2型糖尿病(T2D)における集中的な血糖降下戦略と患者転帰との関連性は?
2型糖尿病(T2D)における集中的な血糖降下戦略と標準的な血糖降下戦略が、大血管および細小血管の転帰を改善するのかについては充分に検証されていません。
そこで今回は、上記の血管関連転帰と試験群の糖化ヘモグロビン(HbA1c)低下との関係を検討することを目的に実施されたシステマティックレビュー・メタ解析の結果をご紹介します。
この系統的レビューとメタ解析において、MEDLINE、Embase、Cochrane Library、および2023年8月までの書誌から関連する試験が同定されました。大血管および細小血管の転帰が安全性の転帰とともに評価されました。
プールされた試験特異的ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)の算出、メタ回帰によるアウトカムとHbA1c低下との関係が解析されました。
試験結果から明らかになったことは?
51,469例のT2D患者を対象とした11件のRCT(集中療法:N=26,691、標準療法:N=24,778)が対象となりました。
ハザード比(95%CI) vs. 標準治療 | |
非致死的心筋梗塞 | HR 0.84(0.75〜0.94) |
主要有害心血管イベント | HR 0.97(0.92〜1.03) |
網膜症 | HR 0.85(0.78〜0.93) |
腎症 | HR 0.71(0.58〜0.87) |
複合微小血管転帰 | HR 0.88(0.77〜1.00) |
標準治療と比較して、集中治療とは非致死的心筋梗塞(MI)のリスクを減少させましたが(HR 0.84、95%信頼区間 0.75〜0.94)、主要有害心血管イベント(HR 0.97、95%信頼区間 0.92〜1.03)およびその他の有害心血管アウトカムのリスクには差がありませんでした。
集中治療と標準治療の比較では、網膜症(HR 0.85、0.78〜0.93)、腎症(HR 0.71、0.58〜0.87)、複合微小血管転帰(HR 0.88、0.77〜1.00)のリスクが減少しました。
メタ回帰分析では、HbA1c低下と主要有害心血管イベント、非致死的心筋梗塞、脳卒中、網膜症の転帰との間に逆直線関係があることを示すわずかなエビデンスが示されましたが、これらは統計学的に有意ではありませんでした。
コメント
血糖コントロールを集中的に行うことによる利益については、充分に検証されていません、
さて、システマティックレビュー&メタ解析の結果、2型糖尿病患者において、集中的な血糖コントロールは非致死的心筋梗塞、いくつかの微小血管アウトカム、特に網膜症や腎症のリスク低下と関連していました。
一方で、ほとんどの大血管転帰に対して集中的な血糖低下療法の効果が認められなかったことから、血糖コントロールと並行して心血管危険因子を管理する、より包括的なアプローチが必要であることが明らかとなりました。
非致死的心筋梗塞を除いて、これまでの報告と一致しています。集中的あるいは厳格な血糖コントロールは、大血管障害の発生リスク低減に対して、ほぼ利益がないようです。一方で、微小血管障害の発生リスク低減に対しては、集中的な血糖コントロールが有益であることは明らかです。早期の集中的な血糖コントロールにより、より長期的なイベント発生リスクの低減(レガシー効果)についても、一部の試験で報告されていることから期待が持てます。
今後は、より心血管イベントの発生リスクの高い集団に対して、どのように大血管障害の発生リスクを低減するのか、対策の立案が求められます。脂質異常症や高血圧等も含めた、より包括的な治療計画による効果検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ システマティックレビュー&メタ解析の結果、2型糖尿病患者において、集中的な血糖コントロールは非致死的心筋梗塞、いくつかの微小血管アウトカム、特に網膜症や腎症のリスク低下と関連していた。ほとんどの大血管転帰に集中的な血糖降下効果が認められなかったことから、血糖コントロールと並行して心血管危険因子を管理する、より包括的なアプローチが必要である。
根拠となった試験の抄録
目的:2型糖尿病(T2D)における集中的な血糖降下戦略と標準的な血糖降下戦略の大血管および細小血管の転帰を明らかにし、これらの転帰と試験群の糖化ヘモグロビン(HbA1c)低下との関係を検討することを目的とした。
材料と方法:この系統的レビューとメタ解析において、MEDLINE、Embase、Cochrane Library、および2023年8月までの書誌から関連する試験を同定した。大血管および細小血管の転帰を安全性の転帰とともに評価した。プールされた試験特異的ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出し、メタ回帰を用いてアウトカムとHbA1c低下との関係を解析した。
結果:51,469例のT2D患者を対象とした11件のRCT(集中療法:N=26,691、標準療法:N=24,778)を対象とした。標準療法と比較して、集中療法は非致死的心筋梗塞(MI)のリスクを減少させたが(HR 0.84、95%信頼区間 0.75〜0.94)、主要有害心血管イベント(HR 0.97、95%信頼区間 0.92〜1.03)およびその他の有害心血管アウトカムのリスクには差がなかった。集中治療と標準治療の比較では、網膜症(HR 0.85、0.78〜0.93)、腎症(HR 0.71、0.58〜0.87)、複合微小血管転帰(HR 0.88、0.77〜1.00)のリスクが減少した。メタ回帰分析では、HbA1c低下と主要有害心血管イベント、非致死的心筋梗塞、脳卒中、網膜症の転帰との間に逆直線関係があることを示すわずかなエビデンスが示されたが、これらは統計学的に有意ではなかった。
結論:T2D患者において、集中的な血糖コントロールは非致死的MI、いくつかの微小血管アウトカム、特に網膜症や腎症のリスク低下と関連していた。ほとんどの大血管転帰に集中的な血糖降下効果が認められなかったことから、血糖コントロールと並行して心血管危険因子を管理する、より包括的なアプローチが必要である。
キーワード:集中的血糖降下、メタ解析、メタ回帰、ランダム化比較試験、標準治療、2型糖尿病
引用文献
Glycaemic control and macrovascular and microvascular outcomes: A systematic review and meta-analysis of trials investigating intensive glucose-lowering strategies in people with type 2 diabetes
Setor K Kunutsor et al. PMID: 38409644 DOI: 10.1111/dom.15511
Diabetes Obes Metab. 2024 Feb 26. doi: 10.1111/dom.15511. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38409644/
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