NOAC服用中の心房細動患者における虚血性脳卒中を発症した場合の虚血性イベントおよび大出血の再発率およびその決定因子は?
心房細動を有する患者で、非ビタミンK拮抗薬経口抗凝固薬(NOAC)治療中に虚血性脳卒中を発症した場合、虚血性イベントおよび大出血の再発率およびその決定因子は不明なままです。
どのような患者で虚血性イベントおよび大出血が再発するのかを把握する上で、リスク要因となる決定因子の同定は、NOAC治療における戦略立案において重要な意義があります。
そこで今回は、虚血・出血イベントの発生率およびその規定因子を推定することを目的とし、抗凝固療法を変更した患者と元の治療を継続した患者の虚血イベントおよび出血イベントの推定リスクを比較した前向き多施設観察研究の結果をご紹介します。
本研究ではNOAC治療中に急性脳血管虚血イベントを発症した治療継続中の心房細動患者が対象となりました。
試験結果から明らかになったことは?
平均追跡期間15.0±10.9ヵ月後、1,240例中192例(15.5%)に207件の虚血性イベントまたは出血性イベントが発生し、年率13.4%に相当しました。その内訳は、虚血性脳卒中111例、全身性塞栓症15例、頭蓋内出血24例、頭蓋外大出血57例でした。
予測因子 | 虚血性イベント(脳卒中と全身性塞栓症)再発のオッズ比 |
指標イベント後のCHA2DS2-VAScスコア | OR 1.2 (95%CI 1.0〜1.3/1ポイント上昇毎) P=0.05 |
高血圧 | OR 2.3 (95%CI 1.0〜5.1) P=0.04 |
虚血性イベント(脳卒中と全身性塞栓症)再発の予測因子には、指標イベント後のCHA2DS2-VAScスコア(オッズ比[OR] 1.2、95%CI 1.0〜1.3/1ポイント上昇毎、P=0.05)および高血圧(OR 2.3、95%CI 1.0〜5.1、P=0.04)などが挙げられました。
予測因子 | 出血イベント(頭蓋内出血および頭蓋外大出血)のオッズ比 |
年齢 | OR 1.1 (95%CI 1.0〜1.2/1歳増加毎) P=0.002 |
大出血歴 | OR 6.9 (95%CI 3.4〜14.2) P=0.0001 |
抗血小板薬 | OR 2.8 (95%CI 1.4〜5.5) P=0.003 |
出血イベント(頭蓋内出血および頭蓋外大出血)の予測因子としては、年齢(OR 1.1、95%CI 1.0〜1.2/1歳増加毎;P=0.002)、大出血歴(OR 6.9、95%CI 3.4〜14.2;P=0.0001)、抗血小板薬の同時投与(OR 2.8、95%CI 1.4〜5.5;P=0.003)などが挙げられました。
虚血性イベントおよび出血性イベントの発生率は、当初のNOAC治療を変更した患者と変更しなかった患者で差はありませんでした(OR 1.2、95%CI 0.8〜1.7)。
コメント
心房細動を有する患者で、NOAC治療中に虚血性脳卒中を発症した場合、虚血性イベントおよび大出血の再発率およびその決定因子を明らかにすることは、患者利益の向上につながります。虚血性イベントの中でも脳梗塞は死亡リスクや後遺症リスクが高いことから発症予防が求められます。
さて、本試験結果によれば、心房細動を有する患者のうち、NOAC治療中に虚血性脳卒中を発症したのは13.4%/年でした。虚血性イベント(脳卒中と全身性塞栓症)再発の予測因子として、指標イベント後のCHA2DS2-VAScスコアおよび高血圧が、出血イベント(頭蓋内出血および頭蓋外大出血)の予測因子としては、年齢、大出血歴、抗血小板薬の同時投与が挙げられました。
また、虚血性イベントおよび出血性イベントの発生率は、当初のNOAC治療を変更した患者と変更しなかった患者で差は認められませんでした。
基本的なことではありますが、患者背景の把握が求められます。特に心房細動の慢性期治療をフォローするのは薬局ですので、病院や患者と連携し、個々の患者における病態把握が求められます。
✅まとめ✅ 心房細動を有する患者で、NOAC治療中に虚血性脳卒中を発症した場合、虚血性イベント(脳卒中と全身性塞栓症)再発の予測因子として、指標イベント後のCHA2DS2-VAScスコアおよび高血圧が、出血イベント(頭蓋内出血および頭蓋外大出血)の予測因子としては、年齢、大出血歴、抗血小板薬の同時投与が挙げられた。
根拠となった試験の抄録
背景:心房細動を有する患者で、非ビタミンK拮抗薬経口抗凝固薬治療中に虚血性脳卒中を発症した場合、虚血性イベントおよび大出血の再発率およびその決定因子は不明なままである。
方法:この前向き多施設観察研究では、非ビタミンK拮抗薬経口抗凝固薬治療中に急性脳血管虚血イベントを発症した治療継続中の心房細動患者の追跡調査において、虚血・出血イベントの発生率およびその規定因子を推定することを目的とした。その後、抗凝固療法を変更した患者と元の治療を継続した患者の虚血イベントおよび出血イベントの推定リスクを比較した。
結果:平均追跡期間15.0±10.9ヵ月後、1,240例中192例(15.5%)に207件の虚血性イベントまたは出血性イベントが発生し、年率13.4%に相当する。その内訳は、虚血性脳卒中111例、全身性塞栓症15例、頭蓋内出血24例、頭蓋外大出血57例であった。
虚血性イベント(脳卒中と全身性塞栓症)の再発予測因子には、指標イベント後のCHA2DS2-VAScスコア(オッズ比[OR] 1.2[95%CI 1.0〜1.3]/1ポイント上昇毎、P=0.05)および高血圧(OR 2.3[95%CI 1.0〜5.1]、P=0.04)などが挙げられた。出血イベント(頭蓋内出血および頭蓋外大出血)の予測因子としては、年齢(OR 1.1[95%CI 1.0〜1.2]/1歳増加毎;P=0.002)、大出血歴(OR 6.9[95%CI 3.4〜14.2];P=0.0001)、抗血小板薬の同時投与(OR 2.8、95%CI 1.4〜5.5;P=0.003)などが挙げられた。
虚血性イベントおよび出血性イベントの発生率は、当初の非ビタミンK拮抗薬経口抗凝固薬治療を変更した患者と変更しなかった患者で差がなかった(OR 1.2[95%CI 0.8〜1.7])。
結論:非ビタミンK拮抗薬経口抗凝固薬治療を受けているにもかかわらず脳卒中を発症した患者は、虚血性脳卒中および出血の再発リスクが高いと考えられる。これらの患者では、虚血性脳卒中および出血の再発のメカニズムを解明し、二次予防を向上させるためのさらなる研究が必要である。
キーワード:抗凝固薬、心房細動、高血圧、虚血性脳卒中、再発
引用文献
Recurrent Ischemic Stroke and Bleeding in Patients With Atrial Fibrillation Who Suffered an Acute Stroke While on Treatment With Nonvitamin K Antagonist Oral Anticoagulants: The RENO-EXTEND Study
Maurizio Paciaroni et al. PMID: 35543133 DOI: 10.1161/STROKEAHA.121.038239
Stroke. 2022 May 11;101161STROKEAHA121038239. doi: 10.1161/STROKEAHA.121.038239. Online ahead of print.— 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35543133/
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