eGFR低下時におけるサイアザイド系類似利尿薬の効果は?
進行した慢性腎臓病(CKD)患者の高血圧治療にサイアザイド系利尿薬を使用することを支持するエビデンスはほとんどありません。高血圧治療ガイドライン2019において、一般的に利尿薬を使用する場合は利尿作用は低いものの降圧作用が強いサイアザイド系利尿薬を、ループ利尿薬よりも優先して使用するよう記載されています。しかし、eGFR 30mL/min/1.73m2の場合はサイアザイド系利尿薬の効果が低下することから、ループ利尿薬を優先して使用するよう記載されています。この作用機序の差異として、作用部位による違いが挙げられています。具体的には、サイアザイド系利尿薬が遠位尿細管のNaの再吸収を抑制し、体液循環量を低下させることによる降圧作用、また長期的には末梢血管抵抗を低下させることによる降圧作用を発揮するとされています。一方、ループ利尿薬は、ヘンレ係蹄の上行脚におけるNaCl再吸収の抑制に伴う体液循環量の低下、これにより降圧作用と利尿作用を発揮するとされています。したがって、腎機能(eGFRやCcrなど)低下により、遠位尿細管に到達するサイアザイド系利尿薬の量が低下することにより、利尿作用・降圧作用が低下するという理論です。
しかし、いずれの仮説も理論的な考察に基づくものであり、実際に進行性CKD患者におけるサイアザイド系利尿薬の作用検証は充分に行われていません。
そこで今回は、ステージ4のCKD患者で、24時間外来血圧測定によりコントロール不良の高血圧が確認された患者を対象に、サイアザイド系類似利尿薬であるクロルタリドン(日本では販売中止。グローバルでは一般的に使用されている薬剤)の有効性・安全性を検証したCLICK試験の結果をご紹介します。
本試験では、クロルタリドン初期用量として1日12.5mg、必要に応じて4週間ごとに増量して最大用量を1日50mgとするクロルタリドン群と、プラセボを投与する群に1:1の割合でランダムに割り付け、ループ利尿薬の使用歴によって層別化しました。主要評価項目は、ベースラインから12週間後までの24時間外来収縮期血圧の変化であり、副次的評価項目としては、尿中アルブミン/クレアチニン比、N-terminal pro-B型ナトリウム利尿ペプチド(NT pro-BNP)値、血漿レニンおよびアルドステロン値、総体的容積のベースラインから12週間までの変化を検証しました。また、安全性についても評価しています。
試験結果から明らかになったことは?
合計160例の患者がランダム化を受け、そのうち121例(76%)が糖尿病を患い、96例(60%)がループ利尿薬を投与されていました。ベースライン時の平均(±SD)推定糸球体濾過量(eGFR)は23.2±4.2mL/min/体表面積1.73m2で、処方されていた降圧薬の平均数は3.4±1.4でした。
クロルタリドン群 | プラセボ群 | |
24時間外来収縮期血圧 平均値±SD | 142.6±8.1mmHg | 140.1±8.1mmHg |
24時間外来拡張期血圧 | 74.6±10.1mmHg | 72.8±9.3mmHg |
ランダム化時の24時間外来収縮期血圧の平均値は、クロルタリドン群142.6±8.1mmHg、プラセボ群140.1±8.1mmHg、24時間外来拡張期血圧の平均値は、それぞれ74.6±10.1mmHg、72.8±9.3mmHgでした。
クロルタリドン群 | プラセボ群 | 群間差 | |
24時間収縮期血圧の 調整後変化量 | -11.0mmHg (95%CI -13.9 ~ -8.1) | -0.5mmHg (95%CI -3.5~2.5) | -10.5mmHg (95%CI -14.6 ~ -6.4) P<0.001 |
ベースラインから12週目までの24時間収縮期血圧の調整後変化量は、クロルタリドン群で-11.0mmHg(95%信頼区間[CI]-13.9 ~ -8.1)、プラセボ群で-0.5mmHg(95%CI -3.5~2.5)でした。群間差は-10.5mmHg(95%CI -14.6 ~ -6.4)でした(P<0.001)。
尿中アルブミン/クレアチニン比のベースラインから12週間までの変化率は、クロルタリドン群がプラセボ群よりも50%(95%CI 37~60)低いことが明らかとなりました。
低カリウム血症、血清クレアチニン値の可逆的な上昇、高血糖、めまい、高尿酸血症は、プラセボ群に比べてクロルタリドン群でより頻繁に発生しました。
コメント
これまでの通説では、eGFR 30mL/min/1.73m2のCKD患者において、サイアザイド系利尿薬の効果が低いとされてきました。そのため腎機能が低下した患者においては、ループ利尿薬を使用するよう推奨されています。
さて、本試験結果によれば、サイアザイド系類似利尿薬であるクロルタリドンは、プラセボと比較して、24時間収縮期血圧の調整後変化量の有意な低下が示されました。有料文献のため併用薬や併存疾患データの詳細が確認できていませんが、eGFRが30mL/min/1.73m2以下に低下した進行性CKD合併の高血圧患者においてもサイアザイド系類似利尿薬の効果はあるようです。ループ利尿薬との比較試験も実施してほしいところです。
続報に期待。
✅まとめ✅ 進行性CKDとコントロール不良の高血圧患者において、クロルタリドン療法はプラセボと比較して12週間の血圧コントロールを改善した。
根拠となった試験の抄録
背景:進行した慢性腎臓病(CKD)患者の高血圧治療にサイアザイド系利尿薬を使用することを支持するエビデンスはほとんどない。
方法:ステージ4のCKD患者で、24時間外来血圧測定によりコントロール不良の高血圧が確認された患者を、クロルタリドンを初期用量として1日12.5mg、必要に応じて4週間ごとに増量して最大用量を1日50mgとする群と、プラセボを投与する群に1:1の割合でランダムに割り付け、ループ利尿薬の使用歴によって層別化した。
主要評価項目は、ベースラインから12週間後までの24時間外来収縮期血圧の変化であった。副次的評価項目は、尿中アルブミン/クレアチニン比、N-terminal pro-B型ナトリウム利尿ペプチド(NT pro-BNP)値、血漿レニンおよびアルドステロン値、総体的容積のベースラインから12週間までの変化であった。また、安全性についても評価した。
結果:合計160例の患者がランダム化を受け、そのうち121例(76%)が糖尿病を患い、96例(60%)がループ利尿薬を投与されていた。ベースライン時の平均(±SD)推定糸球体濾過量(eGFR)は23.2±4.2mL/min/体表面積1.73m2で、処方されていた降圧薬の平均数は3.4±1.4であった。ランダム化時の24時間外来収縮期血圧の平均値は、クロルタリドン群142.6±8.1mmHg、プラセボ群140.1±8.1mmHg、24時間外来拡張期血圧の平均値は、それぞれ74.6±10.1mmHg、72.8±9.3mmHgであった。
ベースラインから12週目までの24時間収縮期血圧の調整後変化量は、クロルタリドン群で-11.0mmHg(95%信頼区間[CI]-13.9 ~ -8.1)、プラセボ群で-0.5mmHg(95%CI -3.5~2.5)であった。群間差は-10.5mmHg(95%CI -14.6 ~ -6.4)であった(P<0.001)。尿中アルブミン/クレアチニン比のベースラインから12週間までの変化率は、クロルタリドン群がプラセボ群よりも50%(95%CI 37~60)低かった。
低カリウム血症、血清クレアチニン値の可逆的な上昇、高血糖、めまい、高尿酸血症は、プラセボ群に比べてクロルタリドン群でより頻繁に発生した。
結論:進行性CKDとコントロール不良の高血圧患者において、クロルタリドン療法はプラセボと比較して12週間の血圧コントロールを改善した。
資金提供:National Heart, Lung, and Blood InstituteおよびIndiana Institute of Medical Research
CLICK ClinicalTrials.gov番号:NCT02841280
引用文献
Chlorthalidone for Hypertension in Advanced Chronic Kidney Disease
Rajiv Agarwal et al. PMID: 34739197 DOI: 10.1056/NEJMoa2110730
N Engl J Med. 2021 Nov 5. doi: 10.1056/NEJMoa2110730. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34739197/
関連記事
【高血圧患者の心血管安全性アウトカムに対するクロルタリドン vs. ヒドロクロロチアジド(後向きコホート研究; JAMA Intern Med.2020)】
【高血圧治療におけるカルシウム拮抗薬 vs. 他の降圧薬(SR&MA; コクランレビュー; Cochrane Database Syst Rev. 2021)】
【降圧薬クラス間において心血管イベント予防効果は異なりますか?(SR&NMA; JAMA Netw Open. 2020)】
【降圧薬クラス間において心血管イベント予防効果は異なりますか?(SR&NMA; JAMA Netw Open. 2020)】
コメント