中等症のCOVID-19に対するアビガン®の有効性・安全性はどのくらい?(RCT; Infect Dis Ther. 2021)

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中等症のCOVID-19に対するファビピラビル(アビガン®️)の有効性とは?

コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の原因となる重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、2019年12月に初めて報告されて以来、急速に広がっています。2021年5月10日現在、1億5,700万人以上の患者が報告されており、死者数は320万人を超えています(WHO)。このような状況下で、この新興ウイルス感染症に対する多くの薬剤が研究されています。しかし、COVID-19に対する治療の選択肢が充分であるとは言い難い状況です。

ファビピラビルは、日本で「新型または再興型インフルエンザウイルス感染症」として承認されており、ウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害します。ファビピラビルは、インフルエンザウイルスだけでなく、幅広い種類のRNAウイルスに対して抗ウイルス作用を示します(PMID: 17606691PMID: 22022624)。本剤のSARS-CoV-2に対する抑制効果は、in vitro試験で初めて報告されました(PMID: 32020029)。これまでの報告では、ファビピラビルがSARS-CoV-2に対して、鎖の終結、RNA合成の遅延、致死的な変異誘発の組み合わせによって抗ウイルス作用を発揮することが示唆されていました(PMID: 32943628PMID: 32284326)。

ファビピラビルの臨床的有効性は、Caiらによって初めて報告された。 彼らは、ロピナビル/リトナビルと比較して、SARS-CoV-2クリアランスまでの時間と胸部画像所見の改善までの時間において、ファビピラビルが有意に有効であることを報告しましたが(PMID: 32346491)、これらの結果は、非ランダム化・非盲検化デザインによって得られたものです。このように、ファビピラビルの臨床効果は、充分な対照試験で確認されていません。また、どのような患者がファビピラビルの治療に適しているのかも不明です。

そこで今回は、ランダム化プラセボ対照でファビピラビルの臨床効果を確認した試験の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

合計156例の患者がランダム化されました。主要評価項目の期間中央値は、ファビピラビル投与群で11.9日、プラセボ投与群で14.7日であり、有意差が認められました(p=0.0136)。

ファビピラビルを投与された患者のうち、肥満や併発疾患などの既知の危険因子を持つ患者では、より良い効果が得られました。さらに、ファビピラビル群の早期発症患者では、高いオッズ比を示しました。なお、死亡例は認められませんでした

有害事象については、ファビピラビル群で一過性のものが多かったが、発生率は有意に高いことが示されました。

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試験に参加した全患者のうち、主要評価項目とした28日間のCOVID-19症状(体温、SpO2、胸部画像の所見、定性試験でのSARS-CoV-2陰性化)の改善に関するKaplan-Meier曲線において、ファビピラビルは、プラセボと比較して、期間中央値は、ファビピラビル投与群で11.9日、プラセボ投与群で14.7日であり、約3日間の短縮が示されました。しかし、群間差が認められているのは、治療開始後の10日以降であり、試験開始時の例数から約半分となっています。したがって、試験結果がくつがえる可能性は充分にあります。また脱落者が多いことから、今回の結果は過大評価されている可能性が高いと考えられます。さらに主要評価項目は複合であることから結果の解釈に注意を要します。主要評価項目に含まれた個々の構成要素をみていく必要があります。

主要評価項目を構成する各要素(パラメータ)について、胸部画像所見の改善までの時間(中央値)は、ファビピラビル群がプラセボ群よりも有意に短かいことが示されました(p=0.0287)。定性試験でSARS-CoV-2陰性に回復するまでの時間(中央値)においてもファビピラビル群で有意に短いことが明らかとなりました(p=0.0405)が、体温とSpO2については同程度でした。とはいえ、胸部画像所見の改善までの時間、およびSARS-CoV-2陰性に回復するまでの時間は、いずれも群間差で0.9日です。臨床上、有益であるとまでは言えないと考えられます。

これまでにCOVID-19に対する使用が認められたデキサメタゾンやレムデシビル、レムデシビル+バリシチニブの結果と比較すると、やはり物足りない結果です。また総死亡などのよりハードなアウトカムを検証していない点が気にかかります。COVID-19は重症化すると血栓塞栓症、肺炎、死亡リスクが高まることから、これらのアウトカムについても検証する必要があります。

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✅まとめ✅ ファビピラビルはCOVID-19肺炎の中等症において、プラセボと比較して28日間のCOVID-19症状(体温、SpO2、胸部画像の所見、定性試験でのSARS-CoV-2陰性化)の改善が示されたが、臨床上有益な結果であるとは言い難い

根拠となった試験の引用

はじめに:コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の原因である重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、エンベロープ型の一本鎖のRNAウイルスである。ファビピラビルは、RNA依存性のRNAポリメラーゼを選択的に阻害することを作用機序とする経口投与可能な抗ウイルス剤です。COVID-19患者を対象とした予備的な試験では、多数の臨床パラメータにおいて有意な改善が報告されているが、これらの知見は十分な対照試験で確認されていない。我々は、酸素療法を必要としない中等度の肺炎患者を対象に、ファビピラビルの有効性と安全性を評価するため、ランダム化単盲検プラセボ対照第III相試験を実施した。

方法:発熱(体温37.5℃以上)から10日以内の中等症の肺炎(SpO2 94%以上)を有するCOVID-19患者を、プラセボまたはファビピラビル(1日目に1800mgを1日2回、その後800mgを1日2回、最大13日間)の投与に1:2の割合で割り付けた。サンプルサイズを再推定するために、アダプティブデザインを採用した。
主要評価項目は、体温、酸素飽和度(SpO2)、胸部画像上の所見が改善し、SARS-CoV-2陰性に回復するまでの時間と定義された複合転帰であった。このエンドポイントは、中央委員会が盲検下で再検討した。

結果:合計156例の患者がランダム化された。主要評価項目の期間中央値は、ファビピラビル投与群で11.9日、プラセボ投与群で14.7日であり、有意差が認められた(p=0.0136)。
ファビピラビルを投与された患者のうち、肥満や併発疾患などの既知の危険因子を持つ患者では、より良い効果が得られた。さらに、ファビピラビル群の早期発症患者では、高いオッズ比を示した。なお、死亡例は認められなかった。
有害事象はファビピラビル群では一過性のものが多かったが、発生率は有意に高かった。

結論:今回の結果から、ファビピラビルはCOVID-19肺炎の中等症治療の選択肢の1つであることが示唆された。ただし、高尿酸血症などの有害事象のリスクを十分に考慮する必要がある。

試験の登録:Clinicaltrials.jpの番号 JapicCTI-205238

キーワード:COVID-19、ファビピラビル、酸素療法を必要としない中等度の肺炎、経口抗ウイルス剤、第III相臨床試験、SARS-CoV-2、治療効果

引用文献

Efficacy and Safety of Favipiravir in Moderate COVID-19 Pneumonia Patients without Oxygen Therapy: A Randomized, Phase III Clinical Trial
Masaharu Shinkai et al. PMID: 34453234 PMCID: PMC8396144 DOI: 10.1007/s40121-021-00517-4
Infect Dis Ther. 2021 Aug 27;1-21. doi: 10.1007/s40121-021-00517-4. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34453234/

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