COVID-19を含むウイルス感染症に対して抗生物質は無効ですが、医師はCOVID-19に対して抗生物質を処方することが多いことが知られています(PMID: 35394497、PMID: 36800196)。しかし、COVID-19に対する抗生物質処方に関連する患者や医師の特徴についてはほとんど知られていません。
そこで今回は、株式会社エムスリーが収集したJapan Medical Data Survey(JAMDAS)データベースを分析し、抗生物質処方率の傾向について検討した研究結果をご紹介します。
2020年4月1日から2023年2月28日まで継続観察された843の診療所におけるCOVID-19(疾病および関連保健問題の国際統計分類第10版、コードU07.1を用いて定義)の外来受診データが分析されました。抗生物質が適切である可能性のある重複診断の受診は除外されました。JAMDASへの組み入れをアウトカムとし、診療所の特徴を変数とした診療所レベルのロジスティック回帰を用いて算出したJAMDASへの組み入れ確率(組み入れ確率)の逆数を用いて、日本の全医療機関のサンプルで重み付けを行い、全国推計値が報告されました。
月と都道府県で調整したロジスティック回帰モデルを用いて、患者特性(性、年齢、合併症の有無[Charlson Comorbidity Indexスコア14以上])および医師特性(性、年齢)と抗生物質処方との関連について検討されました。診療所は、日本のほとんどの診療所が単独診療所であるため、診療所のオーナー医師に帰属されました(J Gen Fam Med. 2015)。
試験結果から明らかになったことは?
COVID-19患者 528,676例(年齢中央値 33歳[IQR 15〜49歳]、女性 272,965例[51.6%])のうち、抗生物質の処方を受けたのは47,329例(9.0%)でした。
全体に占める処方割合 | |
クラリスロマイシン | 25.1% |
セフカペン | 19.9% |
セフジトレン | 10.2% |
レボフロキサシン | 9.9% |
アモキシシリン | 9.4% |
クラリスロマイシンの処方が最も多く(抗生物質処方全体の25.1%)、次いでセフカペン(19.9%)、セフジトレン(10.2%)、レボフロキサシン(9.9%)、アモキシシリン(9.4%)でした。毎月の抗生物質処方率は、2022年1月に急激に減少した(平均、2022年1月以前 24.8% vs. 以降 7.5%)。この減少は、2022年1月以前にCOVID-19を治療した554の診療所に限定しても同様に観察されました(2022年1月以前 24.8% vs. 以降 6.1%)。2022年1月以降に受診した患者は、2022年1月以前に受診した患者に比べて年齢が高く(平均 31.8[SD 21.6]歳 vs. 34.1[SD 21.9]歳)、併存疾患を有する割合が低いことがわかりました(18.2% vs. 10.7%)。
抗生物質処方率は診療所によって異なり、抗生物質処方絶対数の多い上位10%の診療所が全抗生物質処方数の85.2%を占め、平均抗生物質処方率は29.0%(95%信頼区間 28.7%~29.3%)でした(2022年1月以前 45.4%[95%信頼区間 44.6%~46.1%] vs. 以降 26.0%[95%信頼区間 25.7%~26.3%])。残りの90%の診療所の平均抗生物質処方率は1.9%(95%CI 1.9%〜2.0%)でした(2022年1月以前 7.0%[95%CI 6.6%〜7.5%] vs. 以降 1.6%[95%CI 1.5%〜1.6%])。
抗生物質処方の調整オッズ比 AOR (95%CI) | |
18~39歳 vs. 18歳未満 | AOR 1.69 (1.37~2.09) P<0.001 |
40~64歳 vs. 18歳未満 | AOR 1.36 (1.11~1.66) P=0.01 |
併存疾患あり vs. なし | AOR 1.48 (1.09〜2.00) P=0.03 |
60歳以上の医師 vs. 44歳以下の医師 | AOR 2.38 (1.19〜4.47) P=0.03 |
抗生物質の処方率は、18~39歳の成人(調整オッズ比[AOR] 1.69、95%CI 1.37~2.09;P<0.001)および40~64歳(AOR 1.36、95%CI 1.11~1.66;P=0.01)で、18歳未満の小児よりも高く、併存疾患の存在は、より高い抗生物質処方率と関連していました(AOR 1.48、95%CI 1.09〜2.00;P=0.03)。患者の性別は抗生物質の処方と関連していませんでした。60歳以上の医師は44歳以下の医師よりも抗生物質を処方する可能性が高いことが示されましたが(AOR 2.38、95%CI 1.19〜4.47;P=0.03)、医師の性別は抗生物質の処方と関連していませんでした。
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感染症の主な病原体は、ウイルス、細菌、真菌(カビ)です。ウイルスには抗ウイルス薬、細菌には抗生物質(抗菌薬、抗生剤)、真菌には抗真菌薬といったように、使用する薬剤の種類が異なります。しかし、ウイルス感染症に対して細菌の二次感染が引き起こされることから、予防的/治療的に抗菌薬が処方されています。抗菌薬の予防的処方は、薬剤耐性菌の出現リスク増加、医療費の増加、薬剤使用による副作用などのリスク増加を引き起こすことから、適正使用が求められます。
さて、本試験結果によれば、日本におけるCOVID-19のプライマリケアでは、抗生物質の処方は少数の臨床医(上位10%の診療所)に集中しており、特徴として患者年齢18〜64歳、併存疾患を有していること、60歳以上の医師があげられました。
薬剤耐性(AMR)対策のために、本研究の結果が参考になると考えられます。また、どのような患者で抗菌薬の処方が必要なのか、引き続き検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 日本におけるCOVID-19のプライマリケアでは、抗生物質の処方は少数の臨床医(上位10%の診療所)に集中しており、特徴として患者年齢18〜64歳、併存疾患を有していること、60歳以上の医師があげられた。
根拠となった試験の抄録
はじめに:COVID-19を含むウイルス感染症に対して抗生物質は無効であるが、医師はCOVID-19に対して抗生物質を処方することが多い(PMID: 35394497、PMID: 36800196)。しかし、COVID-19に対する抗生物質処方に関連する患者や医師の特徴についてはほとんど知られていない。
調査方法:我々は、株式会社エムスリーが収集したJapan Medical Data Survey(JAMDAS)データベースを分析した。日本橋さくらクリニック倫理委員会は本研究を承認し、非識別化データを使用するためインフォームドコンセントを免除した。STROBE報告ガイドラインに従い、2020年4月1日から2023年2月28日まで継続観察された843の診療所におけるCOVID-19(疾病および関連保健問題の国際統計分類第10版、コードU07.1を用いて定義)の外来受診を分析した。抗生物質が適切である可能性のある重複診断の受診は除外した。JAMDASへの組み入れをアウトカムとし、診療所の特徴を変数とした診療所レベルのロジスティック回帰を用いて算出したJAMDASへの組み入れ確率(組み入れ確率)の逆数を用いて、日本の全医療機関のサンプルで重み付けを行い、全国推計値を報告した。
抗生物質処方率の傾向について検討した。月と都道府県で調整したロジスティック回帰モデルを用いて、患者特性(性、年齢、合併症の有無[Charlson Comorbidity Indexスコア14以上])および医師特性(性、年齢)と抗生物質処方との関連を検討した。診療所は、日本のほとんどの診療所が単独診療所であるため、診療所のオーナー医師に帰属させた(J Gen Fam Med. 2015)。Benjamini-Hochberg法を用いて多重比較のP値を調整した。両側P<0.05を統計的に有意とみなし、Stata, version 17(StataCorp LLC)を使用した。
結果:COVID-19患者 528,676例(年齢中央値 33歳[IQR 15〜49歳]、女性 272,965例[51.6%])のうち、抗生物質の処方を受けたのは47,329例(9.0%)であった。クラリスロマイシンの処方が最も多く(抗生物質処方全体の25.1%)、次いでセフカペン(19.9%)、セフジトレン(10.2%)、レボフロキサシン(9.9%)、アモキシシリン(9.4%)であった。毎月の抗生物質処方率は、2022年1月に急激に減少した(平均、2022年1月以前 24.8% vs. 以降 7.5%)。この減少は、2022年1月以前にCOVID-19を治療した554の診療所に限定しても同様に観察された(2022年1月以前 24.8% vs. 以降 6.1%)。2022年1月以降に受診した患者は、2022年1月以前に受診した患者に比べて年齢が高く(平均 31.8[SD 21.6]歳 vs. 34.1[SD 21.9]歳)、併存疾患を有する割合が低かった(18.2% vs. 10.7%)。
抗生物質処方率は診療所によって異なり、抗生物質処方絶対数の多い上位10%の診療所が全抗生物質処方数の85.2%を占め、平均抗生物質処方率は29.0%(95%信頼区間 28.7%~29.3%)であった(2022年1月以前 45.4%[95%信頼区間 44.6%~46.1%] vs. 以降 26.0%[95%信頼区間 25.7%~26.3%])。残りの90%の診療所の平均抗生物質処方率は1.9%(95%CI 1.9%〜2.0%)であった(2022年1月以前 7.0%[95%CI 6.6%〜7.5%] vs. 以降 1.6%[95%CI 1.5%〜1.6%])。
抗生物質の処方率は、18~39歳の成人(調整オッズ比[AOR] 1.69、95%CI 1.37~2.09;P<0.001)および40~64歳(AOR 1.36、95%CI 1.11~1.66;P=0.01)で、18歳未満の小児よりも高かった。併存疾患の存在は、より高い抗生物質処方率と関連していた(AOR 1.48、95%CI 1.09〜2.00;P=0.03)。患者の性別は抗生物質の処方と関連していなかった。60歳以上の医師は44歳以下の医師よりも抗生物質を処方する可能性が高かった(AOR 2.38、95%CI 1.19〜4.47;P=0.03);医師の性別は抗生物質の処方と関連していなかった。
考察:日本におけるCOVID-19のプライマリケアでは、抗生物質の処方は少数の臨床医に集中していた。医師の年齢は、患者の年齢や合併症の有無に匹敵する有意な因子であった。このようなばらつきは、適切な抗生物質の使用に関する臨床研修の違いによるものかもしれない(PMID: 30615108)。結果は、2022年1月頃のオミクロン変異株の出現に伴う抗生物質処方の減少は、診療所レベルの要因ではなく、患者の重症度や合併症の減少と関連している可能性を示唆している。
研究の限界:未測定の交絡因子(重症度など)を充分に考慮できないこと、JAMDASに含まれていない診療所や他の状況への一般化可能性の限界について可能性があることなどが挙げられる。本研究で得られた知見は、政策立案者が適切な抗生物質使用を促すための介入策を開発する際に役立つ可能性がある。
引用文献
Antibiotic Prescription for Outpatients With COVID-19 in Primary Care Settings in Japan
Atsushi Miyawaki et al. PMID: 37490294 PMCID: PMC10369197 DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2023.25212
JAMA Netw Open. 2023 Jul 3;6(7):e2325212. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2023.25212.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37490294/
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