経皮的冠動脈インターベンションを受ける安定化した急性心筋梗塞患者におけるDAPTにはチカグレロルとクロピドグレルどちらが良さそうですか?(PROBE; TALOS-AMI試験; Lancet. 2021)

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PCI後のチカグレロルベースのDAPTからクロピドグレルベースのDAPTへの変更は心血管イベントや出血イベントを抑制できるのか?

チカグレロル(商品名:ブリリンタ)はcyclo pentyl triazolo pyrimidine(CPTP)系の薬剤に分類される抗血小板薬です。クロピドグレルやプラスグレルなどのチエノピリジン系の薬剤は血小板のP2Y12受容体に”不可逆的”に結合して血小板凝集作用を阻害するのに対し、チカグレロルはP2Y12受容体に”可逆的”な結合をすることにより抗血小板作用を発現します。

チエノピリジン系の薬剤はプロドラッグであり、肝臓で代謝されてから活性体となり作用を発現します。クロピドグレルは肝代謝酵素であるCYP2C9で代謝されることから、薬物相互作用による副作用リスク増加に懸念が残ります。これに対し、チカグレロルは未変化体が活性を有しているため、抗血小板作用の発現が早く、また薬剤中止後も速やかに作用が消失することが期待されています。しかし、その効果発現の特徴の反面、1日2回の投与が必要です。また、チカグレロルは出血性の合併症を生じる恐れがある以外に、呼吸困難感が比較的高頻度で生じることが知られています。

抗血小板薬は様々な目的で使用されますが、特に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)などの手術後の血栓塞栓リスク低減を目的に使用されています。この際、二重抗血小板療法(DAPT)が用いられますが、抗血小板薬を2剤使用しているため、出血リスクが高くなります。そのため、出血リスクが少なく、血栓塞栓リスクを増加させない治療戦略の確立が求められています。

そこで今回は、急性心筋梗塞患者のPCI後のDAPTにおいてチカグレロルからクロピドグレルに一律に非ガイドでデエスカレーティングし、心血管イベントや出血性イベントの発生を検証したTALOS-AMI試験の結果をご紹介します。

本試験は非盲検、評価者マスク、多施設、非劣性、ランダム化比較試験(TALOS-AMI)であり、韓国の32施設で急性心筋梗塞を発症し、PCI後の最初の1ヵ月間にアスピリンとチカグレロルの投与を受け、重大な虚血イベントや出血がなかった患者が対象でした。患者は1:1の割合でデエスカレーション群(クロピドグレル+アスピリン)またはアクティブコントロール群(チカグレロル+アスピリン)にランダムに割り付けられました。チカグレロルからクロピドグレルに切り替える際には、クロピドグレルのローディングドーズを行わない非ガイドのデエスカレーションが採用されました。

本試験の主要評価項目は、1~12ヵ月間の心血管死、心筋梗塞、脳卒中、Bleeding Academic Research Consortium(BARC)基準による出血タイプ2、3、5の複合でした。標準治療と比較したデエスカレーションDAPTの安全性と有効性を評価するために非劣性試験が選択されました。層別Cox比例ハザードモデルにおけるデエスカレーション群とアクティブコントロール群のハザード比(HR)は、intention-to-treat集団における絶対差3.0%に相当する1.34のHRマージンによって非劣性を評価し、有意であれば、その後に優越性試験が実施されました。また、統計的な頑健性を確保するため、per-protocol集団において追加解析が行われました。

試験結果から明らかになったことは?

2014年2月26日から2018年12月31日まで、スクリーニングされた2,901例の患者から、2,697例の患者が解析対象となりました。1,349例がデエスカレーション群に、1,348例がアクティブコントロール群にランダム割り付けされました。

(12ヵ月後)ハザード比
[95%CI]
主要評価項目HR 0.55 [0.40〜0.76]
非劣性p<0.001
優越性p=0.0001
 心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合イベントHR 0.69
[0.42〜1.14]
p=0.15
 BARC2、3、5の複合出血イベントHR 0.52
[0.35〜0.77]
p=0.0012

12ヵ月後、主要評価項目は、デエスカレーション群59例(4.6%)、アクティブコントロール群104例(8.2%)で発生しました(HR 0.55 [95%CI 0.40〜0.76]; 非劣性p<0.001, 優越性p=0.0001)。

心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合は、デエスカレーション群(2.1%)とアクティブコントロール群(3.1%;HR 0.69 [95%CI 0.42〜1.14],p=0.15)で有意差を認めませんでした。BARC2、3、5の複合出血はデエスカレーション群で発生頻度が有意に低いことが明らかとなりました(3.0% vs. 5.6%,HR 0.52 [95%CI 0.35〜0.77], p=0.0012)。

コメント

P2Y12受容体拮抗薬であるチカグレロルと、クロピドグレルの比較試験が多く行われています。

さて、本試験結果によれば、PCI後の安定した急性心筋梗塞患者において、一律のガイドなしデエスカレーション(チカグレロルベースDAPTからクロピドグレルDAPTへの変更)戦略は、主に出血イベント(BARC2、3、5の複合出血イベント)の減少により、12ヵ月までの純臨床イベントリスクを有意に減少させました。心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合イベントについて有意な群間差は認められませんでしたが、リスク減少傾向でした。

本試験において、PCI後の1ヵ月間は、両群ともにチカグレロルで治療を受けています。その後の治療においては、クロピドグレルで治療する方が出血リスクが少なく、心血管イベントに変化がないため、チカグレロルよりも優れていそうです。

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✅まとめ✅ PCI後の安定した急性心筋梗塞患者において、一律のガイドなしデエスカレーション(チカグレロルベースDAPTからクロピドグレルDAPTへの変更)戦略は、主に出血イベントの減少により、12ヵ月までの純臨床イベントリスクを有意に減少させた。

根拠となった試験の抄録

背景:強力な抗血小板療法を受けている急性心筋梗塞患者では、維持期の出血リスクが高いままである。我々は、急性心筋梗塞後の二重抗血小板療法(DAPT)をチカグレロルからクロピドグレルに一律に非ガイドでデエスカレーティングしたデータを求めている。

方法:この非盲検、評価者マスク、多施設、非劣性、ランダム化比較試験(TALOS-AMI)では、韓国の32施設で急性心筋梗塞を発症し、PCI後の最初の1ヵ月間にアスピリンとチカグレロルの投与を受け、重大な虚血イベントや出血がなかった患者が、1:1の割合でデエスカレーション群(クロピドグレル+アスピリン)またはアクティブコントロール群(チカグレロル+アスピリン)にランダムに振り分けられた。チカグレロルからクロピドグレルに切り替える際には、クロピドグレルのローディングドーズを行わない非ガイドのデエスカレーションが採用された。
主要評価項目は、1~12ヵ月間の心血管死、心筋梗塞、脳卒中、Bleeding Academic Research Consortium(BARC)基準による出血タイプ2、3、5の複合とした。
標準治療と比較したde-escalation DAPTの安全性と有効性を評価するために非劣性試験が行われた。層別Cox比例ハザードモデルにおけるデエスカレーション群とアクティブコントロール群のハザード比(HR)は、intention-to-treat集団における絶対差3.0%に相当する1.34のHRマージンによって非劣性を評価し、有意であれば、その後に優越性試験を実施した。また、統計的な頑健性を確保するため、per-protocol集団において追加解析が行われた。本試験はClinicalTrials.gov, NCT02018055に登録されている。

所見:2014年2月26日から2018年12月31日まで、スクリーニングされた2,901例の患者から、2,697例の患者がランダムに割り付けられた。1,349例がデエスカレーション群に、1,348例がアクティブコントロール群に割り付けられた。12ヵ月後、主要評価項目は、デエスカレーション群59例(4.6%)、アクティブコントロール群104例(8.2%)で発生した(HR 0.55 [95%CI 0.40〜0.76]; 非劣性p<0.001, 優越性p=0.0001)。心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合は、デエスカレーション群(2.1%)とアクティブコントロール群(3.1%;HR 0.69 [95%CI 0.42〜1.14],p=0.15)で有意差を認めなかった。BARC2、3、5の複合出血はデエスカレーション群で発生頻度が低かった(3.0% vs. 5.6%,HR 0.52 [95%CI 0.35〜0.77] p=0.0012)。

解釈:インデックスPCI後の安定した急性心筋梗塞患者において、一律のガイドなしデエスカレーション(チカグレロルベースDAPTからクロピドグレルDAPTへの変更)戦略は、主に出血イベントの減少により、12か月までの純臨床イベントリスクを有意に減少させた。

資金提供:ChongKunDang Pharm、Medtronic、Abbott、Boston Scientific

引用文献

Unguided de-escalation from ticagrelor to clopidogrel in stabilised patients with acute myocardial infarction undergoing percutaneous coronary intervention (TALOS-AMI): an investigator-initiated, open-label, multicentre, non-inferiority, randomised trial
Chan Joon Kim et al. PMID: 34627490 DOI: 10.1016/S0140-6736(21)01445-8
Lancet. 2021 Oct 9;398(10308):1305-1316. doi: 10.1016/S0140-6736(21)01445-8.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34627490/

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