COVID-19に対するニルマトルビル(リトナビル併用下)の有効性・安全性は?
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染および関連する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による疾病は、引き続き世界の健康を脅かしています(ジョンズホプキンス大学)。高齢、喫煙、または心血管疾患、糖尿病、肥満、癌などの基礎臨床症状などの特定の特徴を有する集団では、重症COVID-19および関連する有害転帰のリスクが高くなることが報告されています(PMID: 32444460、PMID: 32674114、PMID: 33879826、PMID: 32335169)。あるメタ解析では、事前に指定した併存疾患を有する患者は、それらの疾患を有さない患者に比べ、重症のCOVID-19に進行する確率が約2倍、COVID-19による死亡確率が約5倍でした(PMID: 33879826)。高齢者の死亡率は、事前に指定した併存疾患を有する集団よりも高いかもしれません(PMID: 32444460、PMID: 32674114、PMID: 32091533)。
安全で効果的なCOVID-19の経口投与により、感染から重症化、入院、死亡への進行を防ぎ、臨床的回復までの時間を短縮し、感染率を低下させることができる治療法が必要とされています。このような治療法は、病院施設の過密状態や集中治療室のベッド数不足など、現在の医療システムの負担を軽減するのに役立つと考えられます。軽症から中等症のCOVID-19非入院患者に対する治療法としては、モノクローナル抗体があります。モノクローナル抗体は、重症COVID-19に進行するリスクの高い患者に対して食品医薬品局の緊急使用許可(EUA)の下で現在使用可能です(FDA、FDA、FDA、NIH、PMID: 34260849、PMID: 34706189、PMID: 34587383)。
Nirmatrelvir(ニルマトレビル、PF-07321332)は、SARS-CoV-2の3-キモトリプシン様システインプロテアーゼ酵素(Mpro)を標的とする経口投与の抗ウイルス剤です。Mproは、ウイルスの複製サイクル(すなわち、ウイルスポリプロテインの機能単位への処理)に不可欠であり(PMID: 25039866)、ヒトの類似体が認められていないことから、標的外活性化の可能性が低く、抗ウイルス標的として魅力的であると考えられます(PMID: 12746549)。ニルマトレビルは、in vitroにおいて、広範囲のコロナウイルスのMpro活性およびウイルス複製を強力に阻害しました。マウスモデルでは、経口投与により、SARS-CoV-2の肺力価がプラセボに比べ有意に低くなっています(PMID: 34726479)。ニルマトルビルは主にCYP3A4で代謝されます(PMID: 34726479)。CYP3A4阻害剤である低用量(100mg)リトナビルと併用することにより、ニルマトルビルの薬物動態が増強されます(PMID: 34726479、PMID: 20937904)。健康な被験者を対象としたファースト・イン・ヒューマン試験(ClinicalTrials.gov番号:NCT04756531)では、評価した最高用量および曝露量(ニルマトルビル500mgとリトナビル100mgを1日2回、10日間)まで、臨床的に許容できる安全性プロファイルが確認されました。シミュレーションの結果、ニルマトルビル300mg+リトナビル100mgの1日2回投与により、ニルマトルビルのin vitro 90%有効濃度(SARS-CoV-2ウイルスの増殖を90%抑制する濃度)の約5~6倍の血漿トラフ濃度を達成・維持することが確認されました。
今回ご紹介するEPIC-HR(Evaluation of Protease Inhibition for Covid-19 in High-Risk Patients)試験は、重症化リスクの高い軽症から中等症のCOVID-19を有する非入院成人において、ニルマトルビル+リトナビルの安全性と有効性を評価した試験です。
試験結果から明らかになったことは?
ニルマトレビル+リトナビル投与群 1,120例、プラセボ投与群 1,126例、合計 2,246例がランダム化され増した。
症状発現後3日以内に治療を受けた患者 (774例) | ニルマトレビル群 | プラセボ群 | 相対リスク減少 |
28日目までのCOVID-19関連の 入院または死亡 | 0.77% (3/389例) | 7.01% (27/385例) | 89.1% P<0.001 |
28日目までの死亡 | 0例 | 7例 |
症状発現後3日以内に治療を受けた患者(修正 intention-to-treat 集団、全解析集団の1,361例のうち774例で構成)を対象とした予定された中間解析では、28日目までのCOVID-19関連の入院または死亡の発生率は、ニルマトレビル群でプラセボ群より6.32%(95%信頼区間[CI] -9.04 ~ -3.59、P<0.001、相対リスク減少 89.1%)低いことが示されました。発生率はプラセボ群の7.01%(27/385例)、死亡 7例に対し、ニルマトレビル群は0.77%(3/389例)、死亡0例でした。
修正intention-to-treat集団 (1,379例) | ニルマトレビル群 | プラセボ群 | 相対リスク減少 |
28日目までのCOVID-19関連の 入院または死亡 | 0.72% (5/697例) | 6.45% (44/682例) | 88.9% P<0.001 |
28日目までの死亡 | 0例 | 13例 |
有効性は、修正intention-to-treat集団の1,379例の患者を含む最終解析でも維持され、その差は-5.81%ポイント(95%CI -7.78 〜 -3.84; P<0.001; 相対リスクの減少 88.9%)でした。死亡13例はすべてプラセボ群で発生しました。
治療開始5日目のウイルス量は、ニルマトレビル+リトナビルの方がプラセボよりも低く、発症後3日以内に治療を開始した場合の調整済み平均差は-0.868 log10 copies/mLでした。治療期間中に発現した有害事象の発現率は、両群で同程度であった(あらゆる有害事象:ニルマトルビル+リトナビル投与群 22.6% vs. プラセボ投与群 23.9%、重篤な有害事象:1.6% vs. 6.6%、投与中止に至った有害事象:2.1% vs. 4.2%)。また、味覚障害(5.6% vs. 0.3%)および下痢(3.1% vs. 1.6%)は、ニルマトルビル+リトナビルでプラセボより高頻度に発現しました。
コメント
COVID-19患者数は増減を繰り返しています。これは1本鎖RNAであるSARS-CoV-2が、多くの変異を繰り返すためです。マスクやワクチンなど基本的な感染対策をおこなったとしても感染者をゼロにすることは困難です。そのため治療薬の開発が求められています。
さて、本試験結果によれば、リトナビル併用下ニルマトレビルの5日間投与により、プラセボと比較して重症COVID-19への進行リスクが約89%低いことが示されました。この効果は症状発症後3日以内あるいは5日以内の投与で一貫して認められていました。薬剤関連の有害事象は、ニルマトレビルで86件(7.8%)、プラセボで42件(3.8%)でした。なかでも味覚障害と下痢はニルマトレビルで高頻度にみられたようですので、注意した方が良いモニタリング事項であると考えられます。
本試験では、変異株に関する情報が見当たりません。ニルマトレビルの標的部位を踏まえると、変異株によって有効性に差はあまりないかもしれません。しかし、今後も変異株が出現する可能性が高いことから、ニルマトレビルがどのような変異株に対して有効であったのか情報の蓄積が待たれます。
続報に期待。
✅まとめ✅ ニルマトルビル+リトナビルによる症候性COVID-19の治療では、プラセボと比較して重症COVID-19への進行リスクが約89%低く、安全性に関する懸念は明らかでなかった。
根拠となった試験の抄録
背景:Nirmatrelvir(ニルマトレビル)は経口投与可能な重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型メインプロテアーゼ(Mpro)阻害剤であり、in vitroでは強力な汎ヒトコロナウイルス活性を有している。
方法:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクが高く、症候性でワクチン未接種の非入院成人を、ニルマトレビル300mg+リトナビル100mg(薬物動態改善剤)またはプラセボを12時間ごとに5日間投与する群に1:1で割り付けた第2相二重盲検ランダム化比較試験を実施した。28日目までのCOVID-19関連の入院またはあらゆる原因による死亡、ウイルス量および安全性が評価された。
結果:ニルマトレビル+リトナビル投与群 1,120例、プラセボ投与群 1,126例、合計 2,246例がランダム化された。症状発現後3日以内に治療を受けた患者(修正 intention-to-treat 集団、全解析集団の1,361例のうち774例で構成)を対象とした予定された中間解析では、28日目までのCOVID-19関連の入院または死亡の発生率は、ニルマトレビル群でプラセボ群より6.32%(95%信頼区間[CI] -9.04 ~ -3.59、P<0.001、相対リスク減少 89.1%)低かった。
発生率はプラセボ群の7.01%(27/385例)、死亡 7例に対し、ニルマトレビル群は0.77%(3/389例)、死亡0例であった。
有効性は、修正intention-to-treat集団の1,379例の患者を含む最終解析でも維持され、その差は-5.81%ポイント(95%CI -7.78 〜 -3.84; P<0.001; 相対リスクの減少 88.9%)であった。死亡13例はすべてプラセボ群で発生した。治療開始5日目のウイルス量は、ニルマルトレルビル+リトナビルの方がプラセボよりも低く、発症後3日以内に治療を開始した場合の調整済み平均差は-0.868 log10 copies/mLでした。治療期間中に発現した有害事象の発現率は、両群で同程度であった(あらゆる有害事象:ニルマトレビル+リトナビル投与群 22.6% vs. プラセボ投与群 23.9%、重篤な有害事象:1.6% vs. 6.6%、投与中止に至った有害事象:2.1% vs. 4.2%)。また、味覚障害(5.6% vs. 0.3%)および下痢(3.1% vs. 1.6%)は、ニルマトルビル+リトナビルでプラセボより高頻度に発現した。
結論:ニルマトルビル+リトナビルによる症候性COVID-19の治療では、プラセボと比較して重症COVID-19への進行リスクが89%低く、安全性に関する懸念は明らかでなかった。
試験支援:ファイザー社
ClinicalTrials.gov番号:NCT04960202
引用文献
Oral Nirmatrelvir for High-Risk, Nonhospitalized Adults with Covid-19
Jennifer Hammond et al. PMID: 35172054 DOI: 10.1056/NEJMoa2118542
N Engl J Med. 2022 Feb 16. doi: 10.1056/NEJMoa2118542. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35172054/
関連記事
【COVID-19に対する新規経口抗ウイルス薬(モルヌピラビル、フルボキサミン、パクスロビド)の有効性と安全性(SR&MA; Ann Med. 2022)】
コメント