市中肺炎の小児におけるアモキシシリンの至適投与量と治療期間とは?
市中肺炎(CAP)の小児に対する抗生剤投与は、リスクベネフィットの観点から短期間で行うことが求められます。CAPに対して一般的に推奨される抗生物質はアモキシシリンですが、その至適投与量と投与期間については充分に検討されていません。
そこで今回は、低用量のアモキシシリンが高用量のアモキシシリンと比較して非劣性であるかどうか、また3日間の治療が7日間の治療と比較して非劣性であるかどうかを検証したCAP-IT試験の結果をご紹介します。
CAP-IT試験は、2017年2月から2019年4月の間に英国の28病院とアイルランドの1病院の救急部および入院病棟で退院時にアモキシシリンで治療された、臨床的にCAPと診断された生後6ヵ月以上の小児824例を登録し、2019年5月21日に最終試験訪問を行う多施設、ランダム化、2×2ファクトリアルデザインの非劣性試験です。
試験に参加した小児は、低用量(35~50mg/kg/d;n=410)または高用量(70~90mg/kg/d;n=404)のアモキシシリンを、短期間(3日間;n=413)または長期間(7日間;n=401)で経口投与する群に1:1でランダムに割り付けられました。主要アウトカムは、ランダム化後28日以内の呼吸器感染症に対する臨床的に指示された抗生物質による再治療でした。
試験結果から明らかになったことは?
4群にランダム割り付けされた824例のうち、814例が少なくとも1回の治験薬投与を受け(年齢中央値[IQR] 2.5歳[1.6~2.7]、男性421例[52%]、女性393例[48%])、789例(97%)が主要アウトカムを確認できました。
主要アウトカム*の発生 | 群間差 (片側95%CI) | |
低用量投与群 | 12.6% | 0.2% (-∞ ~ 4.0%) |
高用量投与群 | 12.4% | |
3日間投与群 | 12.5% | 0.1% (-∞ ~ 3.9%) |
7日間投与群 | 12.5% |
主要アウトカムの発生について、低用量投与群と高用量投与群の比較では、低用量投与群で12.6%、高用量投与群で12.4%(差 0.2%[1-sided 95%CI -∞ ~ 4.0%])、3日間投与群で12.5%、7日間投与群で12.5%(差 0.1%[1-sided 95%CI -∞ ~ 3.9%])でした。両群とも、投与量と投与期間の間に有意な相互作用はなく、非劣性が示されました(P=0.63)。
事前に規定した14項目の副次評価項目のうち、咳の持続期間(中央値12日 vs. 10日、ハザード比(HR)1.2[95%CI 1.0~1.4]、P=0.04)と咳による睡眠障害(中央値4日 vs. 4日、HR 1.2[95%CI 1.0~1.4]、P=0.03)については、3日投与と7日投与の間でのみ有意差が認められました。
重症CAPのサブグループ解析において、主要評価項目の発生率は、低用量投与群で17.3%、高用量投与群で13.5%(差 3.8%[1側95%CI -∞ ~ 10%]、交互作用のP値=0.18)、3日間投与群で16.0%、7日間投与群で14.8%(差 1.2%[1側95%CI -∞ ~ 7.4%]、交互作用のP値=0.73)でした。
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アモキシシリンの投与用量、投与期間について検証した試験において、低用量の外来用経口アモキシシリンは高用量と比較して非劣性であり、3日間の投与期間は7日間のものと比較して非劣性であることが示されました。
サブグループ解析の結果、有意差はないものの、重症市中肺炎の小児においては、アモキシシリンの高用量、また7日間投与の方が主要アウトカムの発生率は低いことが示されました。
とは言え、市中肺炎の小児患者において、基本的なアモキシシリン投与は低用量(35~50mg/kg/d)かつ/または3日間の投与で充分な患者が多いと考えられます。どのような患者で高用量かつ/または7日間のアモキシシリン投与が必要であるか評価する必要があると考えられます。その一つの要因として、市中肺炎の重症化リスク評価があげられると考えられます。
✅まとめ✅ 救急部または病棟から退院したCAPの小児(48時間以内)において、抗生物質の再投与の必要性に関して、低用量の外来用経口アモキシシリンは高用量と比較して非劣性であり、3日間の投与期間は7日間のものと比較して非劣性であった。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:市中肺炎(CAP)の小児に対するアモキシシリンの至適投与量と投与期間は不明である。
目的:低用量のアモキシシリンが高用量のアモキシシリンと比較して非劣性であるかどうか、また3日間の治療が7日間の治療と比較して非劣性であるかどうかを明らかにする。
試験デザイン、設定および参加者:2017年2月から2019年4月の間に英国の28病院とアイルランドの1病院の救急部および入院病棟で退院時にアモキシシリンで治療された、臨床的にCAPと診断された生後6ヵ月以上の小児824例を登録し、2019年5月21日に最終試験訪問を行う多施設、ランダム化、2×2ファクトリアルデザインの非劣性試験。
介入:小児を、低用量(35~50mg/kg/d;n=410)または高用量(70~90mg/kg/d;n=404)のアモキシシリンを、短期間(3日間;n=413)または長期間(7日間;n=401)で経口投与する群に1:1でランダムに割り付けた。
主要アウトカムと測定法:主要アウトカムは、ランダム化後28日以内の呼吸器感染症に対する臨床的に指示された抗生物質による再治療であった。非劣性マージンは8%であった。
副次評価項目は、児の親が報告した9つのCAP症状の重症度/持続時間、3つの抗生物質関連有害事象、コロニー化したStreptococcus pneumoniae分離株の表現型耐性などであった。
結果:4群にランダム割り付けされた824例のうち、814例が少なくとも1回の治験薬投与を受け(年齢中央値[IQR] 2.5歳[1.6~2.7]、男性421例[52%]、女性393例[48%])、789例(97%)が主要アウトカムを確認できた。
低用量投与群と高用量投与群では、低用量投与群で12.6%、高用量投与群で12.4%(差 0.2%[1-sided 95%CI -∞ ~ 4.0%])、3日間投与群で12.5%、7日間投与群で12.5%(差 0.1%[1-sided 95%CI -∞ ~ 3.9%])に主要評価項目が発生した。両群とも、投与量と投与期間の間に有意な相互作用はなく、非劣性が示された(P=0.63)。
事前に規定した14項目の副次評価項目のうち、咳の持続期間(中央値12日 vs. 10日、ハザード比(HR)1.2[95%CI 1.0~1.4]、P=0.04)と咳による睡眠障害(中央値4日 vs. 4日、HR 1.2[95%CI 1.0~1.4]、P=0.03)については、3日投与と7日投与の間でのみ有意差が認められた。
重症CAPのサブグループにおいて、主要評価項目の発生率は、低用量投与群で17.3%、高用量投与群で13.5%(差 3.8%[1側95%CI -∞ ~ 10%]、交互作用のP値=0.18)、3日間投与群で16.0%、7日間投与群で14.8%(差 1.2%[1側95%CI -∞ ~ 7.4%]、交互作用のP値=0.73)であった。
結論と関連性:救急部または病棟から退院したCAPの小児(48時間以内)において、抗生物質の再投与の必要性に関して、低用量の外来用経口アモキシシリンは高用量と比較して非劣性であり、3日間の投与期間は7日間のものと比較して非劣性であった。しかし、重症度、治療環境、過去に投与された抗生物質、非劣性マージンの許容範囲などを考慮して、結果を解釈する必要がある。
試験登録:ISRCTN Identifier: ISRCTN Identifier: RRCTN76888927.
引用文献
Effect of Amoxicillin Dose and Treatment Duration on the Need for Antibiotic Re-treatment in Children With Community-Acquired Pneumonia: The CAP-IT Randomized Clinical Trial
Julia A Bielicki et al. PMID: 34726708 DOI: 10.1001/jama.2021.17843
JAMA. 2021 Nov 2;326(17):1713-1724. doi: 10.1001/jama.2021.17843.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34726708/
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