深層学習システムにより外眼部の写真から全身状態がわかるようになる?
疾患の早期発見・早期治療のために健康診断や検診時における採血などの侵襲的な方法が用いられています。しかし、このような侵襲的な方法は、経時的にデータを収集する上で患者負担を増加させることから代替案が求められています。
外眼部の写真をディープラーニングに活用することで、非侵襲的な方法として患者の経時的変化を捉えられると考えられます。事実、外眼部の写真から糖尿病網膜疾患や糖化ヘモグロビンの上昇の徴候が確認できることが示されています(PMID: 31015713、PMID: 24290931)。糖尿病のほか、さまざまな臓器のバイオマーカーを検出する可能性も示されていますが、充分に検証されていません。
そこで今回は、外眼部の写真には、さらに全身的な病状に関する情報が含まれているという仮説を検証することを目的に実施された後向き研究の結果をご紹介します。
本試験では、眼球写真を入力として、肝臓(アルブミン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ[AST])、腎臓(推定糸球体濾過量[eGFR]、尿アルブミン/クレアチニン比[ACR])、骨またはミネラル(カルシウム)、甲状腺(甲状腺刺激ホルモン)、血液(ヘモグロビン、白血球[WBC]、血小板)などの関連する全身的なパラメータを予想する深層学習システム(Deep Learning System, DLS)が開発されました。
このDLSは、米国カリフォルニア州ロサンゼルス郡の11カ所で糖尿病眼科検診を受けた糖尿病患者38,398例の画像123,130枚を用いてトレーニングされました。評価については、事前に指定された9つの全身パラメータに焦点を当て、米国カリフォルニア州ロサンゼルス郡とジョージア州アトランタ広域の独立した3つの施設で眼科検診を受けた糖尿病患者25,510例に及ぶ3つの検証セット(A、B、C)が活用されました。また、臨床人口統計学的変数(年齢、性別、人種、民族、糖尿病罹患年数など)を組み込んだベースラインモデルと性能を比較されました。
試験結果から明らかになったことは?
検証セットA(開発データセットに類似した集団)において、ベースラインと比較して、DLSは、AST >36.0 U/L、カルシウム <8.6 mg/dL、eGFR <60.0 mL/min/1.73m2、ヘモグロビン <11.0 g/dL、血小板 <150.0×103/μL、ACR ≥300mg/gの検出において統計的に有意な優れた性能を達成しました。
WBC<4.0×103/μLについては、DLSの受信者動作特性曲線下面積(AUC)がベースラインを5.3〜19.9%上回りました(AUCの絶対差分)。
開発データセットと比較して患者集団が大きく異なる検証セットBおよびCでは、ACR ≧300.0mg/gおよびヘモグロビン<11.0g/dLにおいて、DLSはベースラインを7.3〜13.2%上回りました。
コメント
医療分野におけるディープラーニング(深層学習)の応用が活発に行われています。外眼部の写真を利用することで、非侵襲的な患者フォローが期待できます。
さて、本試験結果によれば、眼球写真には、さらに複数の臓器系にまたがるバイオマーカーが含まれていることが証明されました。特にACR ≧300.0mg/gおよびヘモグロビン<11.0g/dLについては、精度が高そうです。とはいえ、まだまだ開発段階であり、実臨床で医療機器として使用されるまでには時間がかかりそうです。
続報に期待。
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