月以上と定義されることから、妥当な設定であると考えられます。

今回は韓国人が対象となっていることから、アジア人である日本人への結果の外挿はある程度可能かもしれません。ただし、PPIの中にはCYPの影響が大きい薬剤もあることから、本研究結果が他の国や地域でも同様に示されるかは不明です。

続報に期待。

+α:NSAID誘発下部消化管出血リスクに関する先行研究

  1. Clin Transl Gastroenterol. 2023(PMID: 37019683
    アウトカム:NSAID関連の小腸障害リスク
    メタ解析:1,996名の被験者を対象とした14件の研究
    結果:PPI併用で、NSAID使用者における内視鏡検査で確認された小腸損傷の発生率と件数が有意に増加し(発生率: OR 3.00、95%CI: 1.74-5.16、件数: MD 2.30、95%CI 0.61-3.99)、ヘモグロビンレベルが低下した(MD -0.50 g/dL、95%CI 0.88 ~ -0.12)が、小腸出血のリスクは変化しなかった(OR 1.24、95%CI 0.80-1.92)ことが実証された。
  2. United European Gastroenterol J. 2023 Nov;11(9):861-873.(PMID: 37553807
    アウトカム:下部消化管(小腸または大腸出血)出血リスク
    メタ解析:341,063人が参加した12件の研究
    結果:PPI使用は、下部消化管(LGI)出血のリスクと関連していた (オッズ比 1.42、95%CI 1.16~1.73、ハザード比 3.23、95%CI 1.56~6.71)。PPI使用とLGI出血リスクとの関連は、アスピリンまたはNSAID使用者のサブグループでも確認された (オッズ比 1.64、95%CI 1.49~1.80、HR 6.55、95%CI 2.01~21.33)。
  3. J Gastroenterol. 2015 Nov;50(11):1079-86.(PMID: 25700638
    アウトカム:下部消化管出血リスク
    症例対照研究:下部消化管出血で緊急入院した355人の患者と出血のない8,221人の患者
    結果:下部消化管出血はPPI使用(調整オッズ比 AOR 0.87、95%CI 0.68~1.13、p=0.311)と有意に関連していないことが明らかになった。また、特にオメプラゾール(AOR 1.18、p=0.408)、エソメプラゾール(AOR 0.76、p=0.432)、ランソプラゾール(AOR 0.93、p=0.669)、ラベプラゾール(AOR 0.63、p=0.140)と有意に関連していないことも明らかになった。交互作用モデルでは、PPIとNSAID(AOR 1.40、p=0.293)、アスピリン(AOR 1.09、p=0.767)、クロピドグレル(AOR 0.99、p=0.985)、ワルファリン(AOR 1.52、p=0.398)の間に有意な交互作用は観察されなかった。
  4. Dig Liver Dis. 2015 Sep;47(9):757-62.(PMID: 26105589
    アウトカム:血管造影検査後3年以内の上部または下部消化管出血
    単施設の後向きコホート研究:虚血性心疾患の冠動脈造影検査を受け低用量アスピリン服用中の患者を対象
    結果:下部消化管出血のリスクは、ワルファリン(HR 15.68、95%CI 4.43~55.53)およびプロトンポンプ阻害薬(HR 6.55、95%CI 2.01~21.32)の併用により増加したが、ヒスタミン-2受容体拮抗薬では増加しなかった。高尿酸血症は下部消化管出血のリスクを低下させた(HR 0.12、95%CI 0.02~0.88)。
  5. Clin Gastroenterol Hepatol. 2016 Jun;14(6):809-815.e1.(PMID: 26538205
    アウトカム:2回目のカプセル内視鏡検査での粘膜損傷の発生率
    二重盲検ランダム化比較試験:57人の健康な被験者が対象
    結果:セレコキシブ(200mg、1日2回)+ラベプラゾール(20mg、1日1回)群では、小腸損傷を発症した被験者の割合がセレコキシブ+プラセボ群 (30人中5人、16.7%、P=0.04) よりも有意に高かった (27人中12人、44.4%)。COX-2+PPI 群の被験者は、COX-2+プラセボ群と比較して小腸損傷のリスクが有意に高かった(相対リスク 2.67、95%CI、1.08~6.58)。COX-2+PPI群の各被験者のびらん数は、COX-2+プラセボ群の各被験者よりも多かった(P=0.02)。潰瘍数はグループ間で差がなかった。COX-2+PPI群の被験者の26%に空腸の粘膜損傷が発生したのに対し、COX-2+プラセボ群の被験者では誰も発生しなかった(P=0.003)。回腸ではそのような傾向はみられなかった。
  6. J Clin Gastroenterol. 2016 Mar;50(3):218-26.(PMID: 26166140
    アウトカム:小腸損傷
    ランダム化比較試験:150人の健康なボランティア(40~70歳)が登録
    結果:治療後に少なくとも1つの粘膜破綻があった被験者の割合は、セレコキシブ群(10%)の方がロキソプロフェン群(49%)よりも低かった(P<0.0001)。治療後の小腸粘膜破綻は、セレコキシブ群で合計0.3±1.0件、ロキソプロフェン群で6.8±21.5件検出された(P<0.0001)。ロキソプロフェン群の治療後のヘモグロビン濃度(5.1%減少)は、セレコキシブ群(2.1%減少)と比較して低かった(P=0.006)。

+α:NSAID誘発消化管出血・胃腸障害に対するレバミピド、イルソグラジンの効果検証

  1. Dig Dis Sci. 2013 Jul;58(7):1991-2000.(PMID: 23456504
    アウトカム:薬剤関連の胃腸障害
    メタ解析:965名を対象とした15件のRCTが対象。
    結果:レバミピドは従来の戦略(PPI、H2RA、ミソプロストール治療を含む)と同等か、優越しないことが示された。プラセボ群と比較して小腸障害に対して有益な効果を示した(総RR 2.70、95%CI 1.02~7.16、P=0.045)。有害事象の平均発生率は約36.1%(0〜70.0%)であったが、重篤な事象は記録されなかった。
  2. Sci Rep. 2022 Feb 16;12(1):2631.(PMID: 35173236
    アウトカム:NSAID関連下部消化管障害に対するthe reporting odds ratio (ROR)
    データベース研究(シグナル検出):the FDA Adverse Event Reporting System (FAERS) and the Japanese Adverse Event Reporting Database (JADER)
    結果:ロキソプロフェンおよびジクロフェナクとのレバミピド併用について計算された報告オッズ比および95%CIは次の通り:FAERS それぞれ1.15(95%CI 0.88-1.51)、1.28(95%CI 0.82-2.01)。JADER それぞれ0.50(95%CI 0.35-0.71)、0.43(95%CI 0.27-0.67)。
  3. J Gastroenterol. 2014 Feb;49(2):239-44.(PMID: 23595613
    アウトカム:小腸の潰瘍とびらんの数
    ランダム化比較試験:3か月以上低用量アスピリンおよび/またはNSAIDを服用している患者を対象に4週間レバミピドを1日3回投与。小腸びらん数の変化はレバミピド群で-2.5±3.4、プラセボ群で2.1±3.9であった (P<0.0001)。小腸潰瘍数の変化はレバミピド群で-0.5±1.6、プラセボ群で0.1±0.7であった (P=0.024)。
  4. BMC Gastroenterol. 2013 May 14:13:85.(PMID: 23672202
    アウトカム:食道炎、消化性潰瘍、小腸損傷
    ランダム化比較試験:32人の健康なボランティアを対象
    結果:治療前後の食道、胃、十二指腸の病変スコアの変化に関して、ジクロフェナクナトリウム75mg+イルソグラジン4mg群とジクロフェナクナトリウム75mgとオメプラゾール10mgとの間に有意差はなかった。NSAID治療により、カプセル内視鏡評価による被験者あたりの小腸粘膜損傷数が、オメプラゾール併用群では0.1±0.3から1.9±2.0と病変が有意に増加した(p=0.0002)。対照的に、イルソグラジン群では併用治療前後の粘膜損傷数の平均に有意な変化はなく(0.3±0.8から0.5±0.7、p=0.62)、グループ間差は有意でした(p=0.0040)。便中カルプロテクチン濃度は、治療前濃度を1とした場合、オメプラゾール群(1.0±0.0から18.1±37.1へ変化、p=0.0002)、イルソグラジン群(1.0±0.0から6.0±11.1へ変化、p=0.0280)ともに有意に増加し、増加の程度はイルソグラジン群と比較してオメプラゾール群で有意に高かった(p<0.05)。また、便潜血値はオメプラゾール群で有意に増加したが(p=0.0018)、イルソグラジン群では変化がなかった(p=1.0)ため、群間差は有意であった(p=0.0031)。
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✅まとめ✅ 後向きコホート研究の結果、下部消化管出血のリスクはNSAID+PPI使用者でNSAID単独使用者よりも高かった。しかし、下部消化管出血のリスクはNSAID+粘膜保護薬使用者とNSAID単独使用者の間で同等であった。

根拠となった試験の抄録

背景/目的:最近の研究で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とプロトンポンプ阻害薬(PPI)の両方を使用している患者では下部消化管出血のリスクが高いことが示されている。われわれは下部消化管出血のリスクを解析し、NSAID+PPI使用者とNSAIDのみの使用者の間でこのリスクを比較した。

方法:このレトロスペクティブ観察研究において、5つの病院のデータを共通のデータモデルを用いて解析し、下部消化管出血のリスクを決定し、NSAID+PPI使用者(対象コホート)とNSAIDのみ使用者(比較コホート)の間でこのリスクを比較した。Cox比例ハザードモデルとKaplan-Meier推定は、広範な傾向スコアマッチング後に採用された。

結果:対象コホート24,530人と比較コホート57,264人のうち、傾向スコアマッチングを行った8,728組を解析した。下部消化管出血のリスクは、NSAID+PPI使用者でNSAIDのみの使用者より有意に高かった(ハザード比[HR] 2.843、95%信頼区間[CI] 1.998~4.044;p<0.001)。同様の所見は、65歳以上の高齢者(HR 2.737)、男性(HR 2.963)、女性(HR 3.221)でも認められた。しかし、下部消化管出血のリスクは、NSAID+粘膜保護薬使用者とNSAID単独使用者の間で同等であった(HR 2.057、95%CI 0.714~5.924; p=0.172)。

結論:下部消化管出血のリスクはNSAID+PPI使用者でNSAID単独使用者よりも高かった。しかし、下部消化管出血のリスクはNSAID+粘膜保護薬使用者とNSAID単独使用者の間で同等であった。

キーワード:出血;非ステロイド性抗炎症薬;プロトンポンプ阻害薬

引用文献

Risk of Lower Gastrointestinal Bleeding in Nonsteroidal Anti-inflammatory Drug (NSAID) and Proton Pump Inhibitor Users Compared with NSAID-Only Users: A Common Data Model Analysis
Moonhyung Lee et al. PMID: 39748650 DOI: 10.5009/gnl240247
Gut Liver. 2025 Jan 3. doi: 10.5009/gnl240247. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39748650/

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