敗血症性ショック患者におけるフルドロコルチゾン +ヒドロコルチゾン vs. ヒドロコルチゾン単独(TTEデザイン; JAMA Intern Med. 2023)

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敗血症性ショック患者の入院死亡やホスピス退院に対するステロイド併用の効果は?

敗血症の重症例では、副腎皮質ホルモンでステロイドの一種であるコルチゾールの分泌が不良となり、これを重症関連コルチコステロイド障害(critical illness-related corticosteroid insufficiency, CIRCI)と呼びます。コルチゾールが不足すると、カテコラミンへの反応性が低下することや、炎症性サイトカインの分泌過多に陥る可能性があり、抹消血管が拡張するウォームショックを引き起こします。

したがって、敗血症性ショック患者では、コルチコステロイドの投与開始が有効であると考えられます。しかし、最も研究されている2つのコルチコステロイドレジメン(ヒドロコルチゾン+フルドロコルチゾンの併用 vs ヒドロコルチゾン単独)のうち、どちらが優れているのかについては明らかにされていません。

そこで今回は、敗血症性ショック患者において、ヒドロコルチゾンにフルドロコルチゾンを追加した場合とヒドロコルチゾン単独の場合の有効性を、ターゲットトライアルエミュレーションを用いて比較した後向きコホート研究の結果をご紹介します。

2016年から2020年まで実施されたレトロスペクティブ・コホート研究は、米国の入院の約25%を含む、強化された請求ベースのPremier Healthcare Databaseを使用しました。参加者は、敗血症性ショックで入院し、ノルエピネフリンを投与されている成人患者で、ヒドロコルチゾン治療を開始した患者でした。データ解析は、2022年5月から2022年12月まで行われました。

本試験では、ヒドロコルチゾン治療を開始したのと同じ暦日にフルドロコルチゾンを追加した場合と、ヒドロコルチゾン単独を使用した場合が比較検討されました。

本試験の主要アウトカムは病院での死亡またはホスピスへの退院の複合でした。

試験結果から明らかになったことは?

ヒドロコルチゾン-フルドロコルチゾンで治療を開始した2,280例(年齢中央値 64[IQR 54〜73]歳、女性 1,041例、男性 1,239例)とヒドロコルチゾン単独で治療を開始した85,995例(年齢中央値 67[IQR 57〜76]歳、女性 42,136例、男性 43,859例)の計88,275例が解析の対象とされました。

ヒドロコルチゾン-フルドロコルチゾンヒドロコルチゾン単独調整絶対リスク差
入院中の死亡またはホスピスへの退院1,076例(47.2%)43,669例(50.8%)-3.7%
(95%CI -4.2% ~ -3.1%
P<0.001

主要複合アウトカムである入院中の死亡またはホスピスへの退院は、ヒドロコルチゾン-フルドロコルチゾンによる治療を受けた1,076例(47.2%)とヒドロコルチゾン単独による治療を受けた43,669例(50.8%)で起こりました(調整絶対リスク差 -3.7%、95%CI -4.2% ~ -3.1%; P<0.001)。

コメント

敗血症性ショックにおいては、コルチコステロイドが用いられますが、どのレジメンが最適なのかについては充分に検証されていません。

さて、Target trial emulationを用いた解析の結果、ヒドロコルチゾン治療を開始した敗血症性ショックの成人患者を対象とした本比較効果コホート研究において、病院での死亡またはホスピスへの退院の複合に対して、フルドロコルチゾンの追加はヒドロコルチゾン単独より優れていることが示されました。

ただし、死亡とホスピスへの退院、どちらの影響が大きいのかについては、抄録からは読み取れません(有料文献)。また基となったデータは米国のみですので、外挿性に課題が残ります。さらに、データは2016年から2020年を対象としており、この間に管理方法などの治療水準に変化があると考えられます。したがって、本試験結果のみで結論を出すことは困難であると考えます。

続報に期待。

ランダム化比較試験を模倣する “target trial emulation” とは?

現象の因果関係を明らかにするためにランダム化比較試験(RCT)の実施が求められますが、実施コストが高いことから、代替案が求められます。観察研究は研究デザインにかかわらず交絡の影響が入り込みやすいですが “目標となるRCTの模倣” が成功すれば、観察研究でRCTと同じ効果推定値が得られることになります。この試験デザインを “target trial emulation” と言います。

BMJ 2022(PMID: 36041749)をもとに、観察研究にRCTの研究デザイン原則を適用するための “target trial emulation” のプロセスをまとめておきます。

適格基準:target trialの適格基準を明示し、ベースライン時の各値にのみ基づくようにすることを保証すること。
治療方法:target trialで対象者を割り付ける具体的な治療、持続的な治療の場合は対象者がその治療を順守すべき期間、割り付けられた治療を中止または変更できる正当な理由を策定する(例:試験開始時にアトルバスタチン10mg/日で服用を開始し5年間または禁忌が生じるまで継続する群 vs. 試験開始時または今後5年以内、スタチンの適応が生じるまでいかなるスタチンも服用しない群)。
※研究デザインからプラセボ対照を模倣することはできない。
割付け:観察データは日常臨床ですでに行われている治療を反映しているため、データが適合する治療に個人を割り付け、ベースラインの共変量を調整して交絡をコントロールしなければならない。交絡の調整に必要な共変量の最小セットは、因果関係を示す有向非巡回グラフを用いて選択すること。
評価項目(アウトカム):アウトカムの定義(例:ICD-10診断コードの使用)、使用した測定アルゴリズムやツールの妥当性・信頼性の明示すること。
フォローアップ:フォローアップ開始は、対象者選択(適格基準を満たしたとき)、治療割付け、アウトカム集計開始の3つの時点と一致させる必要がある。観察研究ではこのルールから外れやすく、選択バイアス、不死時間(immortal time)バイアスなどが生じる可能性がある。その後のフォローアップは、アウトカムの発生、打切り、死亡、競合イベントまたはフォローアップ終了(管理上またはそれ以外)のいずれか早い時点まで継続。
因果関係:治療割付けに関するデータ(たとえば、処方箋発行)が利用可能で、対象者がベースライン時にデータが適合する治療に従って解析される場合、Intention-To-Treat(ITT)効果の観察的類似点を目標とすることができる。Per-Protocol(PP)効果(割り付けられた治療を完全に順守した場合の効果)を目標とすることも可能。
統計方法:観察データを用いてITT解析を行う場合、標準的な統計手法を用いてベースラインの共変量を調整すること。

a man in a green attire holding a cross cutout

✅まとめ✅ Target trial emulationを用いた解析の結果、ヒドロコルチゾン治療を開始した敗血症性ショックの成人患者を対象とした本比較効果コホート研究において、病院での死亡またはホスピスへの退院の複合に対して、フルドロコルチゾンの追加はヒドロコルチゾン単独より優れていた。

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