ナイアシンによる心血管リスクはどのくらいなのか?
ナイアシンは、ニコチン酸とニコチン酸アミドの総称であり、ビタミンB₃とも呼ばれています。水溶性ビタミンの1つでありビタミンB複合体に分類されています。糖質・脂質・タンパク質の代謝に不可欠であることから、不足すると食欲不振や消化不良、発疹などの皮膚症状が認められます。
心血管疾患(CVD)予防のための集中的な取り組みにもかかわらず、診療ガイドラインで推奨されているすべての介入を受けている人であっても、かなりのCVDリスクが残存しています。
ナイアシンは主食に含まれる必須微量栄養素ですが、CVDにおける役割は明らかになっていません。
そこで今回は、過剰ナイアシンの末端代謝物であるN1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド(2PY)およびN1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド(4PY)と心血管疾患リスクとの関連性について検証した研究結果をご紹介します。
事前に、前向き発見コホート(n=1,162、n=422女性)の安定した心臓病患者の空腹時血漿を対象とした非標的メタボローム解析により、ナイアシン代謝が主要有害心血管イベント(MACE)の発症と関連することが示唆されています。
試験結果から明らかになったことは?
3年MACEリスク | 米国コホート | 欧州コホート |
2PY | aHR 1.64 (95%CI 1.10〜2.42) | aHR 2.02 (95%CI 1.29〜3.18) |
4PY | aHR 1.89 (95%CI 1.26〜2.84) | aHR 1.99 (95%CI 1.26〜3.14) |
過剰ナイアシンの末端代謝物である2PYおよび4PYの血清レベルは、2つの検証コホート(米国:合計2,331人、女性 774人、欧州:合計832人、女性 249人)において、3年MACEリスクの上昇と関連していました(2PYの補正後ハザード比(aHR)1.64、95%信頼区間 1.10〜2.42および2.02、95%CI 1.29〜3.18);4PY:それぞれ1.89、95%CI 1.26〜2.84および1.99、95%CI 1.26〜3.14)。
2PYと4PYの両方に有意に関連した遺伝子変異rs10496731のゲノムワイド関連解析により、この変異と可溶性血管接着分子1(sVCAM-1)のレベルとの関連が明らかになりました。さらにメタ解析を行ったところ、rs10496731とsVCAM-1との関連が確認されました(n=106,000、n=53,075女性、P=3.6×10-18)。
さらに、検証コホート(n=974、n=333女性)において、sVCAM-1レベルは2PYおよび4PYの両方と有意に相関していました(2PY:rho=0.13、P=7.7×10-5、4PY:rho=0.18、P=1.1×10-8)。
最後に、生理的レベルの4PYを投与すると、その構造異性体である2PYではなく、VCAM-1の発現が誘導され、マウスの血管内皮に白血球が接着しました。
コメント
代謝物(metabolite, メタボライト)を網羅解析することを「メタボロミクス」あるいは「メタボローム」と呼びます。生体内の代謝がどのように変化しているかを把握することができ、生命現象を更に深く理解することが可能となりました。標的、非標的メタボロームがあり、非標的メタボロームは探索的要素が強く、相対的な定量が行えます。
さて、検証的コホート研究の結果、過剰なナイアシンの末端分解産物である2PYと4PYは、いずれも新血管疾患リスクの残存に関連することが示されました。また、4PYと主要有害心血管イベントとの臨床的関連性の根底には炎症依存性の機序があることも示唆されました。
水溶性ビタミンは脂溶性ビタミンと比較して、過剰摂取によるリスクは少ないと考えられていますが、分解産物によるリスク増加の可能性があるようです。まだまだ検証段階であるため、追試が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 過剰なナイアシンの末端分解産物である2PYと4PYは、いずれもCVDリスクの残存に関連することが示された。また、4PYとMACEとの臨床的関連性の根底には炎症依存性の機序があることも示唆された。
根拠となった試験の抄録
背景:心血管疾患(CVD)予防のための集中的な取り組みにもかかわらず、診療ガイドラインで推奨されているすべての介入を受けている人であっても、かなりのCVDリスクが残存している。ナイアシンは主食に含まれる必須微量栄養素であるが、CVDにおけるその役割はよくわかっていない。
方法:本研究では、前向き発見コホート(n=1,162、n=422女性)の安定した心臓病患者の空腹時血漿を対象とした非標的メタボローム解析により、ナイアシン代謝が主要有害心血管イベント(MACE)の発症と関連することが示唆された。
結果:過剰ナイアシンの末端代謝物であるN1-メチル-2-ピリドン-5-カルボキサミド(2PY)およびN1-メチル-4-ピリドン-3-カルボキサミド(4PY)の血清レベルは、2つの検証コホート(米国:合計2,331人、女性 774人、欧州:合計832人、女性 249人)において、3年MACEリスクの上昇と関連していた(2PYの補正後ハザード比(HR)1.64、95%信頼区間 1.10〜2.42および2.02、95%CI 1.29〜3.18);4PY:それぞれ1.89、95%CI 1.26〜2.84および1.99、95%CI 1.26〜3.14)。2PYと4PYの両方に有意に関連した遺伝子変異rs10496731のゲノムワイド関連解析により、この変異と可溶性血管接着分子1(sVCAM-1)のレベルとの関連が明らかになった。さらにメタ解析を行ったところ、rs10496731とsVCAM-1との関連が確認された(n=106,000、n=53,075女性、P=3.6×10-18)。さらに、検証コホート(n=974、n=333女性)において、sVCAM-1レベルは2PYおよび4PYの両方と有意に相関していた(2PY:rho=0.13、P=7.7×10-5、4PY:rho=0.18、P=1.1×10-8)。最後に、生理的レベルの4PYを投与すると、その構造異性体である2PYではなく、VCAM-1の発現が誘導され、マウスの血管内皮に白血球が接着した。
結論:これらの結果を総合すると、過剰なナイアシンの末端分解産物である2PYと4PYは、いずれもCVDリスクの残存に関連することが示された。また、4PYとMACEとの臨床的関連性の根底には炎症依存性の機序があることも示唆された。
引用文献
A terminal metabolite of niacin promotes vascular inflammation and contributes to cardiovascular disease risk
Marc Ferrell et al. PMID: 38374343 DOI: 10.1038/s41591-023-02793-8
Nat Med. 2024 Feb;30(2):424-434. doi: 10.1038/s41591-023-02793-8. Epub 2024 Feb 19.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38374343/
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