日本における一般的な風邪症状に対する潜在的不適切処方の割合はどのくらい?(日本の横断研究; PLoS One. 2022)

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一般的な風邪症状に対する潜在的不適切処方の割合は?

風邪の症状は、海外でも日本でも、患者が医療機関を受診する主な理由の一つとなっています(PMID: 22962927PMID: 29264062)。従来、風邪の症状に対して医師は主に抗菌薬を処方していました。抗菌薬処方の実態(PMID: 19687581PMID: 25911505)や、感冒症状のある患者が抗菌薬を使用することによる弊害については、多くの研究により報告されています(PMID: 23697038PMID: 23733381)。

米国で発表された報告によると、薬剤耐性(毎年200万件以上の抗生物質耐性疾患が報告されている)、患者や医療制度への経済的負担(抗菌薬処方の約50%が不必要であり、年間30億ドル以上の医療費がかかっている)、副作用(抗菌薬使用患者の5~25%が副作用を経験)などを理由に、風邪には抗菌薬を極力処方すべきでないとされています(PMID: 12588210)。

日本では、2005年に感冒症状の外来患者の約60%が抗菌薬を処方されており(PMID: 19687581)、2016年に政府主導で「抗菌薬耐性対策行動計画」が策定されるきっかけとなりました。成人の感冒症状の治療を目的としたいくつかの薬剤は、症状の緩和に有用であるとされています。しかし、その効果は限定的であり(PMID: 27748955)、そのメリットとデメリットを考慮する必要があります。これまでの研究で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や第一世代抗ヒスタミン薬は高齢者には不適切な場合があり、この集団の感冒症状には頻繁に処方すべきではないことが指摘されています(Beers Criteria 2019)。しかし、日本における感冒に対する医師の処方が、国内外のエビデンスに準拠しているかどうかについては、充分なエビデンスがありません(PMID: 29221489)。

そこで今回は、日本における感冒薬に対する処方を調査し、患者への聞き取り調査を行った横断研究の結果をご紹介します。本研究では、島根県出雲市にある調剤薬局2店舗における感冒薬の処方箋が国内外のエビデンスに準拠しているかどうかを調査し、処方箋の妥当性を評価することが目的とされました。

試験結果から明らかになったことは?

選択された150例の患者のうち、14例が除外され、136例が分析に含まれました。男性は全体の44.9%を占め、患者の年齢中央値は34歳(四分位範囲[IQR] 27〜42)でした。

潜在的に不適切な処方適切な処方
風邪症状の患者における各処方割合89.0%11.0%
薬剤費(中央値)602.0円(IQR 479.7〜839.2)
[$5.2(IQR 4.2〜7.3)]
406.7(IQR 194.5〜537.2)
[$3.5(IQR 1.7〜4.7)]

潜在的に不適切な処方と適切な処方はそれぞれ89.0%と11.0%であり、薬剤費[ドル]の中央値はそれぞれ602.0円(IQR 479.7〜839.2)[$5.2(IQR 4.2〜7.3)]、406.7(IQR 194.5〜537.2)[$3.5(IQR 1.7〜4.7)] でした。

潜在的に不適切な処方として最も多かったのは、細菌感染症の症状がない患者への経口セフェム系抗菌薬の処方(50.4%)と、基礎疾患や既往歴により呼吸器症状がない患者へのβ2刺激薬の処方(33.9%)でした。

コメント

5種類以上の薬剤の使用のことをポリファーマシーと呼びますが、日本においては多剤併用という意味のほか薬剤使用に伴う有害事象あるいは副作用の発生リスク増加いう意味合いをも含めてポリファーマシーという言葉が使用されています。一方海外では、ポリファーマシーは単に5種類以上の薬剤を使用している状態を指し、薬剤の多剤併用による有害事象あるいは副作用の発生リスク増加については、潜在的な不適切処方(potentially inappropriate medicines, PIMs)と表現しています。

さて、本試験結果によれば、感冒症状に対する処方箋の約90%は潜在的に不適切な処方でした。潜在的に不適切な処方として最も多かったのは、細菌感染症の症状がない患者への経口セフェム系抗菌薬の処方(50.4%)と、基礎疾患や既往歴により呼吸器症状がない患者へのβ2刺激薬の処方(33.9%)でした。とはいえ、あくまでも日本の一部地域で相関関係が示されたに過ぎません。追試が求められます。

急性上気道炎など感冒に対する処方は、患者が薬剤の使用を希望する場合もあり、PIMsとなりやすい状況にあるといます。とはいえ、専門知識を有する医療従事者が、PIMsによる不利益について患者に情報提供を行い、患者理解度の向上、王道変容を促すことで患者QOL向上に寄与する必要があります。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 島根県簸川郡出雲町の2つの調剤薬局における横断研究の結果、感冒症状に対する処方箋の約90%は潜在的に不適切な処方であった。

根拠となった試験の抄録

背景:感冒は、患者が医療機関を受診する主な理由の一つである。しかし、日本における感冒の処方が国内外のエビデンスに則っているかどうかを調べた研究はほとんどない。

目的:感冒に対する処方箋が国内外のエビデンスに準拠しているかどうかを明らかにする。

方法:本横断研究は、2020年10月22日から2021年1月16日の間に実施した。島根県簸川郡出雲町の2つの調剤薬局を受診し、対象基準を満たした風邪症状の患者を対象に聞き取り調査を行った。

主要評価項目:各店舗の薬剤師と医師が、患者を不適切な処方の可能性があるグループと適切な処方のグループの2つに分類した。

結果:選択された150例の患者のうち、14例が除外され、136例が分析に含まれた。男性は全体の44.9%を占め、患者の年齢中央値は34歳(四分位範囲[IQR] 27〜42)であった。潜在的に不適切な処方と適切な処方はそれぞれ89.0%と11.0%であり、薬剤費[ドル]の中央値はそれぞれ602.0円(IQR 479.7〜839.2)[$5.2(IQR 4.2〜7.3)]、406.7(IQR 194.5〜537.2)[$3.5(IQR 1.7〜4.7)] であった。潜在的に不適切な処方として最も多かったのは、細菌感染症の症状がない患者への経口セフェム系抗菌薬の処方(50.4%)と、基礎疾患や既往歴により呼吸器症状がない患者へのβ2刺激薬の処方(33.9%)であった。

結論:本地域における感冒症状に対する処方箋の約90%は潜在的に不適切な処方であった。今回の結果は、感冒症状の治療薬の使用状況のモニタリングに貢献する可能性がある。

引用文献

Survey of potentially inappropriate prescriptions for common cold symptoms in Japan: A cross-sectional study
Yasuhisa Nakano et al. PMID: 35552542 PMCID: PMC9098006 DOI: 10.1371/journal.pone.0265874
PLoS One. 2022 May 12;17(5):e0265874. doi: 10.1371/journal.pone.0265874. eCollection 2022.
— 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35552542/

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