歯磨きのタイミングと新血管疾患リスクとの関連性は?
歯科疾患は心血管疾患リスクと関連していることが報告されています。さらに周術期の口腔ケアが心臓血管外科手術の転帰にプラスの影響を与えることを示唆する報告もいくつかあります(PMID: 17761432、PMID: 29302279、PMID: 20508025、PMID: 34923726、PMID: 35525805、PMID: 30561631、PMID: 23626883)。これらの報告とは対照的に、口腔衛生は心血管疾患の長期予後と関連せず、1日2回以上歯を磨く人は1回しか歯を磨かない人に比べて心血管疾患の発症リスクが高いことを示唆する報告もあります(PMID: 32310852、PMID: 21827014)。
「1日1回の歯磨き」は、夜夕食後や就寝前の歯磨きを意味することもありますが、日常臨床では、夜間は歯を磨かず、朝朝食前にしか歯を磨かない中高年の患者に多く遭遇するようです。彼らの多くは、朝は口腔内が不潔であると認識し、口腔内沈着物の摂取を避けるために朝食前に歯を磨くようです。しかし、朝食を摂ることで口腔内に沈着物が付着し、それが一日中持続することで、歯周病やう蝕のリスクが高まることは想像に難くありません。
臨床経験から、夜間に歯を磨かない患者の背景には、A)夜間にアルコールを摂取し、歯を磨かずに就寝する、または歯を磨くのが億劫になる、B)仕事帰りで疲れており、歯を磨く時間が十分に取れない、のいずれかが考えられます。これらの患者への聞き取り調査では、A)の背景が圧倒的に多いことがわかっています(PMID: 37380762)。口腔内の歯垢や沈着物は1日中存在するという観点から、朝しか歯を磨かないということは、口腔衛生状態が悪いことを意味します。歯周病やう蝕以外の全身疾患にも影響がある可能性がありますが充分に検討されていません。
そこで今回は、歯磨きのタイミングが心血管疾患リスクに影響するかどうかを検討した観察研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
92例の無歯顎患者は除外され、合計1,583例の患者が対象となりました。朝のみ歯磨き(M)群は男性が女性の4倍多いことが明らかとなりました。
歯磨きタイミング | 心血管イベント発症のハザード比 HR (95%CI) |
朝夕 | HR 0.591 (0.378〜0.923) P=0.021 |
夕のみ | HR 0.550 (0.365〜0.830) P=0.004 |
朝のみ | HR 0.633 (0.374〜1.072) |
歯磨きしない | Reference |
心血管イベントの多変量解析では、朝夕歯磨き(MN)群(P=0.021)と夕のみ歯磨き(Night)群(P=0.004)の生存推定値が歯磨きをしない(None)群より有意に高いことが示されました。
喫煙状態に基づくサブグループのKaplan-Meier解析では、None群の喫煙者は他の群の喫煙者よりも心血管発症イベントの予後が有意に不良でした。また、None群およびM群の非喫煙者は入院時の予後が有意に不良でした。
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歯磨きの有無だけでなく、タイミングによっても心血管イベントの発症と関連している可能性がありますが、充分に検討されていません。
さて、日本のコホート研究の結果、夜間の歯磨きは心血管疾患リスクを低下させるために重要であることが示唆されました。
ただし、本試験は単施設での検討結果、さらにコホート期間が短い(1,583例の観察期間の中央値は441日:死亡176例、心血管イベント226例、入院762例)ため、追試が求められます。
続報に期待。
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