変形性膝関節症の膝痛に対する細胞ベース注射の効果は?
様々な種類の細胞注射が、変形性膝関節症患者に対する人気の高い、費用のかかる治療選択肢となっていますが、互いの有効性や副腎皮質ステロイド注射との相対的な有効性を立証する文献はほとんどありません。
そこで今回は、副腎皮質ステロイド注射(corticosteroid injection, CSI)と比較して、自家骨髄吸引濃縮液、自家脂肪間質血管画分、同種ヒト臍帯組織由来間葉系間質細胞から作製された細胞ベース注射の安全性と有効性を明らかにすることを目的とした単盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験は、変形性膝関節症(Kellgren-Lawrence II-IV)と診断された480例の患者を対象とした、第2/3相、4群並行、多施設、単盲検、ランダム化、対照臨床試験でした。参加者は3:1の割合で以下の3群にランダムに割り付けられました。
第1群:骨髄濃縮液(n=120)、CSI(n=40)
第2群:臍帯組織由来間葉系間質細胞(n=120)、CSI(n=40)
第3群:間質血管細胞分画(n=120)、CSI(n=40)
本試験の主要評価項目は、ベースラインに対する12ヵ月後のvisual analog scale疼痛スコアとKnee injury and Osteoarthritis Outcome Score疼痛スコアでした。
試験結果から明らかになったことは?
VAS疼痛スコア | KOOS疼痛スコア | |
骨髄濃縮液 (Bone marrow aspirate concentrate, BMAC) | 95 | 95 |
間質血管細胞分画 (Stromal vascular fraction, SVF) | 91 | 92 |
臍帯血由来間葉系幹細胞 (Umbilical cord tissue MSCs, UCT) | 98 | 98 |
副腎皮質ステロイド注射 (Corticosteroid injection, CSI) | 97 | 96 |
440例の患者を対象とした主要エンドポイントの解析の結果、注射後1年の時点では、3つの生物学的製剤注射のいずれもが、対照の副腎皮質ステロイド注射よりも優れていませんでした。
さらに、MRIによる変形性関節症のスコアは、4群ともベースラインと比較して有意な変化を示しませんでした。
試験期間中、手技に関連した重篤な有害事象は報告されませんでした。
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変形性膝関節症は、膝関節の軟骨が減少することにより疼痛が引き起こされる加齢関連疾患の一つです。軟骨の再生が困難であることから、保存療法としての疼痛緩和(副腎皮質ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬などによる対症療法)が行われてきました。
2000年代になり、細胞ベース製剤が開発されてきたことから、人々の関心は根治的療法にシフトしてきています。しかし、細胞ベース製剤の有効性や副腎皮質ステロイド注射との有効性・安全性の比較は充分に行われていません。
さて、単盲検のランダム化比較試験の結果、変形性膝関節症に対して、注射後1年の時点では、副腎皮質ステロイド注射と比較して優れた矯正生物学的効果は認められませんでした。
本試験の対象となった患者は、年齢が約58歳(60歳以上:48%)、女性が55%、BMIが約30kg/m2、Kellgren-LawrenceのGrade 2が143例(30%)、Grade 3が191例(40%)、Grade 4が141例(30%)でした。特にGrade 4が30%含まれていることは、本試験の重要なリミテーションであり、細胞ベース製剤の効果が充分に発揮されない設定になっていると考えられます。また、Grade 3が40%含まれている点もリミテーションであり、膝関節の可動域が制限されていた可能性が高いと考えられます。
変形性膝関節症の治療においては、関節周囲の筋肉や腱が固くならないようにストレッチや適度な筋肉トレーニングを実施する必要があります。また、膝軟骨の再生に時間がかかることから、追跡期間が1年間であったこともリミテーションであると考えられます。より長期間の有効性・安全性の検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 単盲検ランダム化比較試験の結果、変形性膝関節症に対して、注射後1年の時点では、副腎皮質ステロイド注射と比較して優れた矯正生物学的効果は認められなかったことを示している。
根拠となった試験の抄録
背景:様々な種類の細胞注射が、変形性膝関節症患者に対する人気の高い、費用のかかる治療選択肢となっているが、互いの有効性や副腎皮質ステロイド注射との相対的な有効性を立証する文献はほとんどない。ここでは、副腎皮質ステロイド注射(corticosteroid injection, CSI)と比較して、自家骨髄吸引濃縮液、自家脂肪間質血管画分、同種ヒト臍帯組織由来間葉系間質細胞からの細胞注射の安全性と有効性を明らかにすることを目的とした。
方法:この試験は、変形性膝関節症(Kellgren-Lawrence II-IV)と診断された480例の患者を対象とした、第2/3相、4群並行、多施設、単盲検、ランダム化、対照臨床試験である。参加者は3:1の割合で3群にランダムに割り付けられた。
第1群:自家骨髄吸引濃縮液(n=120)、CSI(n=40)
第2群:臍帯組織由来間葉系間質細胞(n=120)、CSI(n=40)
第3群:間質血管分画(n=120)、CSI(n=40)
主要評価項目は、ベースラインに対する12ヵ月後のvisual analog scale疼痛スコアとKnee injury and Osteoarthritis Outcome Score疼痛スコアであった。
結果:440例の患者を対象とした主要エンドポイントの解析の結果、注射後1年の時点では、3つの生物学的製剤注射のいずれもが、対照の副腎皮質ステロイド注射よりも優れていなかった。さらに、MRIによる変形性関節症のスコアは、4群ともベースラインと比較して有意な変化を示さなかった。試験期間中、手技に関連した重篤な有害事象は報告されなかった。
結論:以上のことから、本研究は、変形性膝関節症に対して、注射後1年の時点では、副腎皮質ステロイド注射と比較して優れた矯正生物学的効果は認められなかったことを示している。
試験登録番号:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT03818737
引用文献
Cell-based versus corticosteroid injections for knee pain in osteoarthritis: a randomized phase 3 trial
Ken Mautner et al. PMID: 37919438 DOI: 10.1038/s41591-023-02632-w
Nat Med. 2023 Nov 2. doi: 10.1038/s41591-023-02632-w. Online ahead of print.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37919438/
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