日本における2型糖尿病患者の2002年から2018年までの血糖コントロールの推移は?(横断研究; JDDM66試験; BMJ Open Diabetes Res Care. 2022)

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日本における2型糖尿病患者の血糖推移はどのように変化しているのか?

2型糖尿病は世界的な流行病であり、多くの国で公衆衛生や経済的負担に対する大きな脅威となっています。 2型糖尿病患者の予後を改善し、重篤な合併症の発症を予防するためには、厳格な血糖コントロールを長期にわたって維持することが重要です。多くの糖尿病診療ガイドラインでは、妊娠していない成人の血糖コントロールの治療目標として、糖化ヘモグロビンA1c(HbA1c)7.0%未満を推奨していますが(PMID: 29507945PMID: 33021749)、その達成・維持が困難な集団がいます。特に、多くの国で寿命が延び人口が著しく増加している高齢の2型糖尿病患者は、複数の合併症を併せ持ち、重症低血糖を起こしやすく、忍容性に乏しい場合が多いことが報告されています(PMID: 30603282)。そのため、最近の臨床ガイドラインでは、血糖目標値は、患者の参加と自己効力感を最適化するために、各患者のニーズと嗜好、治療のリスクとベネフィットに影響を与える個々の特性に対応した共有意思決定の観点から、個別化する必要があると強調されています(PMID: 29507945PMID: 33021749PMID: 30603282)。

過去20年間、新しい血糖降下薬の開発に多大な努力が注がれ、インスリンアナログ、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬(DPP4i)、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬(GLP-1RA)、ナトリウムグルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)などの新しい薬が糖尿病治療の臨床現場で使用できるようになりました。これらの新薬が糖尿病診療に導入されることで、併用療法を含めた糖尿病治療法の選択肢が広がり、より安全で良好な血糖コントロールが相対的に達成されると期待されています。 実際、一連の研究により、経口血糖降下薬に長時間作用型インスリンを追加することの利点が示されています(PMID: 14578243PMID: 16732007)。また、逆にインスリン療法に経口血糖降下剤を追加することの利点も示されています(PMID: 15220231PMID: 18227472)。2型糖尿病患者における血糖コントロールなどの糖尿病治療成績は改善し(PMID: 23614587PMID: 29892340)、糖尿病性血管障害の有病率は低下しています(PMID: 24738668)。この20年間で、インスリン製剤と非インスリン製剤の進歩により、糖尿病治療と血糖コントロールの割合が変化したものと考えられます。しかし、2型糖尿病患者における血糖コントロールの傾向はいくつかの研究で報告されているものの(PMID: 31901950)、インスリン療法やインスリンと経口血糖降下薬の併用療法を行っている人の詳細な傾向を調べた研究はほとんどありません(PMID: 23614587PMID: 33046501PMID: 34107181)。したがって、各糖尿病治療レジメンに応じた患者割合や血糖コントロールの傾向を明らかにすることが重要であると考えられます。このような糖尿病診療の傾向を把握することは、今後の研究や糖尿病診療における個別化医療への戦略上、非常に重要です。

そこで今回は、日本糖尿病臨床データ管理研究会の多施設大集団データベースを用いて、日本人の2型糖尿病患者を対象に、インスリン単独、インスリン+非インスリン併用、非インスリン薬単独、薬剤使用なしの患者における血糖コントロールの傾向を約20年にわたり調査・比較したJDDM66試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

患者率の推移2002年2018年
インスリン製剤のみ15.0%3.6%
インスリン製剤+非インスリン製剤8.1%15.1%
非インスリン製剤のみ50.8%67.0%
薬剤使用なし26.1%14.4%

2002年から2018年にかけて、インスリン製剤のみの患者は15.0%から3.6%に減少、インスリン製剤+非インスリン製剤の患者は8.1%から15.1%に増加、非インスリン製剤の患者は50.8%から67.0%に増加、薬剤使用なしの患者は26.1%から14.4%にそれぞれ減少していることが確認されました。

HbA1cの推移2002年2014年2018年
インスリン製剤のみ7.89%7.47%7.45%
インスリン製剤+非インスリン製剤8.09%7.66%7.63%
非インスリン製剤のみ7.51%6.93%6.98%

薬剤使用なしを除く各群のHbA1c値は、2014年まで減少を続け(2002年から2014年の未調整平均HbA1c(%):インスリン単独7.89→7.47、インスリン+非インスリン8.09→7.66、非インスリン7.51→6.93)、その後横ばいで推移していることが示されました。

インスリン治療患者では、ヒトインスリンの使用が減少し、長時間作用型インスリンアナログの使用が増加し、インスリン以外の薬剤の併用が増加(2002年の35.1%から2018年の80.9%)し、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬、ナトリウムグルコース共輸送体2阻害薬、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬の使用が増え、メトホルミンが持続的に高い使用となっていることが示されました。

コメント

2型糖尿病患者に対する血糖効果療法において、様々な薬剤が上市されています。海外の診療ガイドラインでは、メトホルミンの他、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の使用が推奨されています。一方、日本の診療ガイドラインでは、明確に推奨される薬剤はなく、個々の患者背景を考慮し、薬剤を選択することを推奨しています。ただし、いずれの場合も血糖コントロールをより適切に行い、糖尿病に伴う心血管イベントや死亡リスクの増加を抑え、健康な人と変わらない生活を送れるようにすることが目的となります。血糖コントロールの指標としてHbA1cが用いられますが、さまざまな薬剤使用に伴う血糖推移についてはデータが限られています。

さて、本試験結果によれば、過去20年間、日本人の2型糖尿病患者において、インスリン製剤と非インスリン製剤の併用が増加し、血糖コントロールは改善しましたが、2014年〜2018年では横ばいに推移していました。ベースラインのHbA1cにより血糖効果幅は異なるため一概には結論づけられませんが、薬剤の使用で血糖コントロールできるのは7〜7.6%といったところでしょうか。運動療法や食事療法がどの程度行われていたのか気にかかるところです。また日本人においては、白人と比較して、心血管イベントのリスク増加が小さいことが報告されています。各薬剤使用により心血管イベントのリスクがどの程度抑えられるのかについても確認したいところです。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 過去20年間、日本人の2型糖尿病患者において、インスリン製剤と非インスリン製剤の併用が増加し、血糖コントロールは改善したが、2014年〜2018年では横ばいに推移していた。

根拠となった試験の抄録

はじめに:日本人2型糖尿病患者を対象に、近年のインスリン製剤および非インスリン製剤の進歩により変化したと思われる糖尿病治療比率および血糖コントロールの傾向を調査した。

研究デザインおよび方法:日本糖尿病臨床データ管理研究会の多施設大集団データベースを用いて、連続横断研究を実施した。2002年から2018年の間に研究グループに属する診療所に通院した2型糖尿病患者を対象とし、多変量非線形回帰モデルを用いて治療群別の糖化ヘモグロビンA1c(HbA1c)の推移を検討した。

結果:2002年から2018年にかけて、インスリン製剤のみの患者は15.0%から3.6%に減少、インスリン製剤+非インスリン製剤の患者は8.1%から15.1%に増加、非インスリン製剤の患者は50.8%から67.0%に増加、薬剤なしの患者は26.1%から14.4%にそれぞれ減少していることが確認された。
薬剤なしを除く各群のHbA1c値は、2014年まで減少を続け(2002年から2014年の未調整平均HbA1c(%):インスリン単独7.89→7.45、インスリン+非インスリン8.09→7.63、非インスリン7.51→6.98)、その後横ばいで推移していることが示された。
インスリン治療患者では、ヒトインスリンの使用が減少し、長時間作用型アナログインスリンの使用が増加し、インスリン以外の薬剤の併用が増加(2002年の35.1%から2018年の80.9%)し、ジペプチジルペプチダーゼ4阻害薬、ナトリウムグルコース共輸送体2阻害薬、グルカゴン様ペプチド1受容体作動薬の使用が増え、メトホルミンが持続的に高い使用となっていることが示された。

結論:過去20年間、日本人の2型糖尿病患者において、インスリン製剤と非インスリン製剤の併用が増加し、血糖コントロールは改善し、2014年以降横ばいになった。糖尿病診療における個別化医療を目指した戦略を検討するためには、年齢やメタボリックシンドロームに関連する因子との関連について、さらなる検討が必要であると思われる。

キーワード:2型糖尿病、薬物療法、インスリン

引用文献

Trends in glycemic control in patients with insulin therapy compared with non-insulin or no drugs in type 2 diabetes in Japan: a long-term view of real-world treatment between 2002 and 2018 (JDDM 66)
Hiroki Yokoyama et al. PMID: 35504696 DOI: 10.1136/bmjdrc-2021-002727
BMJ Open Diabetes Res Care. 2022 May;10(3):e002727. doi: 10.1136/bmjdrc-2021-002727.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35504696/

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