低カリウム血症を呈する腹膜透析患者におけるカリウム補給により腹膜炎や死亡リスクを低減できるのか?
慢性腎臓病は世界的な公衆衛生上の問題です。腎代替療法(KRT)による治療を必要とする腎不全の有病率は上昇しており、特にアジアでは2020年から2030年にかけて倍増すると予想されています(PMID: 23727169、PMID: 25777665、PMID: 30078514)。2016年現在、タイでKRTを受けている患者数は100万人あたり346人と推定され、10年前に比べて3倍に増加しています(PMID: 35372930)。さらに、タイ政府は腹膜透析(PD)をKRTのモダリティとして選択し、PDを受ける患者数は過去10年間で10倍に増加しています(PMID: 35372930)。
PDは、血清カリウム濃度が3.5mEq/L以下と定義される低カリウム血症を合併することがよくあります(PMID: 22626960、PMID: 33615056、PMID: 15983966)。Peritoneal Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study(PDOPPS)によると、PDを受ける患者における低カリウム血症の有病率は、参加国間で大きな幅(3%から47%)があります(PMID: 15983966、PMID: 23318823)。
いくつかの研究で、低カリウム血症と腹膜炎のリスク上昇との関連性が報告されています(PMID: 22626960、PMID: 26091005、PMID: 33428166)。腹膜炎のリスクが最も低いのは、血清カリウム濃度が4〜5mEq/Lの範囲であるとされています(PMID: 22626960)。低カリウム血症は、消化管運動障害、便秘、タンパク質・エネルギー栄養失調、腸内細菌の過繁殖を引き起こし、最終的に腸内細菌の経粘膜移動による腹膜炎を引き起こす可能性があるため、このような関連性は生物学的にもっともらしいと考えられます(PMID: 26091005)。過去の報告で、カリウム排泄量の増加とは対照的に、食事からのカリウム摂取量が少ないことが、維持期PD患者における低カリウム血症の主要な要因であることが示されました(PMID: 19103738)。しかし、カリウム補給による低カリウム血症の是正が腹膜炎リスクを軽減する可能性について、ランダム化比較試験(RCT)で評価されていません。
そこで今回は、低カリウム血症のPD患者において、12ヵ月にわたるプロトコルベースのカリウム治療の腹膜炎軽減に対する有効性と安全性を評価したランダム化比較試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
PDセンター6施設から、時間平均の血清カリウム濃度が3.33±0.28 mEq/Lの患者167例が登録されました。85例はプロトコルに基づく治療を、82例は従来の治療を受けるように割り当てられました。追跡期間の中央値は401日(IQR 315~417)でした。
試験期間中、プロトコルに基づく治療群の血清カリウム値は4.36±0.70 mEq/Lに上昇したのに対し、従来治療を受けた群では3.57±0.65 mEq/Lでした(平均差 0.66 [95%CI 0.53~0.79] mEq/L; P < 0.001 )。
プロトコルベース治療群 | 従来治療群 | ハザード比 HR (95%CI) | |
腹膜炎 | 13/85例 (15%) | 24/82例 (29%) | HR 0.47 (0.24~0.93) |
全死亡 | 5/85例 (6%) | 6/82例 (7%) | HR 0.80 (0.24~2.63) |
心血管系死亡 | 1/85例 (1%) | 3/82例 (4%) | HR 0.32 (0.03~3.06) |
入院 | 11/85例 (13%) | 13/82例 (17%) | HR 0.75 (0.34~1.66) |
血液透析 | 3/85例 (4%) | 4/82例 (5%) | HR 0.70 (0.16~3.12) |
初回腹膜炎発症までの期間中央値は、プロトコールベース群で有意に長いことが示されました(223 [IQR 147~247] vs. 133 [IQR 41~197] 日、P=0.03)。従来の治療と比較して、プロトコルベース治療群では腹膜炎のハザードが有意に低かったものの(HR 0.47 [95%CI 0.24~0.93] )、どの副次的アウトカムに関しても有意差はありませんでした。
特徴的な心電図変化を伴わない無症候性高カリウム血症(>6 mEq/L)が、プロトコルベース治療群の3例(4%)に発生しました。
コメント
腹膜透析患者においては、血清カリウム濃度が3.5mEq/L以下と定義される低カリウム血症を合併することがよくありますが、カリウムの補充法については議論の余地があり、更なる検証が求められています。
さて、本試験結果によれば、血清カリウム値が3.5mEq/L未満に低下した場合の反応性カリウム補充と比較して、血清カリウム濃度を4~5mEq/Lの範囲に維持するプロトコルベースの経口カリウム治療は、低カリウム血症を有するPD患者の腹膜炎リスクを低減させる可能性が示されました。
入院や全死亡リスクの低減は示されませんでしたが、腹膜炎の発生リスク低下、発生までの期間が延長したことは重要な知見です。低カリウム血症を呈するPD患者において、血清カリウム濃度を4~5mEq/Lの範囲に維持するプロトコルベースの経口カリウム治療は有益であると考えられます。
続報に期待。
☑まとめ☑ 血清カリウム値が3.5mEq/L未満に低下した場合の反応性カリウム補充と比較して、血清カリウム濃度を4~5mEq/Lの範囲に維持するプロトコルベースの経口カリウム治療は、低カリウム血症を有する腹膜透析患者の腹膜炎リスクを低減させる可能性がある。
根拠となった試験の抄録
背景と目的:低カリウム血症は腹膜透析(PD)患者によくみられる電解質異常であり、腹膜炎や死亡のリスク上昇と関連することが指摘されている。低カリウム血症の是正がこれらの転帰を改善するかどうかは不明である。
試験デザイン:多施設共同、非盲検、前向き、ランダム化比較試験
試験設定と参加者:低カリウム血症(過去6ヵ月間に少なくとも3回の測定値あるいは平均値が3.5mEq/L未満と定義)を有する成人(18歳以上)PD患者。施設および残尿量(100mL/日以下または100mL/日以上)により層別化し、ランダム化した。
介入:52週間にわたり、プロトコルベースのカリウム補給(血清カリウムを4~5mEq/Lに維持するための漸増量の経口塩化カリウム)または従来のカリウム補給(血清カリウムが<3.5mEq/Lのときに補給)のいずれかにランダムに割り付けた。Cox比例ハザード回帰を用いたintention-to-treat解析により、治療群を比較した。
アウトカム:主要アウトカムは、ランダム化から最初の腹膜炎エピソードまでの時間であった。副次的アウトカムは、全死亡、心血管系死亡、入院、および血液透析への移行とした。
結果:PDセンター6施設から、時間平均の血清カリウム濃度が3.33±0.28 mEq/Lの患者167例が登録された。85例はプロトコルに基づく治療を、82例は従来の治療を受けるように割り当てられた。追跡期間の中央値は401日(IQR 315~417)であった。試験期間中、プロトコルに基づく治療群の血清カリウム値は4.36±0.70 mEq/Lに上昇したのに対し、従来治療を受けた群では3.57±0.65 mEq/Lだった(平均差 0.66 [95%CI 0.53~0.79] mEq/L; P < 0.001 )。初回腹膜炎発症までの期間中央値は、プロトコールベース群で有意に長かった(223 [IQR 147~247] vs. 133 [IQR 41~197] 日、P=0.03)。従来の治療と比較して、プロトコルベース治療群では腹膜炎のハザードが有意に低かったが(HR 0.47 [95%CI 0.24~0.93] )、どの副次的アウトカムに関しても有意差はなかった。特徴的な心電図変化を伴わない無症候性高カリウム血症(>6 mEq/L)が、プロトコルベース治療群の3例(4%)に発生した。
制限事項:二重盲検化されていない。
結論:血清カリウム値が3.5mEq/L未満に低下した場合の反応性カリウム補充と比較して、血清カリウム濃度を4~5mEq/Lの範囲に維持するプロトコルベースの経口カリウム治療は、低カリウム血症を有するPD患者の腹膜炎リスクを低減させる可能性がある。
治験の登録:Thai Clinical Trials Registryに試験番号TCTR20190725004
キーワード:有害事象、末期腎不全(ESRD)、低カリウム血症、腎代替療法(KRT)、腹膜透析(PD)、腹膜炎、塩化カリウム錠、カリウム補給、ランダム化比較試験(RCT)、血清カリウム
引用文献
Efficacy of Potassium Supplementation in Hypokalemic Patients Receiving Peritoneal Dialysis: A Randomized Controlled Trial
Watthikorn Pichitporn et al. PMID: 35597332 DOI: 10.1053/j.ajkd.2022.03.013
Am J Kidney Dis. 2022 Nov;80(5):580-588.e1. doi: 10.1053/j.ajkd.2022.03.013. Epub 2022 May 18.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35597332/
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