1型糖尿病治療におけるテプリズマブの効果はどのくらい?(RCTのSR&MA; Diabetes Obes Metab. 2024)

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テプリズマブは1型糖尿病が発症した後でも効果があるのか?

糖尿病は大きく1型糖尿病と2型糖尿病に分けられ、そのほとんどが2型糖尿病です。遺伝的素因が強いとされ、多くの経口治療薬や注射薬が販売されています。一方、1型糖尿病の発症は原因不明とされており、仮説として遺伝的な因子に加えてウイルス感染などが引き金となって膵臓のβ細胞に対する自己免疫異常が引き起こされ、発症すると考えられています。2型糖尿病とは異なり、治療の基本はインスリン注射です。

1型糖尿病の発症リスクが高い者では、自己抗体が出現するステージ1、血糖値異常が生じ始めるステージ2を経て、1型糖尿病の診断であるステージ3に至ります。1型糖尿病の症状としては、高血糖にともなう多尿、口喝、多飲、インスリン分泌低下に伴う体重減少などがあります。さらに、インスリン作用不足に伴い体内のケトン体が過度に蓄積すると、腹痛や嘔吐などの消化器症状、過呼吸などを認めるようになります。さらに進行すると意識障害をきたすようになります。

薬物治療や運動療法、食事療法により病態の是正が可能な2型糖尿病と比較して、1型糖尿病では生涯インスリン注射(※経口薬の開発も進んでいる)を行う必要があります。そのため、1型糖尿病の発症を予防することが求められています。

キラーT細胞上は本来、害を及ぼすバクテリアやウィルスなどを破壊し我々の身体を保護しています。しかし、1型糖尿病においては、膵β細胞を攻撃対象とする抗体の一種を産生してしまいます。テプリズマブは、T細胞上にあるCD3に結合するモノクローナル抗体であり、T細胞の活性を弱めることで膵β細胞を保護します。しかし、実臨床における検証は充分ではありません。

そこで今回は、ステージ3の1型糖尿病(T1DM)治療におけるテプリズマブの最新の有効性および安全性情報を提供するために実施されたメタ解析の結果をご紹介します。

本解析では、PubMed、Embase、Cochraneの各データベースから、T1DMに対するテプリズマブとプラセボを比較したランダム化比較試験(RCT)が検索されました。RCTは以下のいずれかのアウトカムを報告したものが対象でした:(1)C-ペプチドの曲線下面積(AUC)、(2)糖化ヘモグロビン(HbA1c)値、(3)インスリン必要量、(4)有害事象。

異質性はI2統計で検討され、統計学的有意性としてp値<0.05が採用されました。連続エンドポイントはプールされた平均差(MD)を用いて比較し、バイナリーエンドポイントはリスク比を用いて評価されました。統計解析にはReview Manager Webソフトウェアが用いられました。

試験結果から明らかになったことは?

1,052例の患者(754例がテプリズマブ投与)を対象とした8件のRCTが組み入れられました。

C-ペプチド値のAUC平均差 MD
(95%CI)
vs. プラセボ
6ヵ月時MD 0.10nmol/L(0.05〜0.16
12ヵ月時MD 0.13nmol/L(0.06〜0.20
18ヵ月時MD 0.18nmol/L(0.09〜0.27
24ヵ月時MD 0.16nmol/L(0.02〜0.31
HbA1c値平均差 MD
(95%CI)
vs. プラセボ
6ヵ月時MD -0.57%(-1.07 〜 -0.08
12ヵ月時MD -0.31%(-0.59 〜 -0.02
インスリン必要量平均差 MD
(95%CI)
vs. プラセボ
6ヵ月時MD -0.12U/kg(-0.16 〜 -0.08
12ヵ月時MD -0.11U/kg(-0.15 〜 -0.07
18ヵ月時MD -0.17U/kg(-0.26 〜 -0.09
24ヵ月時MD -0.11U/kg(-0.22 〜 -0.01

テプリズマブは、6ヵ月時(MD 0.10nmol/L、95%CI 0.05〜0.16)、12ヵ月時(MD 0.13nmol/L、95%CI 0.06〜0.20)、18ヵ月時(MD 0.18nmol/L、95%CI 0.09〜0.27)、24ヵ月時(MD 0.16nmol/L、95%CI 0.02〜0.31)のC-ペプチド値のAUCを有意に増加させ、6ヵ月時(MD -0.57%、95%CI -1.07 〜 -0.08)、12ヵ月後(MD -0.31%、95%CI -0.59 〜 -0.02)のHbA1c値を有意に低下させ、6ヵ月後(MD -0.12U/kg、95%CI -0.16 〜 -0.08)、12ヵ月後(MD -0.11U/kg、95%CI -0.15 〜 -0.07)、18ヵ月後(MD -0.17U/kg、95%CI -0.26 〜 -0.09)、24ヵ月後(MD -0.11U/kg、95%CI -0.22 〜 -0.01)のインスリン必要量が有意に減少しました。

コメント

米国においては、2022年11月17日に米国食品医薬品局(FDA)がモノクローナル抗体であるテプリズマブを承認しています。一方、日本では承認されていません(2024年4月時点)。

さて、ランダム化比較試験のメタ解析の結果、テプリズマブは、重篤な有害事象のリスクを上昇させることなく、C-ペプチド値のAUCを増加させ、HbA1c値およびインスリン使用量を減少させました。

統合結果の異質性や各バイアスリスク、具体的な有害事象については抄録から読み取れないことから、結果の解釈に注意を要します。とはいえ、2年間の介入結果は、プラセボよりも有効性に優れていることが示されました。1型糖尿病の発症予防は医療におけるアンメットニーズの1つであることから非常に期待の持てる結果です。より大規模化つ長期的な有効性・安全性の検証が求められます。

続報に期待。

blood sugar meter with syringe

✅まとめ✅ ランダム化比較試験のメタ解析の結果、テプリズマブは、重篤な有害事象のリスクを上昇させることなく、C-ペプチド値のAUCを増加させ、HbA1c値およびインスリン使用量を減少させた。

根拠となった試験の抄録

目的:ステージ3の1型糖尿病(T1DM)治療におけるテプリズマブの最新の有効性および安全性情報を提供する。

材料と方法PubMed、Embase、Cochraneの各データベースから、T1DMに対するテプリズマブとプラセボを比較したランダム化比較試験(RCT)のうち、以下のいずれかのアウトカムを報告したものを検索した:(1)C-ペプチドの曲線下面積(AUC)、(2)糖化ヘモグロビン(HbA1c)値、(3)インスリン必要量、(4)有害事象。異質性はI2統計で検討され、p値<0.05は統計学的有意性を示した。連続エンドポイントはプールされた平均差(MD)を用いて比較し、バイナリーエンドポイントはリスク比を用いて評価した。統計解析はReview Manager Webソフトウェアを用いて行った。

結果:1,052例の患者(754例がテプリズマブ投与)を対象とした8件のRCTが組み入れられた。テプリズマブは、6ヵ月時(MD 0.10nmol/L、95%CI 0.05〜0.16)、12ヵ月時(MD 0.13nmol/L、95%CI 0.06〜0.20)、18ヵ月時(MD 0.18nmol/L、95%CI 0.09〜0.27)、24ヵ月時(MD 0.16nmol/L、95%CI 0.02〜0.31)のC-ペプチド値のAUCを有意に増加させ、6ヵ月時(MD -0.57%、95%CI -1.07 〜 -0.08)、12ヵ月後(MD -0.31%、95%CI -0.59 〜 -0.02)のHbA1c値を有意に低下させ、6ヵ月後(MD -0.12U/kg、95%CI -0.16 〜 -0.08)、12ヵ月後(MD -0.11U/kg、95%CI -0.15 〜 -0.07)、18ヵ月後(MD -0.17U/kg、95%CI -0.26 〜 -0.09)、24ヵ月後(MD -0.11U/kg、95%CI -0.22 〜 -0.01)のインスリン必要量が有意に減少した。

結論:テプリズマブは、重篤な有害事象のリスクを上昇させることなく、C-ペプチド値のAUCを増加させ、HbA1c値およびインスリン使用量を減少させた。

キーワード:C-ペプチド、T1DM、抗CD3モノクローナル抗体、メタ解析、系統的レビュー、テプリズマブ、1型糖尿病

引用文献

Safety and efficacy of teplizumab in the treatment of type 1 diabetes mellitus: An updated systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials
Gabriel Grando Alves et al. PMID: 38602411 DOI: 10.1111/dom.15581
Diabetes Obes Metab. 2024 Apr 11. doi: 10.1111/dom.15581. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38602411/

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