CKDに対する降圧薬の効果は?
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、これらのレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬のランダム化試験では、プラセボや利尿薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬(CCB)などの代替薬に比べて、慢性腎臓病(CKD)の進行を遅らせる効果があることが示されています(PMID: 9217756、PMID: 11565518、PMID: 11453706、PMID: 11565517、PMID: 9788454、PMID: 17475813)。
臨床ガイドラインでは、糖尿病の有無にかかわらず、CKDの糸球体濾過量(GFR)カテゴリー1〜3(G1〜G3)およびタンパク尿を有する患者に対して、RAS阻害剤を第一選択の薬理学的降圧治療戦略として推奨しています(KDIGO、PMID: 29146535、PMID: 30165516)。しかし、CKD G4-G5の患者におけるRAS阻害剤治療の有用性に関するエビデンスは少なく、主要な臨床試験にもあまり参加していません。小規模なランダム化試験(PMID: 16407508)や様々な観察研究(PMID: 24343093、PMID: 28802945、PMID: 28122064、PMID: 16518351)では、RAS阻害剤がプラセボや無投与と比較して腎保護作用をもたらすことが示唆されていますが、他の降圧剤と比較してRAS阻害剤治療を選択するための情報となるデータはありません(PMID: 32734244、PMID: 30371331)。
最近の研究では、CKD G3-G5のかなりの割合の患者がRAS阻害剤治療を受けていないことが示されています(PMID: 32734244、PMID: 30371331、PMID: 31169352)。最近のNational Kidney Foundation-Kidney Disease Outcomes Quality Initiative (NKF-KDOQI) controversies report(PMID: 30201547)では、比較効果データの欠如が重要な知識のギャップであると指摘され、診療に役立つさらなる研究の必要性が強調されています。
CCBは、過去の試験でRAS阻害剤の実薬対照として使用されていますが、これらの試験では、層別化が可能な進行したCKD患者はほとんど含まれていませんでした。臨床試験の結果が得られない場合、日常的に治療を受けている患者を対象とした観察研究から、薬剤の相対的な有効性についての知見を得ることができます。
そこで今回は、進行したCKD患者(eGFR <30mL/min/1.73m2)を対象に、RAS阻害薬とCCBを比較した観察研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
Swedish Renal Registryにおける2007年から2017年までの観察研究における患者コホートでは、年齢の中央値 74歳、女性 38%、追跡期間の中央値 4.1年でした。
対象となったのは、腎臓内科医がフォローアップを行っている推定糸球体濾過量<30mL/min/1.73m2のRAS阻害薬の新規使用者2,458例およびCCB使用者2,345例でした。
RAS阻害薬 vs. CCB | 進行したCKD患者 (eGFR <30mL/min/1.73m2) | 陽性対照コホートCKD G3患者 (eGFR 30~60mL/min/1.73m2) |
維持透析または移植 | 調整後HR 0.79 (95%CI 0.69〜0.89) | 調整後HR 0.67 (95%CI 0.56〜0.80) |
死亡率 | 調整後HR 0.97 (95%CI 0.88〜1.07) | 調整後HR 0.97 (95%CI 0.81〜1.17) |
MACE | 調整後HR 1.00 (95%CI 0.88〜1.15) | 調整後HR 1.09 (95%CI 0.85〜1.40) |
傾向スコア加重後、RAS阻害薬の新規使用後の腎代替療法(KRT:維持透析または移植)のリスクは、CCBの新規使用後に比べて有意に低いことが示された(調整後HR 0.79[95%CI 0.69〜0.89])が、死亡率(調整後HR 0.97[95%CI 0.88〜1.07])およびMACE(調整後HR 1.00[95%CI 0.88〜1.15])のリスクは同程度でした。
結果は、サブグループ間および治療後の分析で一貫していました。CKD G3患者を対象とした陽性対照コホートにおいて、RAS阻害剤による治療は、CCBと比較して同様のKRTリスク低減効果が認められました(調整後HR 0.67 [95%CI 0.56〜0.80])。
コメント
RAS阻害薬により、eGFRやクレアチニンクリアランスの低下抑制(いわゆる腎保護効果)が報告されています。しかし、進行したCKD患者(eGFR<30mL/min/1.73m2)における効果は明らかとなっていません。また倫理的観点及びサンプルサイズなどの理由から、前述のCKD患者を対象としたランダム化比較試験の実施は困難です。
さて、本試験結果によれば、あくまでも相関関係ではありますが、進行したCKD患者において、RAS阻害剤の投与開始は、CCBと比較して、死亡やMACEリスクは同等でありながら、維持透析または移植のリスクが少ないことが明らかとなりました。
本コホートの特徴は、RAS阻害薬の新規使用者を抽出していることです。eGFR以外の因子により、RAS阻害薬が選択された可能性は充分にありますので、どのような交絡因子があるのか検証する必要があると考えます。
ちなみに調整された因子は、以下の通りです。
- 年齢
- 性別
- 推定糸球体濾過量(eGFR)
- 心不全
- 不整脈
- 末梢血管疾患
- 脳血管疾患
- 虚血性心疾患
- 糖尿病
- 収縮期血圧
- 拡張期血圧
- β遮断薬
- サイアザイド系利尿薬
- スタチンの使用
- 前年の総入院回数
- 前年の入院歴(yes/no)
- 高カリウム血症の入院歴
- 急性腎不全の入院歴
- カリウム保持性利尿薬
- スタチン
- 前年の総入院回数
- 前年の入院歴(はい/いいえ)
- 高カリウム血症の入院歴
- 急性腎不全の入院歴
✅まとめ✅ 進行したCKD患者において、RAS阻害剤の投与開始は、CCBと比較して、心血管保護効果は同等でありながら、腎臓へのメリットが得られるという実臨床におけるエビデンスを示した。
根拠となった試験の抄録
根拠と目的:進行した慢性腎臓病(CKD)患者において、レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬治療を開始することが、カルシウム拮抗薬(CCB)などの代替降圧薬よりも優れているかどうかは不明である。腎臓内科を日常的に受診している進行CKD患者で、RAS阻害剤とCCBのいずれかの治療を開始した場合、腎代替療法(KRT)、死亡率、主要有害心血管イベント(MACE)のリスクを比較した。
研究デザイン:Swedish Renal Registryにおける2007年から2017年までの観察研究。
試験設定・参加者:腎臓内科医がフォローアップを行っている推定糸球体濾過量<30mL/min/1.73m2のRAS阻害薬の新規使用者2,458例およびCCB使用者2,345例。
陽性対照コホートとして、CKD G3(推定糸球体濾過量 30~60mL/min/1.73m2)の同一薬剤の新規使用者を評価した。
曝露:RAS阻害剤の開始 vs. CCB療法の開始。
アウトカム:KRT(維持透析または移植)の開始、全死亡、MACE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)。
分析手法:人口動態、臨床、検査の共変量を調整した傾向スコア加重Cox比例ハザード回帰法により、HRと95%CIを推定した。
結果:年齢の中央値は74歳、女性は38%、追跡期間の中央値は4.1年であった。傾向スコア加重後、RAS阻害薬の新規使用後のKRTのリスクは、CCBの新規使用後に比べて有意に低かったが(調整後HR 0.79[95%CI 0.69〜0.89])、死亡率(調整後HR 0.97[95%CI 0.88〜1.07])およびMACE(調整後HR 1.00[95%CI 0.88〜1.15])のリスクは同程度であった。
結果は、サブグループ間および治療後の分析で一貫していた。CKD G3患者を対象とした陽性対照コホートにおいて、RAS阻害剤による治療は、CCBと比較して同様のKRTリスク低減効果が認められた(調整後HR 0.67 [95%CI 0.56〜0.80])。
試験の限界:適応症による交絡の可能性。
結論:今回の結果は、進行したCKD患者において、RAS阻害剤の投与開始は、CCBと比較して、心血管保護効果は同等でありながら、腎臓へのメリットが得られるという実臨床におけるエビデンスを示した。
キーワード:アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)、CKD悪化、進行したCKD、アムロジピン、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、降圧剤、カルシウム拮抗薬(CCB)、慢性腎臓病(CKD)、比較効果、エナラプリル、末期腎臓病(ESKD)、主要心血管有害事象(MACE)、死亡率、腎保護
引用文献
Comparative Effectiveness of Renin-Angiotensin System Inhibitors and Calcium Channel Blockers in Individuals With Advanced CKD: A Nationwide Observational Cohort Study
Edouard L Fu et al. PMID: 33246024 DOI: 10.1053/j.ajkd.2020.10.006
Am J Kidney Dis. 2021 May;77(5):719-729.e1. doi: 10.1053/j.ajkd.2020.10.006. Epub 2020 Nov 24.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33246024/
参考文献
【血液透析中のCKD患者の心血管イベント発生に対するリン吸着剤の効果は?炭酸ランタン vs. 炭酸カルシウム(PROBE; LANDMARK試験; JAMA. 2021)】
【中等度から重度CKD患者の鉄欠乏症におけるクエン酸第一鉄と硫酸第一鉄はどちらの方が優れていますか?(RCT; Clin J Am Soc Nephrol. 2020)】
【保存期CKD患者の貧血に対するHIF-PH阻害剤はエポエチンやダルベポエチンより優れていますか?(RCTのNWM; Pharmacol Res. 2020)】
【慢性腎臓病(CKD)患者の慢性高カリウム血症に対するカリウム吸着剤の効果はどのくらいですか?(SR&MA; CDSR 2020)】
【血清リンが正常なCKD患者の心血管イベントに対する炭酸ランタンの効果はどのくらいですか?(DB-RCT; IMPROVE-CKD; JASN 2020)】
【CKD患者に対する球形吸着炭の効果はどのくらいですか?(RCT; EPPIC trial; J Am Soc Nephrol. 2015)】
【慢性腎臓病(CKD)の進行を予防するための最適な水分摂取量はどのくらいですか?】
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