心不全で入院歴のある患者に対してインセンティブを付与した1年間の集中遠隔モニタリングにより再入院や死亡を減らせますか?(PROBE; EMPOWER試験; JAMA Intern Med. 2022)

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心不全患者に対するインセンティブを付与した1年間の集中遠隔モニタリングプログラムの効果とは?

心不全の管理は、薬物療法、ライフスタイルの変更、フォローアップケア、患者の参加など、複雑な要素で構成されています(PMID: 16338449PMID: 21807328)。臨床医は、体重や服薬アドヒアランスの微妙な変化をタイムリーに認識し、臨床症状が悪化する前に介入する必要がありますが、こうした指標は通常、視界に入りません(PMID: 18381183PMID: 17846286)。その結果、HF再入院までの過程において介入する多くの潜在的な機会が認識されながらも、それらを実施するための効率的なアプローチがない、ということが起こっています(PMID: 20858878PMID: 19211468PMID: 21080835PMID: 21733889PMID: 15893183PMID: 15893183)。そのため、患者がセルフモニタリングに参加し、臨床医が診察以外の方法でその患者のケアに効率的に参加できるようにすることが望まれてきました。例えば、行動経済学の分野からの新しい洞察は、アドヒアランスのための直接的なインセンティブを与えるだけでなく、既知の行動傾向を利用するようにデザインされた報酬を提供することによって、この種の患者における治療モニタリングへの関与を持続させることができると期待されています(PMID: 22623635)。

毎日行われる宝くじは服薬アドヒアランスや体重減少を改善し、予期される後悔(当選したか、当選していたかを通知される)と変動報酬(頻繁に小さな報酬が得られ、頻繁に大きな報酬が得られる)を組み込んだものは、様々な文脈で魅力的であることが実証されています(PMID: 19066383)。さらに、新しい技術により、遠隔モニタリングからの重要な情報を電子カルテ(EHR)に自動的に統合することが可能となり、臨床ワークフローが簡素化され、ケアの文脈でデータが示されるようになりました。

そこで今回は、行動経済学的な考え方を取り入れた患者参加型の自動化アプローチが、退院したHF患者の再入院を減らすことができるかどうかを評価したランダム化比較試験、EMPOWER(Electronic Monitor-ing of Patients Offers Ways to Enhance Recovery)試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

552例のうち、290例は男性(52.5%)、291例は黒人(52.7%)、231例は白人(41.8%)、16例はヒスパニック(2.9%)、平均(SD)年齢は64.5(11.8)年でした。平均(SD)駆出率は43%(18.1%)でした。

介入群対照群
再入院77件423件
死亡23件26件
再入院または死亡の複合未調整ハザード比 0.91
(95%CI 0.74〜1.13
P=0.40

毎月、約75%の参加者が投薬と体重測定の両方を80%遵守していました。対照群では再入院が423件、死亡が26件、介入群では再入院が377件、死亡が23件でした。全原因入院患者の再入院または死亡という複合アウトカムに関して2群間に有意差はなく(未調整ハザード比 0.91、95%CI 0.74〜1.13;P=0.40)、全原因入院患者の再入院または観察入院または死亡、全原因心臓血管再入院または死亡、最初のイベントまでの時間、全原因死亡の合計に関して有意差はありませんでした。

介入群の参加者は、入院日数が少なくなる傾向がわずかにみられました。

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心不全の治療目標の一つに心不全による入院の回避が挙げられます。この理由としては、サイン入院の回数が増えるにつれて、死亡リスクが高まることが報告されているためです。弱っている心臓に度々負荷がかかるため、当然と言えば当然の結果です。

心不全治療においては、食塩や水分の摂取制限の他、薬物治療も行われますが、ここで重要となるのが服薬アドヒアランスです。過去の報告では、心不全治療に関する薬剤の服薬アドヒアランスが80%を下回ると、80%以上の集団と比較して、死亡リスク等の有害なアウトカム発生数が増加することが知られているためです。そのため、患者自身が服薬管理を円滑に行えるように処方の簡素化や服薬タイミングの適切な設定が求められます。

これまで様々な患者を対象に、インセンティブを付与したプログラムの効果を検証した試験が多く報告されていますが、入院歴を有する心不全患者における再入院予防を目的とした試験の結果は限られています。

さて、本試験結果によれば、ランダム化臨床試験において、心不全で入院歴のある患者に対してインセンティブを付与した1年間の集中遠隔モニタリングプログラムでは、再入院または死亡の複合アウトカムの減少はみられませんでした。服薬や体重測定の遵守率は介入群のみで示されており、観察期間開始時の約80%から終了時には60%になったようです。特に服薬アドヒアランスについては、対照群のデータが示されていないため、群間差があったのかについては明らかではありません。したがって、あくまでも推測ではありますが、インセンティブが服薬アドヒアランスに影響しなかった可能性があります。そのため、患者アウトカムに影響がなかったのではないでしょうか。

患者自身が心不全における再入院予防の意義を理解し、そのために食事制限、服薬アドヒアランスを向上するために取り組んでいく姿勢が求められます。

ちなみに本試験では、5ドルの配当が18%、50ドルの配当が1%の確率で得られる毎日のregret lottery(後悔くじ)インセンティブ(1日の期待値:1.40ドル)を受け取りました。 後悔くじとは、参加者が前日に服薬と体重測定の両方を守っていれば当選していたであろう賞金を知らされ、賞金を逃す後悔を患者が予期して避けようとするため、通常のくじよりも動機づけが強いと考えられています。また登録された参加者全員に、参加費として25ドルが支払われました。

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✅まとめ✅ ランダム化臨床試験において、心不全で入院歴のある患者に対してインセンティブを付与した1年間の集中遠隔モニタリングプログラムでは、再入院または死亡の複合アウトカムの減少はみられなかった。

根拠となった試験の抄録

試験の重要性:心不全(HF)退院後の患者を遠隔地から緊密にモニターすることにより、再入院や死亡を減らすことができるかもしれない。

目的:利尿剤のアドヒアランスと体重の変化を金銭的なインセンティブを用いて遠隔モニターすることにより、HF退院後の再入院や死亡が減少するかどうかを検討すること。

試験デザイン、設定、参加者:3病院のプラグマティック試験であるEMPOWER(Electronic Monitoring of Patients Offers Ways to Enhance Recovery)試験では、最近HFで退院した成人552例を通常ケア(280例)または利尿剤のアドヒアランスと患者の体重変化を臨床医に知らせるようデザインされた複合介入(272例)にランダムに割り付けた。患者は2016年5月25日から2019年4月8日に募集され、12か月間フォローアップされた。研究者は割り付けについて盲検化されたが、患者は盲検化されなかった。解析はintent to treatで行った。

介入:介入群にランダム化された参加者には、デジタル体重計、利尿薬用電子錠剤ボトル、および前日の服薬と体重測定の両方の遵守を条件とした後悔くじのインセンティブが与えられ、1日の期待値は1.40ドルとされた。参加者の体重が24時間で1.4kg、72時間で2.3kg増加した場合、または利尿剤の服用を5日間怠った場合、参加者の担当医に警告が出された。警告と体重は電子カルテに統合された。対照群にランダムに割り付けられた参加者は通常のケアを受け、それ以上の研究連絡はなかった。

主要アウトカムと測定法:12ヵ月以内の死亡または何らかの原因による再入院までの時間

結果:552例のうち、290例は男性(52.5%)、291例は黒人(52.7%)、231例は白人(41.8%)、16例はヒスパニック(2.9%)、平均(SD)年齢は64.5(11.8)年であった。平均(SD)駆出率は43%(18.1%)であった。
毎月、約75%の参加者が投薬と体重測定の両方を80%遵守していた。対照群では再入院が423件、死亡が26件、介入群では再入院が377件、死亡が23件であった。全原因入院患者の再入院または死亡という複合アウトカムに関して2群間に有意差はなく(未調整ハザード比 0.91、95%CI 0.74〜1.13;P=0.40)、全原因入院患者の再入院または観察入院または死亡、全原因心臓血管再入院または死亡、最初のイベントまでの時間、全原因死亡の合計に関して有意差はなかった。介入群の参加者は、入院日数が少なくなる傾向がわずかにみられた。

結論と妥当性:このランダム化臨床試験において、HFで入院歴のある患者に対してインセンティブを付与した1年間の集中遠隔モニタリングプログラムでは、再入院または死亡の複合アウトカムの減少はみられなかった。

試験登録:ClinicalTrials.gov Identifier. NCT02708654

引用文献

Remote Monitoring and Behavioral Economics in Managing Heart Failure in Patients Discharged From the Hospital: A Randomized Clinical Trial
David A Asch et al. PMID: 35532915 DOI: 10.1001/jamainternmed.2022.1383
JAMA Intern Med. 2022 Jun 1;182(6):643-649. doi: 10.1001/jamainternmed.2022.1383.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35532915/

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