出血リスクの高い患者においては、DAPTからSAPTへ切り替えた方が良い?
経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けた患者の中には、出血リスクの高い(HBR)患者が存在しています。PCI後の血栓塞栓の発生予防のために二重抗血小板療法(DAPT)が実施されますが、HBR患者においては出血リスクの方が血栓塞栓リスク抑制を上回る可能性が高いです。したがって、DAPT後早期にアスピリンを中止することが出血リスク回避のための戦略として浮上しています。
そこで今回は、薬剤溶出性ステントでPCIを受けるHBR患者を対象に、早期のアスピリン中止後にチカグレロル単剤療法を行った場合の治療効果を評価したTWILIGHT試験の事前指定解析(TWILIGHT-HBR試験)の結果をご紹介します。
TWILIGHT試験では、イベント発生が認められていない患者を対象に、チカグレロルとアスピリンを3ヵ月間投与した後、チカグレロルに加えてアスピリンまたはプラセボを12ヵ月間投与する群にランダムに割り付けされています。
試験結果から明らかになったことは?
合計1,064例(17.2%)がAcademic Research ConsortiumのHBRの定義を満たしていました。
チカグレロ単剤療法は、HBR患者(6.3% vs. 11.4%、ハザード比(HR)0.53、95%信頼区間(CI)0.35〜0.82)において、チカグレロル+アスピリン療法と比較して、主要評価項目であるBREED Academic Research Consortium(BARC)2、3、5の出血の発生率を減少させ、さらに非HBR患者(3.5% vs. 5.9%、HR 0.59、95%CI 0.46〜0.77)においてもリスク減少は相対的に同程度でした。しかし、絶対的リスク減少は前者の方が大きい傾向が認められました
☆-5.1% vs. -2.3%、絶対的リスク差(ARD)の差 -2.8%、95%CI -6.4% ~ 0.8%、P=0.130
同様のパターンは、より重篤なBARC 3または5の出血についても観察され、HBR患者でより大きな絶対的リスク減少が見られました。
☆-3.5% vs. -0.5%、ARDの差 -3.0%、95%CI -5.2% ~ -0.8%、P=0.008
主要な副次評価項目である死亡、心筋梗塞、脳卒中の発生については、HBRの有無にかかわらず、治療群間で有意な差は認められませんでした。
コメント
出血リスクの高い患者においては、DAPT後早期にSAPTへ切り替えた方が、リスクベネフィットが高い可能性が考えられます。今回ご紹介した試験は、TWILIGHT試験の事前指定解析(TWILIGHT-HBR試験)ですので、あくまでも仮説生成的な結果である点には留意する必要があります。
さて、本試験結果によれば、出血リスクの高い患者において、DAPT後のチカグレロル単独療法は、チカグレロル+アスピリン療法と比較して、主要評価項目であるBREED Academic Research Consortium(BARC)2、3、5の出血の発生率を減少させました。また出血リスクの低い患者においても、同様のリスク減少が認められています。さらに死亡、心筋梗塞、脳卒中の発生については、HBRの有無にかかわらず、治療群間で有意な差は認められませんでした。
以上のことから、チカグレロル+アスピリンによるDAPT実施3ヵ月後に、チカグレロル単独療法を12ヵ月間実施することで、DAPTを継続した場合と比較して、出血リスクを抑えつつ、死亡、心筋梗塞、脳卒中の発生を抑制できると考えられます。
✅まとめ✅ 出血リスクの高い患者では、DAPT3ヶ月後にチカグレロル単独療法を行うことで、チカグレロル+アスピリン併用療法と比較して、虚血性事象を増加させることなく出血を減少させられるかもしれない
根拠となった試験の抄録
目的:経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けた患者の中には、出血リスクの高い(HBR)患者が多く存在する。短期間の二重抗血小板療法(DAPT)後、早期にアスピリンを中止することが出血回避の戦略として浮上している。本研究の目的は、現代のHBR集団において、3ヵ月間のDAPT後のチカグレロル単剤療法の効果を評価することであった。
方法:TWILIGHT試験の事前指定解析では、薬剤溶出性ステントでPCIを受けるHBR患者を対象に、早期のアスピリン中止後にチカグレロル単剤療法を行った場合の治療効果を評価した。イベント発生が認められない患者を、チカグレロルとアスピリンを3ヵ月間投与した後、チカグレロルに加えてアスピリンまたはプラセボを12ヵ月間投与する群にランダムに割り付けた。
結果:合計1,064例(17.2%)がAcademic Research ConsortiumのHBRの定義を満たしていた。チカグレロ単剤療法は、HBR患者(6.3% vs. 11.4%、ハザード比(HR)0.53、95%信頼区間(CI)0.35〜0.82)において、チカグレロル+アスピリン療法と比較して、主要評価項目であるBREED Academic Research Consortium(BARC)2、3、5の出血の発生率を減少させたが、非HBR患者(3.5% vs. 5.9%、HR 0.59、95%CI 0.46〜0.77)では相対的に同程度であった。絶対的リスク減少は前者の方が大きい傾向にあった(-5.1% vs. -2.3%、絶対的リスク差(ARD)の差 -2.8%、95%CI -6.4% ~ 0.8%、P=0.130)。
同様のパターンは、より重篤なBARC 3または5の出血についても観察され、HBR患者でより大きな絶対的リスク減少が見られた(-3.5% vs. -0.5%、ARDの差 -3.0%、95%CI -5.2% ~ -0.8%、P=0.008)。
主要な副次評価項目である死亡、心筋梗塞、脳卒中については、HBRの有無にかかわらず、治療群間で有意な差は認められなかった。
結論:PCIを受け、重篤な有害事象を起こすことなく3ヵ月間のDAPTを完了したHBR患者では、アスピリンを中止した後にチカグレロル単独療法を行うことで、チカグレロル+アスピリン併用療法と比較して、虚血性事象を増加させることなく出血を有意に減少させることができた。大出血の絶対的リスク減少は、HBR患者の方が非HBR患者よりも大きかった。
キーワード:ARC-HBR、アスピリン、高出血リスク、PCI、チカグレロル単剤療法
引用文献
Ticagrelor monotherapy in patients at high bleeding risk undergoing percutaneous coronary intervention: TWILIGHT-HBR
Javier Escaned et al. PMID: 34662382 DOI: 10.1093/eurheartj/ehab702
Eur Heart J. 2021 Oct 18;ehab702. doi: 10.1093/eurheartj/ehab702. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34662382/
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