急性虚血性脳卒中患者における血栓溶解療法までの時間と長期アウトカムとの関連性は?(デンマーク人口ベース研究; Stroke. 2021)

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急性虚血性脳卒中患者における最適な血栓溶解療法の開始タイミングは?

急性虚血性脳卒中患者において、血栓溶解療法を開始するまでの時間が遅くなるほど治療効果が減少することはよく知られています。つまり、可能な限り早急に血栓溶解療法を開始することが、急性虚血性脳卒中患者の予後を改善できることになります。しかし、これまでに報告されているほとんどの研究は、短期的なアウトカムに焦点を当てており、より長期的な治療後のアウトカムの検討は充分になされていません。

そこで今回は、虚血性脳卒中の初発患者を対象に、血栓溶解療法までの時間に応じた長期的なアウトカムを検討したデンマークの人口ベース研究をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

血栓溶解療法を受けた初回の虚血性脳卒中患者 6,252例(年齢中央値 69歳、男性 60%)を研究対象に、追跡期間の中央値 2.5年の研究結果によれば、複合アウトカム(死亡、虚血性脳卒中の再発)の絶対的な3年リスクは、0~90分群で19.0%(95%CI 16.4~21.8%)、91~180分群で23.3%(21.8~24.9%)、181~270分群で23.8%(21.6~26.1%)でした。

複合アウトカムの絶対的3年リスク
(追跡期間の中央値 2.5年)
0~90分群19.0%(95%CI 16.4~21.8%)
91~180分群23.3%(21.8~24.9%)
181~270分群23.8%(21.6~26.1%)


90分以内の血栓溶解療法と比較して、血栓溶解療法までの時間が90分を超えると、複合転帰の発生率が高いことが明らかにな理ました。
・91~180分 :調整ハザード比 1.25、95%CI 1.06~1.48
・181~270分:調整ハザード比 1.35、95%CI 1.12~1.61

制限付き3次スプライン解析では、複合アウトカムの割合は血栓溶解療法までの時間が長くなるにつれて増加し、138分後に横ばいとなりました。

血栓溶解療法までの時間の中央値は138分、来院時のNational Institutes of Health Stroke Scaleスコアの中央値は5でした。

コメント

急性虚血性脳卒中患者において、血栓溶解療法を開始するまでの時間が遅くなるほど治療効果が減少することはよく知られています。今回の研究結果も、これまでの報告と同様でした。本試験の特徴は、絶対的3年リスクを検証しているところです。これまでの報告よりも、より長期的な検討結果でした。

現時点において、急性虚血性脳卒中患者の血栓溶解療法は90分以内に開始した方が良いかもしれません。ただし、本試験における血栓溶解療法までの時間の中央値は138分(25~75%パーセンタイル:101~185分)ですので、90分以内に治療された集団の例数が少ない可能性があります。追試も含めてエビデンスの集積が待たれます。

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✅まとめ✅ 血栓溶解療法を受けた初回の虚血性脳卒中患者において、90分以内の治療開始と比較して、90分超で死亡と虚血性脳卒中再発の絶対的3年リスク増加が認められたが、138分で横ばいとなった

根拠となった論文の抄録

背景と目的:治療が大きく遅れると、急性虚血性脳卒中患者における血栓溶解療法の効果が減少することはよく知られている。しかし、ほとんどの研究は短期的なアウトカムに焦点を当てている。本研究では、初めて虚血性脳卒中を発症した患者を対象に、血栓溶解療法までの時間に応じた長期転帰を検討した。

方法:この全国規模のコホート研究では、2011~2017年に静脈内血栓溶解療法を受け、退院時に生存していたデンマークの初回虚血性脳卒中患者を、Danish Stroke Registryを通じてすべて特定した。症状発現から血栓溶解療法までの時間と、死亡と虚血性脳卒中の再発の複合症状の長期的な発生率との関連を、多変量Cox回帰と制限付き3次スプライン解析を用いて検討した。

結果:研究対象は、血栓溶解療法を受けた初回の虚血性脳卒中患者 6,252例(年齢中央値 69歳[25~75パーセンタイル:60~78歳]、男性 60%)。追跡期間の中央値は2.5年(25~75パーセンタイル:1.2〜4.1年)であった。
血栓溶解療法までの時間の中央値は138分(25~75%パーセンタイル:101~185分)、来院時のNational Institutes of Health Stroke Scaleスコアの中央値は5(25~75%パーセンタイル:3~10)であった。
複合転帰の絶対的な3年リスクは、0~90分群で19.0%(95%CI 16.4~21.8%)、91~180分群で23.3%(21.8~24.9%)、181~270分群で23.8%(21.6~26.1%)であった。90分以内の血栓溶解療法と比較して、血栓溶解療法までの時間が90分を超えると、複合転帰の発生率が高かった(91~180分:調整ハザード比1.25[95%CI 1.06~1.48]、181~270分:調整ハザード比1.35[95%CI 1.12~1.61])。
制限付き3次スプライン解析*では、複合転帰の割合は血栓溶解療法までの時間が長くなるにつれて増加し、138分後に横ばいとなった。

*Cubic Spline Curve:少数のプロット点を補完する解析

結論:この全国規模の虚血性脳卒中患者コホートでは、死亡と虚血性脳卒中の再発を複合した長期的な転帰率は、症状が出てから血栓溶解療法を開始するまでの時間が長くなるにつれて上昇した。

引用文献

Time to Thrombolysis and Long-Term Outcomes in Patients With Acute Ischemic Stroke: A Nationwide Study
Adelina Yafasova et al. PMID: 33657854 DOI: 10.1161/STROKEAHA.120.032837
Stroke. 2021 Mar 4;STROKEAHA120032837. doi: 10.1161/STROKEAHA.120.032837. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33657854/

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