抗悪性腫瘍剤への曝露がナースに及ぼす影響は?
抗悪性腫瘍剤との職業的接触の安全性に関しては、多くの研究が行われています。しかし、抗悪性腫瘍剤との職業的接触と有害な妊娠転帰との関係についての検証は充分に行われていません。
病院管理者は、看護師の抗悪性腫瘍剤との職業的接触と有害な妊娠転帰との関係について、より多くの情報を必要としています。抗悪性腫瘍剤による職業的リスクをよりよく理解することで、曝露環境における看護師の安全を確保するための防護策を策定することができるからです。
システマティックレビュー・メタ解析は、多くの研究結果を統合解析することで現在のエビデンスの方向性、確実性を明らかにできます。しかし、前向き試験と比較して発表時期が遅いこと、対象サンプルが限られていること、集団の職業が多様であることなどから、結果の異質性が高くなっています。また、抗悪性腫瘍剤への職業的曝露は有害な妊娠転帰とは無関係であるとする結果もあり、議論が分かれているところです。
そこで今回は、看護師の抗悪性腫瘍剤への職業的曝露と有害な妊娠転帰との関係を探るために実施されたメタ解析の結果をご紹介します。
PubMed、Cochrane Library、Web of Science、Embaseデータベース、China National Knowledge Infrastructure (CNKI)、China Biology Medicine disc (CBM)、China Science and Technology Journal databases (VIP)、Wan Fang databases (WF)で2022年4月以前に発表された研究からデータが検索されました。メタ解析の実施にはStata MP(Version 17.0)が使用されました。
このメタ解析では、看護師の抗悪性腫瘍剤との職業的接触と有害な妊娠転帰との関係についての必要な情報を病院管理者に提供することを目的としました。研究結果は、介入のための効果的な手段の採用や関連政策の策定の指針となることが期待されています。
試験結果から明らかになったことは?
本メタ解析には、1985〜2021年に実施された研究である7ヵ国からの症例対照研究1件、2件の横断研究、8件のコホート研究を含む、合計11件の研究が組み入れられました。本分析は9,613例の看護師を対象としました(曝露群 3,370例、対照群 5,843例)。
自然流産
自然流産を報告した研究は、1件の横断研究、1件の症例対照研究、7件のコホート研究の合計9件で、8,818症例を含んでいました。
自然流産リスク(研究数9件) | |
抗悪性腫瘍剤の暴露 vs. 抗悪性腫瘍剤の非暴露 | RR 1.56 (95%CI 1.16〜2.09) p=0.003 |
異質性検定 | p<0.001、I2=78.4% ランダム効果モデルを採用 |
出版バイアス | なし (p=0.881 >0.05) |
感度分析 | 一貫しており頑健性が示された |
異質性検定(p<0.001、I2=78.4%)により、臨床的および統計的異質性が存在することが示され、ランダム効果モデルが採用されました。 これらのメタ解析の結果から、抗悪性腫瘍剤と接触していない看護師と比較して、抗悪性腫瘍剤と職業的に接触している看護師は自然流産のリスクが高いことが示されました。この差は統計的に有意でした(RR 1.56、95%CI 1.16〜2.09, p=0.003)。Beggの検定により有意な出版バイアスは認められませんでした(p=0.881 >0.05)。感度分析の結果、どの研究を除外しても結果は頑健であり、信頼できることが示されました。
死産
死産を報告した研究は合計5件で、その内訳は横断研究1件、コホート研究4件であり、3,322例を含んでいました。その結果、異質性検定(p=0.693、I2=0.0%)は、臨床的および統計的異質性が存在しないことを示しました。統計的異質性が認められないことから、固定効果モデルが採用されました。
死産リスク(研究数5件) | |
抗悪性腫瘍剤の暴露 vs. 抗悪性腫瘍剤の非暴露 | RR 1.94 (95%CI 1.09〜3.46) p=0.025 |
異質性検定 | p=0.693、I2=0.0% 固定効果モデルを採用 |
出版バイアス | なし (p=0.602 >0.05) |
感度分析 | 頑健性が低いことが示されたが、 研究数が5件であることに起因していると考えられた |
メタ解析の結果、抗悪性腫瘍剤に曝露されていない看護師と比較して、職業曝露は看護師の死産率を増加させ、その差は統計的に有意でした(RR 1.94、95%CI 1.09〜3.46, p=0.025)。Beggの検定では、有意な出版バイアスは認められませんでした(p=0.602 >0.05)。感度分析では、1件の研究(Li et al., 2007)を除外しても結果に有意差がないことが示され、分析結果が頑健でないことが示されたが、これは主に組み入れられた研究数が少ないことに関連していると考えられました。
先天性異常
先天異常を報告した研究は合計7件で、1件の症例対照研究、2件の横断研究、4件のコホート研究からなり、4,753例を含んでいました。異質性検定(p=0.287、I2=18.8%)により、本研究には臨床的・統計的異質性は存在しないことが示されたため、固定効果モデルが採用されました。
先天性異常リスク(研究数7件) | |
抗悪性腫瘍剤の暴露 vs. 抗悪性腫瘍剤の非暴露 | RR 1.76 (95%CI 1.30〜2.38) p=0.000 |
異質性検定 | p=0.176 >0.05 固定効果モデルを採用 |
出版バイアス | なし (p=0.176 >0.05) |
感度分析 | 一貫しており頑健性が示された |
メタ解析の結果、抗悪性腫瘍剤に曝露されていない看護師と比較して、職業曝露は看護師の先天異常率を増加させ、その差は統計的に有意でした(RR 1.76、95%CI 1.30〜2.38, p=0.000)。Beggの検定は、組み入れられた研究に有意な出版バイアスがないことを示しました(p=0.176 >0.05)。感度分析では、どの研究を除外しても結果に影響はなく、結果は頑健で信頼できることが示されました。
コメント
抗悪性腫瘍剤との職業的接触と有害な妊娠転帰との関係についての検証は充分に行われていません。特に看護師の抗悪性腫瘍剤との職業的接触と有害な妊娠転帰との関係について、検証が求められています。
さて、システマティックレビュー・メタ解析の結果、抗悪性腫瘍剤への職業的曝露が看護師の自然流産、死産、先天異常のリスクを増加させることが示されました。当然の結果ではありますが、同時に対策が充分に講じられていないことを意味しています。
管理者は、看護師の労働安全を確保し、有害な妊娠転帰のリスクを軽減するために、適時かつ効果的な対策を講じることが求められます。
とはいえ、組み入れられた試験数は10件未満であり、また時代背景・国や地域により抗悪性腫瘍薬への曝露リスクが異なることから、今後の検証結果により結果が覆る可能性もあります。
続報に期待。
✅まとめ✅ メタ解析の結果、抗悪性腫瘍剤への職業的曝露が看護師の自然流産、死産、先天異常のリスクを増加させることが示された。管理者は、看護師の労働安全を確保し、有害な妊娠転帰のリスクを軽減するために、適時かつ効果的な対策を講じるべきである。
根拠となった試験の抄録
目的:本研究の目的は、看護師の抗悪性腫瘍剤への職業的曝露と有害な妊娠転帰との関係を探ることである。
試験デザイン:メタアナリシス
方法:PubMed、Cochrane Library、Web of Science、Embaseデータベース、China National Knowledge Infrastructure (CNKI)、China Biology Medicine disc (CBM)、China Science and Technology Journal databases (VIP)、Wan Fang databases (WF)で2022年4月以前に発表された研究からデータを検索した。メタ分析の実施にはStata MP(Version 17.0)を使用した。
結果:本メタアナリシスには、1985〜2021に実施された研究である7ヵ国から1件の症例対照研究、2件の横断研究、8件のコホート研究を含む、合計11件の研究が組み入れられた。本分析は9,613例の看護師を対象とした(曝露群 3,370例、対照群 5,843例)。自然流産を報告した研究は、1件の横断研究、1件の症例対照研究、7件のコホート研究の合計9件で、8,818症例を含んでいた。異質性検定(p<0.001、I2=78.4%)により、臨床的および統計的異質性が存在することが示され、ランダム効果モデルが採用された。 これらのメタアナリシスの結果から、抗悪性腫瘍剤と接触していない看護師と比較して、抗悪性腫瘍剤と職業的に接触している看護師は自然流産のリスクが高いことが示された。この差は統計的に有意であった(RR 1.56、95%CI 1.16〜2.09, p=0.003)。Beggの検定により有意な出版バイアスは認められなかった(p=0.881 >0.05)。感度分析の結果、どの研究を除外しても結果は頑健であり、信頼できることが示された。
死産を報告した研究は合計5件で、その内訳は横断研究1件、コホート研究4件であり、3,322例を含んでいた。その結果、異質性検定(p=0.693、I2=0.0%)は、臨床的および統計的異質性は存在しないことを示した。統計的異質性が認められないことから、固定効果モデルを採用した。メタアナリシスの結果、抗悪性腫瘍剤に曝露されていない看護師と比較して、職業曝露は看護師の死産率を増加させ、その差は統計的に有意であった(RR 1.94、95%CI 1.09〜3.46, p=0.025)。Beggの検定では、有意な出版バイアスは認められなかった(p=0.602 >0.05)。感度分析では、1件の研究(Li et al., 2007)を除外しても結果に有意差がないことが示され、分析結果が頑健でないことが示されたが、これは主に組み入れられた研究数が少ないことに関連している。
先天異常を報告した研究は合計7件で、1件の症例対照研究、2件の横断研究、4件のコホート研究からなり、4,753例を含んでいた。異質性検定(p=0.287、I2=18.8%)により、本研究には臨床的・統計的異質性は存在しないことが示されたため、固定効果モデルを採用した。メタアナリシスの結果、抗悪性腫瘍剤に曝露されていない看護師と比較して、職業曝露は看護師の先天異常率を増加させ、その差は統計的に有意であった(RR 1.76、95%CI 1.30〜2.38, p=0.000)。Beggの検定は、組み入れられた研究に有意な出版バイアスがないことを示した(p=0.176 >0.05)。感度分析では、どの研究を除外しても結果に影響はなく、結果は頑健で信頼できることが示された。
結論:現在のエビデンスは、抗悪性腫瘍剤への職業的曝露が看護師の自然流産、死産、先天異常のリスクを増加させることを示している。特に生殖年齢にある女性看護師については、抗悪性腫瘍剤による職業曝露に注意を払う必要がある。管理者は、彼女たちの労働安全を確保し、有害な妊娠転帰のリスクを軽減するために、適時かつ効果的な対策を講じるべきである。
キーワード:有害事象、看護職、職業曝露、労働衛生、公衆衛生看護
引用文献
Influence of occupational exposure to antineoplastic agents on adverse pregnancy outcomes among nurses: A meta-analysis
Shuhan Liu et al. PMID: 37219069 PMCID: PMC10416046 DOI: 10.1002/nop2.1853
Nurs Open. 2023 Sep;10(9):5827-5837. doi: 10.1002/nop2.1853. Epub 2023 May 23.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37219069/
コメント