心房細動患者においてアピキサバンまたはリバーロキサバンとジルチアゼムを併用した場合の重篤な出血(後向きコホート研究; JAMA. 2024)

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アピキサバンやリバーロキサバンにジルチアゼムを併用すると?

心房細動患者に一般的に処方される心室速度抑制薬であるジルチアゼムは、アピキサバンやリバーロキサバンの排泄を阻害し、過剰抗凝固を引き起こす可能性があります。しかし、患者転帰については充分に検証されていません。

そこで今回は、心房細動でジルチアゼムまたはメトプロロールによる治療を受けておりアピキサバンまたはリバーロキサバンの新規使用者における重篤な出血リスクを比較したコホート研究の結果をご紹介します。

レトロスペクティブコホート研究は、2012年1月1日~2020年11月29日にアピキサバンまたはリバーロキサバンの使用を開始し、同時にジルチアゼムまたはメトプロロールによる治療を開始した65歳以上の心房細動を有するメディケア受給者が対象でした。患者は2020年11月30日まで365日間追跡されました。データは2023年8月から2024年2月まで解析されました。

本研究の主要アウトカムは出血に関連した入院と最近の出血を伴う死亡の複合でした。副次的アウトカムは虚血性脳卒中または全身性塞栓症、重大な虚血性イベントまたは出血性イベント(虚血性脳卒中、全身性塞栓症、頭蓋内出血または致命的な頭蓋外出血、最近の出血の証拠を伴う死亡)、最近の出血の証拠を伴わない死亡でした。ハザード比(HR)および率差(RD)はオーバーラップ加重により共変量の差で調整されました。

試験結果から明らかになったことは?

本研究には204,155人の米国メディケア受給者が含まれ、このうち53,275人にジルチアゼムが、150,880人にメトプロロールが投与されました。研究患者(平均年齢 76.9[SD 7.0]歳;女性 52.7%)の追跡期間は90,927人・年(PY)でした(中央値 120、IQR 59〜281日)。

ジルチアゼム投与患者 vs. メトプロロール投与患者率差 RD
(95%CI)
ハザード比 HR
(95%CI)
主要アウトカムRD 10.6/1,000PY
7.0〜14.2
HR 1.21
1.13〜1.29
・出血関連入院RD 8.2/1,000PY
5.1〜11.4
HR 1.22
1.13〜1.31
・出血の最近の証拠を伴う死亡RD 2.4/1,000PY
0.6〜4.2
HR 1.19
1.05〜1.34

ジルチアゼム治療を受けていた患者では、メトプロロール投与患者と比較して、主要アウトカム(RD 10.6/1,000PY、95%CI 7.0〜14.2;HR 1.21、95%CI 1.13〜1.29)およびその構成因子である出血関連入院(RD 8.2/1,000PY、95%CI 5.1〜11.4;HR 1.22、95%CI 1.13〜1.31)および出血の最近の証拠を伴う死亡(RD 2.4/1,000PY、95%CI 0.6〜4.2;HR 1.19、95%CI 1.05〜1.34)のリスクが増加しました。

ジルチアゼムの初回投与量が120mg/日を超えた場合の主要アウトカムのリスク(RD 15.1/1,000PY、95%CI 10.2〜20.1;HR 1.29、95%CI 1.19〜1.39)は、低用量の場合(RD 6.7/1,000PY、95%CI 2.0〜11.4;HR 1.13、95%CI 1.04〜1.24)よりも大きいことが示されました。120mg/日を超える用量では、重大な虚血性または出血性イベントのリスクが増加しました(HR 1.14、95%CI 1.02〜1.27)。いずれの用量群でも虚血性脳卒中、全身性塞栓症、または最近の出血を認めない死亡のリスクに有意な変化はみられませんでした。高用量と低用量のジルチアゼム治療を受けた患者を直接比較すると、主要転帰のHRは1.14(95%CI 1.02〜1.26)でした。

コメント

心房細動患者におけるジルチアゼムとの薬物相互作用が患者転帰に及ぼす影響については不明です。2024年3月時点の添付文書(ジルチアゼムベラパミル)については、DOACとの相互作用については記載されていません。

さて、後向きコホート研究の結果、アピキサバンまたはリバーロキサバンを投与されている心房細動のメディケア患者において、ジルチアゼムはメトプロロールよりも重篤な出血のリスクが高く、特にジルチアゼム投与量が120mg/日を超える場合にはそのリスクが高いことが報告されました。

これまでの報告で、一貫した結果は示されていません。2019年の報告(PMID: 30893910)では、ベラパミルがリバーロキサバンの全身曝露を2.8倍増加させ、これはP糖蛋白(P-糖蛋白)やBCRP(乳癌耐性蛋白)などの排泄トランスポーターの影響である可能性が示されています。一方で、ジルチアゼムは有意な効果を示しませんでした。ただし本研究はラットのPK/PDモデルです。ヒトを対象とした研究結果については以下です。
・2017年(PMID: 28973247):台湾の後向きコホート研究。NOAC単独使用と比較して、大出血の調整後の発生率は、ベラパミルやジルチアゼムとの同時使用において有意差はありませんでした。
・2020年(PMID: 32329770):米国のデータベース研究。腎機能が正常な個人において、ダビガトランをP-gp阻害剤のベラパミルおよびジルチアゼムと併用した場合、出血リスクが増加。
・2021年(PMID: 34287842):コホート内症例対照研究。ダビガトランまたはリバーロキサバンとベラパミルの同時処方、およびリバーロキサバンとアミオダロンの同時処方は、重篤な出血のリスク増加と関連。
・2021年(PMID: 35386137):カナダ、オンタリオ州の後向きコホート研究。66歳以上のDOACユーザーでは、アミオダロン、ベラパミル、およびジルチアゼムによる出血リスクは比較対照薬による出血リスクと同様。
・2022年(PMID: 35861836):コホート研究。ジルチアゼムとDOACの併用は、慢性腎臓病と非慢性腎臓病の両方のサブグループにおいて一貫して、心房細動患者の出血リスクの増加と関連。
・2023年(PMID: 37184597):アミオダロン、ベラパミル、ジルチアゼムなどの抗不整脈薬への曝露は、リバーロキサバンまたはアピキサバン投与中の心房細動患者における出血による入院リスクの増加とは関連しなかった。
・2023年(PMID: 36795612):日本のデータベース研究。JADER分析の結果、出血はエドキサバンおよびベラパミルによる治療と有意に関連。コホート研究では、ベラパミル治療群とベプリジル治療群の間で出血の発生率が有意に異なり、ベラパミル群の方が出血リスクが高かった。多変量コックス比例ハザードモデルでは、ベラパミルとDOACの併用は、ベプリジルとDOACの併用と比較して、出血事象と有意に関連。さらに、クレアチニンクリアランス(Ccr)≧50mL/minは出血事象と有意に関連しており、Ccr≧50mLの患者ではベラパミルは出血と有意に関連、一方Ccr<50mL/min の患者では関連がみられなかった。

2023年11月30日、米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)など関連4学会による「心房細動診療ガイドライン2023年版」が発表されました。治療に関しては早期からのリズムコントロール治療の重要性がより強調され、カテーテルアブレーション治療の推奨度が上げられました。この背景として、近年発表されたランダム化比較試験の結果が挙げられます。

心房細動において、抗凝固薬の投与は全例で求められるでしょう。一方、抗不整脈薬については症例ごとに異なり、使用される薬剤も異なります。前述の診療ガイドラインの推奨を踏まえれば、早期のリズムコントロールが求められます。具体的な薬剤としては、ピルシカイニド、アミオダロン、ソタロール、ジソピラミド、フレカイニド、プロパフェノンなどです。一方、レートコントロールとしてはβ遮断薬や(非ジヒドロピリジン系)カルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)が使用されます。

どのような心房細動患者でジルチアゼムが必要となるのか、更なる検証が求められます。

アピキサバンまたはリバーロキサバン使用者において、ジルチアゼムの併用は避けた方がよく、どうしても使用する場合には、継続的なモニタリングが求められます。

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✅まとめ✅ 後向きコホート研究の結果、アピキサバンまたはリバーロキサバンを投与されている心房細動のメディケア患者において、ジルチアゼムはメトプロロールよりも重篤な出血のリスクが高く、特にジルチアゼム投与量が120mg/日を超える場合にはそのリスクが高かった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:心房細動患者に一般的に処方される心室速度抑制薬であるジルチアゼムは、アピキサバンやリバーロキサバンの排泄を阻害し、過剰抗凝固を引き起こす可能性がある。

目的:心房細動でジルチアゼムまたはメトプロロールによる治療を受けたアピキサバンまたはリバーロキサバンの新規使用者の重篤な出血リスクを比較すること。

試験デザイン、設定、参加者:本レトロスペクティブコホート研究は、2012年1月1日~2020年11月29日にアピキサバンまたはリバーロキサバンの使用を開始し、同時にジルチアゼムまたはメトプロロールによる治療を開始した65歳以上の心房細動を有するメディケア受給者を対象とした。患者は2020年11月30日まで365日間追跡された。データは2023年8月から2024年2月まで解析された。

曝露:ジルチアゼムとメトプロロール。

主要アウトカムと評価基準主要アウトカムは出血に関連した入院と最近の出血を伴う死亡の複合であった。副次的アウトカムは虚血性脳卒中または全身性塞栓症、重大な虚血性イベントまたは出血性イベント(虚血性脳卒中、全身性塞栓症、頭蓋内出血または致命的な頭蓋外出血、最近の出血の証拠を伴う死亡)、最近の出血の証拠を伴わない死亡とした。ハザード比(HR)および率差(RD)はオーバーラップ加重により共変量の差で調整した。

結果:本研究には204,155人の米国メディケア受給者が含まれ、このうち53,275人にジルチアゼムが、150,880人にメトプロロールが投与された。研究患者(平均年齢 76.9[SD 7.0]歳;女性 52.7%)の追跡期間は90,927人・年(PY)であった(中央値 120、IQR 59〜281日)。ジルチアゼム治療を受けていた患者では、メトプロロール投与患者と比較して、主要アウトカム(RD 10.6/1,000PY、95%CI 7.0〜14.2;HR 1.21、95%CI 1.13〜1.29)およびその構成因子である出血関連入院(RD 8.2/1,000PY、95%CI 5.1〜11.4;HR 1.22、95%CI 1.13〜1.31)および出血の最近の証拠を伴う死亡(RD 2.4、95%CI 0.6〜4.2/1,000PY;HR 1.19、95%CI 1.05〜1.34)のリスクが増加した。ジルチアゼムの初回投与量が120mg/日を超えた場合の主要アウトカムのリスク(RD 15.1/1,000PY、95%CI 10.2〜20.1;HR 1.29、95%CI 1.19〜1.39)は、低用量の場合(RD 6.7/1,000PY、95%CI 2.0〜11.4;HR 1.13、95%CI 1.04〜1.24)よりも大きかった。120mg/日を超える用量では、重大な虚血性または出血性イベントのリスクが増加した(HR 1.14、95%CI 1.02〜1.27)。いずれの用量群でも虚血性脳卒中、全身性塞栓症、または最近の出血を認めない死亡のリスクに有意な変化はみられなかった。高用量と低用量のジルチアゼム治療を受けた患者を直接比較すると、主要転帰のHRは1.14(95%CI 1.02〜1.26)であった。

結論と関連性:アピキサバンまたはリバーロキサバンを投与されている心房細動のメディケア患者において、ジルチアゼムはメトプロロールよりも重篤な出血のリスクが高く、特にジルチアゼム投与量が120mg/日を超える場合にはそのリスクが高かった。

引用文献

Serious Bleeding in Patients With Atrial Fibrillation Using Diltiazem With Apixaban or Rivaroxaban
Wayne A Ray et al. PMID: 38619832 DOI: 10.1001/jama.2024.3867
JAMA. 2024 Apr 15. doi: 10.1001/jama.2024.3867. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38619832/

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