Cockcroft-Gault(CG)式、 Modified Diet in Renal Disease(MDRD)、Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式による推定糸球体濾過量(eGFR)算出の違いとアウトカムへの影響は?
心房細動(AF)は、臨床現場で最も多くみられる持続性不整脈であり、血栓塞栓症および死亡のリスクを著しく高めます。7万人以上の患者を登録したランダム化比較試験により、非弁膜症性心房細動患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)(例:ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)は用量調整ビタミンK阻害薬(例:ワルファリン)より有効性に非劣性があり、頭蓋内出血および大出血のリスクは著しく少ないことが示されています(PMID: 24315724)。そのため、現在のガイドラインでは、ほとんどの臨床場面において、非弁膜症性心房細動患者にはワルファリンよりもDOACを優先して処方することが推奨されており(PMID: 30144419、PMID: 32860505)、DOACの日常的な使用が増加しています(PMID: 30354355)。
DOACは、患者の腎機能に応じて適切な投与量に調整する必要があります。適切な減量が行われないと出血の危険性が高まり、逆にDOACの不適切な減量は脳卒中予防効果を低下させる可能性があります。DOACの主要臨床試験や国際学会ガイドラインでは、患者の腎機能を推定するために、患者の年齢、性別、体重を考慮したCockcroft-Gault(CG)式が使用されています(PMID: 29562325)。 Modified Diet in Renal Disease(MDRD)やChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式による推定糸球体濾過量(eGFR)の算出には、CG式とは異なり体重に関する情報は必要ありません(PMID: 17855641、PMID: 24647050、PMID: 19414839)。そのため、MRDR式やCKD-EPI式に基づくeGFRは多くの検査機関で自動的に報告されており、日常診療においてより使いやすく便利なものとなっている可能性があります。しかし、異なる計算式を用いて算出されたeGFRの違いや、DOACの用量選択、その後の臨床転帰への影響に関するデータは限られています。
そこで今回は、アジア人の心房細動患者を対象に、異なる計算式(ゴールドスタンダードであるCG式に対してMDRD式またはCKD-EPI式)を用いて算出したeGFRの一致/不一致を検討したデータベース研究の結果をご紹介します。本試験では、異なる計算式の使用が使用するDOACの投与量(過小投与、適応内投与、過剰投与)に与える影響を検討し、最後に、ワルファリンと比較した臨床転帰(死亡率、大出血、虚血性脳血管障害/全身性塞栓)が評価されました。
試験結果から明らかになったことは?
eGFRのカットオフ値15未満、15〜50、50mL/min以上では、MDRDとCGの一致率は78%、CKD-EPIとCGの一致率は81%でした。各計算式の不一致は、特に75歳以上、体重50kg未満の患者での過大評価によるところが大きいようでした(MDRD:58.8%、CKD-EPI:50.9%)。
MRDR-eGFRとCKD-EPI-eGFRに基づく適応内投与とされたワルファリン治療患者とDOAC治療患者で、さらにCG-eGFRをゴールドスタンダードとして「一致」「不一致(過剰投与・過小投与)」に分類された臨床特性についても検討されました。不一致率はMDRD vs. CGで約2.9%、CKD-EPI vs. CGで約2.7%であり、不一致の多くは過剰投与によるものでした(MDRD vs. CGで90%、CKE-EPI vs. CGで81%)。
DOACs(vs. ワルファリン) | |
虚血性脳卒中/全身性塞栓症 | 調整HR [aHR] 0.78 (95%CI 0.61〜1.00) |
大出血 | aHR 0.34 (95%CI 0.26〜0.45) |
全死亡 | aHR 0.43 (95%CI 0.38〜0.49) |
患者の追跡期間中央値は18.6ヵ月(四分位範囲 6.4~35.1ヵ月)でした。ワルファリンと比較して、MDRD式とCG式で算出したeGFRの間で投与量が一致したDOACs治療を受けた患者は、虚血性脳卒中/全身性塞栓症(調整HR [aHR] 0.78、95%CI 0.61〜1.00)、大出血(aHR 0.34、95%CI 0.26〜0.45)、全死亡(aHR 0.43、95%CI 0.38〜0.49)のリスクが低いことと関連していました。
さらに、ワルファリン群とDOAC群の間で有意差があった変数(年齢、性別、BW、CHA2DS2-VAScスコア、HAS-BLEDスコア、慢性閉塞性肺疾患、sCr値)を調整した後の虚血性脳卒中/全身性塞栓症、大出血または死亡はaHR 0.47(95%CI 0.42〜0.52)でした。
虚血性脳卒中/全身性塞栓症(aHR 0.82、95%CI 0.39〜1.72)および大出血(aHR 0.57、95%CI 0.25〜1.32)のリスクは、MDRD式とCG式で算出したeGFR間で用量が不一致だったワルファリン投与患者とDOACs投与患者において同様でした。大出血のリスクについては、有意な交互作用P値(<0.001)が観察されました。CKD-EPIとCGの計算式で投与量が不一致または一致したワルファリン治療患者とDOAC治療患者を比較した場合も、結果はおおむね同じでした。
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腎機能の評価としては、eGFRが用いられていますが、その算出方法はいくつかあります。体重を考慮したCockcroft-Gault(CG)式は、やや煩雑であることから、Modified Diet in Renal Disease(MDRD)やChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI)式によるeGFRの算出が行われています。しかし、これらの算出方法の違いによる患者アウトカムへの影響は充分に検証されていません。
さて、本試験結果によれば、CG式と比較して、MDRD式およびCKD-EPI式は、かなりの割合のAF患者(MDRD式21%、CKD-EPI式17%)、特に75歳以上、体重50kg未満の患者のeGFRを過大評価する(MDRD式58.8%、CKD-EPI式50.9%)ことが示されました。また、DOACs治療を受けている患者のうち、約7.6%(MDRD式)、約6.5%(CKD-EPI式)が、CG式で算出したDOACsの投与量と不一致でした。さらにMDRD式またはCKD-EPI式に基づいて投与量が適切と定義されたDOACs投与患者のうち、CG式に基づいて投与量が真に適切となった患者のみが、ワルファリンと比較して大出血のリスクが低いことが明らかとなりました。
以上の結果から、CG式はeGFRを計算し、DOACの投与量を決定するためのゴールドスタンダードであると考えられます。
✅まとめ✅ CG式はeGFRを計算し、DOACの投与量を決定するためのゴールドスタンダードとして使用されるべきである。
根拠となった試験の抄録
背景:直接経口抗凝固薬(DOAC)のランダム化試験において、DOACの投与量を決定するために推定糸球体濾過量(eGFR)を算出するCockcroft-Gault(CG)式が採用された。
目的:著者らは、異なる計算式(CG、MDRD、CKD-EPI)で算出したeGFRの一致/不一致、およびDOACの投与量と臨床転帰への影響について調査することを目的とした。
調査方法:心房細動患者39,239例を含む台湾の多施設医療機関からの医療データを使用した。これらの患者のうち、DOACとワルファリンで治療された患者は、それぞれ11,185例と2,323例であった。
結果:eGFRのカットオフ値15未満、15〜50、50mL/min以上では、MDRDとCGの一致率は78%、CKD-EPIとCGの一致率は81%であった。各計算式の不一致は、特に75歳以上、体重50kg未満の患者での過大評価によるところが大きかった(MDRD:58.8%、CKD-EPI:50.9%)。MDRDまたはCKD-EPIに基づいて用量を「ラベル通り」と定義されたDOAC投与患者のうち、CGに基づいて用量を「本当にラベル通り」とした患者のみが,ワルファリンと比較して大出血のリスクが低かった(調整HR:0.34、95%CI 0.26〜0.45)。
結論:CGではなくMDRDやCKD-EPIを採用した場合、DOACの不適切な投与(主に過剰投与)を招き、ワルファリンと比較してDOACの利点が減殺されると思われる。CG式はeGFRを計算し、DOACの投与量を決定するためのゴールドスタンダードとして使用されるべきである。
引用文献
Different Renal Function Equations and Dosing of Direct Oral Anticoagulants in Atrial Fibrillation
Yi-Hsin Chan et al.
JACC: Asia. 2022 Feb, 2 (1) 46–58
ー 続きを読む https://www.jacc.org/doi/full/10.1016/j.jacasi.2021.11.006?utm
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