先天性心疾患手術を受けた幼小児における一酸化窒素の追加投与は有効ですか?(DB-RCT; NITRIC試験; JAMA. 2022)

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先天性心疾患手術を受けた幼小児における一酸化窒素投与は、低心拍出量症候群を軽減できるのか?

低心拍出量症候群(LOS)は、心臓手術後の循環管理の要になる合併症です。LOSは、心臓手術後に心拍出量を規定する4つの因子(心拍数、前負荷、後負荷、心収縮力)が障害され、心拍出量低下によって身体の酸素消費量と供給量のバランスが崩れてしまうことで発現します。術後LOSでは末梢組織が酸素供給不足となります。術後の循環動態の管理は、手術によってダメージを受けた心臓の機能が戻り、きちんと機能するまでLOSを起こさないように管理することが重要です。

心臓手術を受ける小児において、一酸化窒素を心肺バイパス装置のガス流中に投与すると、術後の低心拍出量症候群を軽減し、術後回復期間の改善と呼吸補助の期間の短縮につながる可能性があります。しかし、一酸化窒素を人工心肺装置内に投与することで、人工呼吸器を必要としない日数(生存して人工呼吸器から解放された日数)が改善されるかどうかは不明です。

そこで今回は、先天性心疾患の手術を受けた小児において、一酸化窒素を心肺バイパス装置内に投与した場合と標準治療を行った場合の人工呼吸器を必要としない日数への影響を検討したNITRIC試験の結果をご紹介します。本試験は、オーストラリア、ニュージーランド、オランダの6つの小児心臓外科センターで行われた二重盲検、多施設、ランダム化臨床試験です。2017年7月から2021年4月までに先天性心臓手術を受けた2歳未満の小児計1,371例をランダム化し、2021年5月24日に最後の参加者の28日間のフォローアップを完了しました。本試験の主要評価項目は、バイパス開始後28日目までの人工呼吸器を必要としない日数でした。

試験結果から明らかになったことは?

ランダム化された1,371例(平均[SD]年齢 21.2[23.5]週、女子587例[42.8%])中、1,364例(99.5%)が試験を完了しました。

一酸化窒素群標準治療群
人工呼吸器を必要としない日数中央値 26.6日
(IQR 24.4~27.4)
中央値 26.4日
(IQR 24.0~27.2)
絶対差-0.01日
(95%CI -0.25~0.22
P=0.92

人工呼吸器を必要としない日数は、一酸化窒素群と標準治療群の間で有意差はなく、中央値でそれぞれ26.6日(IQR 24.4~27.4) vs. 26.4日(IQR 24.0~27.2)で、絶対差は-0.01日(95%CI -0.25~0.22;P=0.92)でした。

一酸化窒素群の22.5%と標準治療群の20.9%が、48時間以内に低心拍出量症候群を発症し、48時間以内に体外式サポートを必要とし、28日目までに死亡し、調整オッズ比は1.12(95%CI 0.85~1.47)でした。その他の副次的アウトカムについて群間で有意差はありませんでした。

コメント

一酸化窒素吸入療法では、一酸化窒素が気体として経気道的に吸入されるため、換気のよい肺胞により多く取り込まれ、その肺胞周囲の血管拡張に作用することから、換気血流比不均衡を改善させます。また、肺血管抵抗を減少させることにより、右室機能の負荷を軽減させることが報告されています。

さて、本試験結果によれば、先天性心疾患に対する心肺バイパス術を受けた2歳未満の小児において、心肺バイパスによる一酸化窒素の使用は、人工呼吸器を必要としない日数に有意な影響を与えませんでした。ルーティンに一酸化窒素を投与することは勧められないようです。一酸化窒素は肺血管を拡張させることから肺高血圧を有していない場合には効果がないようです。

ちなみに日本では、一酸化窒素製剤として、アイノフロー吸入用800ppmが承認されており、以下の適応を有しています。

  • 新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全の改善
  • 心臓手術の周術期における肺高血圧の改善
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✅まとめ✅ 先天性心疾患に対する心肺バイパス術を受けた2歳未満の小児において、心肺バイパスによる一酸化窒素の使用は、人工呼吸器を必要としない日数に有意な影響を与えなかった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:心臓手術を受ける小児において、一酸化窒素を心肺バイパス装置のガス流中に投与すると、術後の低心拍出量症候群を軽減し、回復の改善と呼吸補助の期間の短縮につながる可能性がある。一酸化窒素を人工心肺装置内に投与することで、人工呼吸器不要日数(生存して人工呼吸器から解放された日数)が改善されるかどうかは、まだ不明である。

試験の目的:先天性心疾患の手術を受けた小児において、一酸化窒素を心肺バイパス装置内に投与した場合と標準治療を行った場合の無呼吸日数への影響を明らかにすること。

試験デザイン、設定、参加者:オーストラリア、ニュージーランド、オランダの6つの小児心臓外科センターで行われた二重盲検、多施設、ランダム化臨床試験。2017年7月から2021年4月までに先天性心臓手術を受けた2歳未満の小児計1,371例をランダム化し、2021年5月24日に最後の参加者の28日間のフォローアップを完了した。

介入:患者を、心肺バイパス酸素供給装置に供給される20ppmの一酸化窒素(679例)または一酸化窒素を含まない標準ケアの心肺バイパス(685例)に割り付けた。

主要アウトカムと測定:主要評価項目は、バイパス開始後28日目までの人工呼吸器を必要としない日数とした。副次的エンドポイントは低心拍出量症候群、体外式生命維持、死亡の複合、集中治療室滞在期間、入院期間、術後トロポニン値の4項目であった。

結果:ランダム化された1,371例(平均[SD]年齢 21.2[23.5]週、女子587例[42.8%])中、1,364例(99.5%)が試験を完了した。人工呼吸器を必要としない日数は、一酸化窒素群と標準ケア群の間で有意差はなく、中央値でそれぞれ26.6日(IQR 24.4~27.4) vs. 26.4日(IQR 24.0~27.2)で、絶対差は-0.01日(95%CI -0.25~0.22;P=0.92)であった。一酸化窒素群の22.5%と標準ケア群の20.9%が、48時間以内に低心拍出量症候群を発症し、48時間以内に体外式サポートを必要とし、28日目までに死亡し、調整オッズ比は1.12(95%CI 0.85~1.47)となった。その他の副次的転帰は群間で有意差はなかった。

結論と妥当性:先天性心疾患に対する心肺バイパス術を受けた2歳未満の小児において、心肺バイパスによる一酸化窒素の使用は、無呼吸日数に有意な影響を与えなかった。これらの知見は、心臓手術中に心肺バイパス酸素供給装置に送り込まれる一酸化窒素の使用を支持するものではない。

試験登録: anzctr.org.au Identifier: ACTRN12617000821392

引用文献

Effect of Nitric Oxide via Cardiopulmonary Bypass on Ventilator-Free Days in Young Children Undergoing Congenital Heart Disease Surgery: The NITRIC Randomized Clinical Trial
Luregn J Schlapbach et al. PMID: 35759691 DOI: 10.1001/jama.2022.9376
JAMA. 2022 Jul 5;328(1):38-47. doi: 10.1001/jama.2022.9376.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35759691/

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