2型糖尿病ハイリスク集団に対する生活習慣介入やメトホルミンの効果は?
2型糖尿病は、インスリン抵抗性やインスリン分泌低下などの代謝異常により、高血糖を引き起こす疾患です。高血糖状態が持続することで血管の内皮機能が低下し、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントも引き起こされることが知られています。
2型糖尿病の基本治療は食事療法と運動療法ですが、これらの介入でも血糖コントロールが不十分な場合は薬物療法が適用されます。薬物療法としては、メトホルミンが代表的であり、米国糖尿病学会(ADA)などの診療ガイドラインにおいて第一選択薬とされています。日本においても、糖尿病治療ガイド2020-2021で肥満を有する2型糖尿病患者においては第一選択薬とされています。
メトホルミンの2型糖尿病に対する効果について、ランダム化比較試験での検討は数件しかないものの、大規模な研究も含めて多くの前向きコホート研究で高い有効性が示されています。一方で、2型糖尿病の発症がハイリスクな患者におけるメトホルミンや生活習慣介入の効果は明らかではありません。
そこで今回は、Diabetes Prevention ProgramおよびDiabetes Prevention Program Outcomes Studyにおいて、メトホルミンや生活習慣の改善が全死亡率および原因別死亡率を低下させるかどうかを検討した研究結果をご紹介します。本研究では、1996年から1999年にかけて、2型糖尿病のリスクが高い成人3,234例を対象に、集中的な生活習慣介入、マスキングされたメトホルミン、またはプラセボにランダムに割り付けられました。その後、中央値で21年間に渡り長期に追跡された貴重な研究です。
試験結果から明らかになったことは?
中央値21年(四分位範囲20~21年)の間に453例の参加者が死亡しました。死因の第1位はがん(170例)で、次いで心血管疾患(131例)でした。
メトホルミン vs. プラセボ | 生活習慣の改善 vs. プラセボ | |
全死亡 | HR 0.99 (95%CI 0.79〜1.25) | HR 1.02 (95%CI 0.81〜1.28) |
がん死亡 | HR 1.04 (95%CI 0.72〜1.52) | HR 1.07 (95%CI 0.74〜1.55) |
心血管疾患死亡 | HR 1.08 (95%CI 0.70〜1.66) | HR 1.18 (95%CI 0.77〜1.81) |
プラセボと比較して、メトホルミンは、全死因(HR 0.99 [95%CI 0.79〜1.25])、がん(HR 1.04 [95%CI 0.72〜1.52])、心血管疾患(HR 1.08 [95%CI 0.70〜1.66])による死亡率に影響を与えませんでした。
同様に、生活習慣の改善は、全死亡(HR 1.02 [95%CI 0.81〜1.28])、がん(HR 1.07 [95%CI 0.74〜1.55])、心血管疾患(HR 1.18 [95%CI 0.77〜1.81])に影響を与えませんでした。
糖尿病の状態と期間、BMI、累積血糖値暴露および心血管リスクを調整した解析では、全死因死亡率と同様の結果が得られました。
コメント
2型糖尿病ハイリスク成人に対して、メトホルミンあるいは生活習慣の改善は、全死亡、がんによる死亡、心血管死亡率に影響を与えませんでした。本試験は観察期間が中央値21年というかなり長期の観察研究であり、非常に貴重な研究結果です。また、抄録からは読み取れませんが、糖尿病の発症率については、どちらの介入も抑制することが示されたようです。日本においては、メトホルミンを2型糖尿病発症リスクの高い集団へ使用することはできませんので、基本的には従来通り、生活習慣の改善を行うことが第一選択となりそうです。
2型糖尿病を発症してからのメトホルミンあるいは生活習慣改善の効果については、これまでの研究結果から、全死亡、がん死亡、心血管死亡率を抑制させる可能性が高いことが示されています。ただし、質の高いランダム化比較試験の報告が少ないです。
今後の研究結果に期待。
✅まとめ✅ 2型糖尿病リスクの高い集団におけるメトホルミンあるいは生活習慣の改善は、どちらも全死亡、がん死亡、心血管死亡率を低下させなかった。
根拠となった試験の抄録
目的:Diabetes Prevention ProgramおよびDiabetes Prevention Program Outcomes Studyにおいて、メトホルミンや生活習慣の改善が全死亡率および原因別死亡率を低下させるかどうかを検討する。
研究デザインと方法:1996年から1999年にかけて、2型糖尿病のリスクが高い成人3,234例を、集中的な生活習慣介入、マスキングされたメトホルミン、またはプラセボにランダムに割り付けた。
2001年にプラセボと生活習慣介入が中止され、修正された生活習慣プログラムが全員に提供されたが、当初ランダム化された人には盲検化されていない試験用メトホルミンが継続された。
2018年12月31日までの死亡原因は、盲検によって判定された。
全死因および死因特異的死亡のハザード比(HR)は、それぞれCox比例ハザード回帰モデルとFine-Grayモデルから推定した。
結果:中央値21年(四分位範囲20~21年)の間に453例の参加者が死亡した。死因の第1位はがん(170例)で、次いで心血管疾患(131例)であった。
プラセボと比較して、メトホルミンは、全死因(HR 0.99 [95%CI 0.79〜1.25])、がん(HR 1.04 [95%CI 0.72〜1.52])、心血管疾患(HR 1.08 [95%CI 0.70〜1.66])による死亡率に影響を与えなかった。同様に、生活習慣の改善は、全死亡(HR 1.02 [95%CI 0.81〜1.28])、がん(HR 1.07 [95%CI 0.74〜1.55])、心血管疾患(HR 1.18 [95%CI 0.77〜1.81])に影響を与えなかった。糖尿病の状態と期間、BMI、累積血糖値暴露および心血管リスクを調整した解析では、全死因死亡率と同様の結果が得られた。
結論:2型糖尿病のリスクが高い成人の死亡原因の第1位はがんであった。メトホルミンと生活習慣の改善は糖尿病を予防したが、どちらも全死因、癌、心血管死亡率を低下させなかった。
引用文献
Effect of Metformin and Lifestyle Interventions on Mortality in the Diabetes Prevention Program and Diabetes Prevention Program Outcomes Study
Christine G Lee et al. PMID: 34697033 DOI: 10.2337/dc21-1046
Diabetes Care. 2021 Oct 25;dc211046. doi: 10.2337/dc21-1046. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34697033/
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