体が冷えると風邪をひきやすくなるという俗説は本当なのか?
風邪は、通常、上気道に限定された自己限定的な軽症の病気です(PMID: 12517470)。鼻づまり、くしゃみ、喉の炎症、微熱など、さまざまな症状から自己診断されています(BOOK1996)。風邪の症状の発現は、寒い環境にさらされることと関連づけられ、風邪の発症は衣服、足、髪が濡れていることに直接起因するという一般的な言い伝えがあります(PMID: 81735)。過去300年の臨床文献を見ても、体表の急冷が感冒症状の発現を引き起こすという報告が多く、歴史的にも急冷が感冒症状の直接の原因であると一般に受け入れられてきました(BOOK1963、JLO)。しかし、風邪ウイルスの鼻腔内接種と寒冷暴露期間を含む研究では、寒冷暴露が風邪ウイルスの感染感受性に影響を与えることは証明されていません(RSPH、PMID: 13476004、NEJM)。現代のウイルス学の教科書は、寒冷暴露と風邪の因果関係を誤った民間伝承として否定していますが(EV)、この考えはあまりにも広く、長く続いているため、この考えを妥当でないと完全に否定することは困難です。
1919年、MuddとGrantは、体表を冷やしたときの鼻粘膜の反応を調べ、体表の冷却が鼻の血管の屈曲収縮と粘膜の温度低下を引き起こすことを明らかにしました(PMID: 19972480)。彼らは、この気道上皮の反射的血管収縮が感染に対する抵抗力を低下させ、扁桃腺への細菌感染を可能にするのではないかと推測しています(PMID: 19972480)。数年後、クリストファー・アンドリュース卿は、寒い環境にさらされると風邪の発症の引き金になるが、それは潜在的な風邪のウイルスを有している人に限られることを示唆しました(RSPH)。Ecclesは、これらの初期の観察を発展させ、体表の急冷が鼻や上気道の反射的血管収縮を引き起こし、この血管収縮反応が呼吸防御を抑制し、無症状のウイルス感染(不顕性感染)を有症状のウイルス感染(臨床感染)に変換して風邪症状を発現させるのではないかという仮説を提案しました(PMID: 12357708)。この仮説の新しい考え方は、風邪のウイルスが地域社会を循環しているとき、感染者の一部は不顕性感染であり、このサブグループのいずれかが体表の冷却にさらされたとき、不顕性感染から臨床感染への変換を助ける可能性があるということです。
そこで今回は、この仮説の検証を目的として、風邪ウイルスが社会的に流行している冬季に、無症状の健康な被験者の足を急冷した後の風邪症状の発現を調査したランダム化比較試験の結果をご紹介します。本研究の目的は、足の急冷が、急冷実施後数分以内の急性感冒症状の発現、急冷後4〜5日間の感冒症状の発現を引き起こすかどうかを調べること、また、前年度の風邪の罹患歴と感冒症状の発現の関係を調査することでした。
本試験では、症状スコアとして風邪をひいているかどうか、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、くしゃみ、咳の症状を0~3のスケールで評価しました。また、同様の風邪の質問と症状スコアを、毎日の日記に使用しました。 症状スコアは、感冒に関する過去の研究で広く用いられている方法です。すべての被験者に日記が配布され、症状のスコアと同時に、風邪をひいていると思うかどうかを記入するよう指示されました(1日目午後、2日目と3日目の午前/午後、4日目午前、4日目または5日目に発生した2度目の診察のとき)。
試験結果から明らかになったことは?
症状スコア (急性期) | ベースライン | 足を冷やした後の 即時効果 | ベースラインからの差 |
対照群 (n=90) | 0.02 (SD 0.15) | 0.13 (0.37) | 0.1 (0.35) |
足を冷やした群 (n=90) | 0.07 (SD 0.29) | 0.21 (0.51) | 0.14 (0.41) P=0.62 |
症状スコア (遅発期) | Day 1 | Day 2 | Day 3 | Day 4/5 | Total |
対照群 (n=88) | 0.32 (SD 0.70) | 0.73 (1.11) | 0.48 (0.77) | 1.36 (1.95) | 2.89 (3.39) |
足を冷やした群 (n=87) | 0.57 (SD 1.12) | 1.38 (1.84) | 1.28 (1.48) | 1.93 (2.83) | 5.16 (5.63) P=0.013 |
足を冷やした被験者90例のうち13例が処置後4/5日に風邪をひいていると報告したのに対し、対象群の被験者は5/90例でした(P=0.047)。足を冷やしたことによる症状スコアに急性変化が生じたという証拠は示されませんでした(P=0.62)。
足を冷やした後の1~4日の平均総症状スコアは5.16(SD 5.63、 n=87)だったのに対し、対照群では2.89(SD 3.39、n=88)でした(P=0.013)。
風邪をひいたと答えた被験者(n=18)は、風邪をひかなかった被験者(n=162)と比較して、毎年、有意に多くの風邪に悩まされたと報告しました(P=0.007)。
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体を冷やすと風邪をひくという俗説があり、これは長らく信じ続けられていいました。しかし、体を冷やすことで実際に風邪を発症するのかについては充分に検討されていませんでした。
さて、本試験結果によれば、冬季に足を急速に冷やすことは被験者の約10%に感冒症状を引き起こし、これは対照群と比較して有意に多いことが明らかとなりました(P=0.047)。
小規模かつ単施設(イギリスのウェールズにあるカーディフ大学)での検討結果です。参加者の平均年齢は20歳でした。したがって他の地域や国、年齢層において同様の結果が得られるのかは不明です。とは言え、比較的体力のある年代において、足の急冷と感冒症状の発症が認められたことから、20歳超の年齢層においてもある程度、同様以上の結果が示されると考えられます。少なくとも冬季に足を冷やさない方が良いことは間違いないようです。
続報に期待。
ちなみに本試験で用いられた足の急冷方法として、試験参加者は靴と靴下を脱ぎ、9~10リットルの水を入れたボウルに足を入れ、20分間10℃に保つよう指示されました。冷水槽の温度がモニターされ、水温を10℃に保つために必要に応じて氷を追加したようです。対照群に割り当てられた参加者は、靴と靴下を履いたまま、空のボウルに20分間足を入れるよう指示されたようです。
✅まとめ✅ 足を急速に冷やすことは被験者の約10%に感冒症状を引き起こし、これは対照群と比較して有意(P=0.047)に多かった。
根拠となった試験の抄録
背景:体表を冷やすと風邪の症状が出るという俗説があるが、これまでの臨床研究では、寒冷曝露が風邪ウイルスの感染感受性に影響を与えることは証明されていない。
目的:本研究では、足の急冷が感冒症状の発症を引き起こすという仮説を検証する。
方法:180例の健康な被験者を、足を冷やす処置と対照処置のいずれかを受けるようにランダムに割り付けた。すべての被験者に、処置の前と直後、および1日2回、4/5日間、感冒症状を採点してもらった。
結果:足を冷やした被験者90例のうち13例が処置後4/5日に風邪をひいていると報告したのに対し、対象群の被験者は5/90例だった(P=0.047)。足を冷やしたことによる症状スコアに急性変化が生じたという証拠はなかった(P=0.62)。足を冷やした後の1~4日の平均総症状スコアは5.16(SD 5.63、 n=87)だったのに対し、対照群では2.89(SD 3.39、n=88)だった(P=0.013)。風邪をひいたと答えた被験者(n=18)は、風邪をひかなかった被験者(n=162)と比較して、毎年、有意に多くの風邪に悩まされたと報告した(P=0.007)。
結論:足を急速に冷やすことで被験者の約10%に感冒症状を引き起こした。症状発生とあらゆる呼吸器感染症との関係を明らかにするために、さらなる研究が必要である。
引用文献
Acute cooling of the feet and the onset of common cold symptoms
Claire Johnson et al. PMID: 16286463 DOI: 10.1093/fampra/cmi072
Fam Pract. 2005 Dec;22(6):608-13. doi: 10.1093/fampra/cmi072. Epub 2005 Nov 14.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16286463/
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