SGLT2阻害薬により下肢切断リスクが増加する?
SGLT2阻害薬であるカナグリフロジンによる有効性・安全性を検討したCANVAS試験において、カナグリフロジン群で、プラセボ群と比較して、下肢切断リスクの増加が報告されました。この試験結果を受けて、米食品医薬品局(FDA)は、カナグリフロジン(商品名:Invokana、Invokamet、Invokamet XR、日本の商品名:カナグル錠)の添付文書から、下肢切断リスクに関する枠組み警告を表記するよう製薬メーカーに指示しました。
しかし、その後の2020年8月26日に、FDAは、カナグリフロジンの添付文書から、下肢切断リスクに関する枠組み警告を削除したと発表しました。この根拠となったのは、2018年から2019年にかけて発表された同薬に関する2型糖尿病患者を対象に含む心・腎関連の臨床試験3件です。これにより、2型糖尿病または糖尿病性腎臓病(DKD)を有する患者の腎機能低下、心臓関連死ならびに心不全悪化による入院リスクを減少させる効能が追加承認されました。
下肢切断リスクは、カナグリフロジン投与下で依然として増加するものの、特に慎重なモニタリングが行われている場合には従前の報告よりも低いことが示唆されたようです。しかし、FDAは医療従事者および患者に対し、同薬使用下では引き続き下肢の潰瘍や壊死を予防するためのフットケアの重要性を認識すること、糖尿病治療薬を選択する際には下肢切断リスクを増加させる素因の有無を確認することなどを呼びかけています。
数件の臨床試験の結果からだけでは、下肢切断リスクの程度を推し測るには限度があります。また、どのような患者でリスクが最大化するのかについては不明なままです。
そこで今回は、いくつかの試験を統合しSGLT2阻害薬による下肢合併症のリスクを検討したメタ解析の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
SGLT2阻害薬(SGLT2i)使用者と非SGLT2i使用者の切断、末梢動脈疾患(PAD)、糖尿病足(DF)に関する解析結果は、以下の通りでした。
SGLT2i使用者 | 非SGLT2i使用者 | |
切断 | 40,925例 | 33,414例 |
末梢動脈疾患(PAD) | 36,446例 | 28,685例 |
糖尿病足(DF) | 31,907例 | 25,570例 |
非SGLT2i使用者と比較して、カナグリフロジン治療を受けた患者では、切断およびPADのリスクがわずかに上昇しました。
カナグリフロジン治療による各アウトカムに対するオッズ比 (vs. 非SGLT2i使用者) | |
切断 | OR 1.60、95%CI 1.04~2.46 |
PAD | OR 1.53、95%CI 1.14~2.05 |
メタ回帰分析では、SGLT2i使用者の体重減少が大きいほど、切断、PAD、DFのリスク増加と有意に関連することが示された。
また、ベースラインの拡張期血圧が低いこと、収縮期血圧の低下が大きいこと、拡張期血圧の低下が大きいことが、それぞれ切断、PAD、DFのリスク増加と有意に関連していました。
コメント
これまでの臨床試験の結果から、試験によっては、SGLT2阻害薬による下肢切断などの下肢合併リスクの増加が認められていません。しかし、下肢関連の合併リスクについては、他のSGLT2阻害薬と比較して、カナグリフロジンで増加する可能性が報告されていることから、SGLT2阻害薬全体のリスクとしててはなく、個々の薬剤について検証していく必要があると考えられます。
さて、本試験結果によれば、非SGLT2阻害薬使用者と比較して、カナグリフロジン治療を受けた患者では、切断およびPADのリスクがわずかに上昇していました。ここまでは過去の報告と矛盾しません。
本試験の特徴は、前述の結果に加え、リスク増加が認められた患者集団の背景について検討していることです。メタ回帰分析では、SGLT2阻害薬使用者の体重減少が大きいほど、切断、PAD、DFのリスク増加と有意に関連することが示されました。同様に、SGLT2阻害薬使用群と対照群の体重減少の差が大きいことも、切断のリスクと有意に関連していました。また、ベースラインの拡張期血圧が低いこと、収縮期血圧の低下が大きいこと、拡張期血圧の低下が大きいことが、それぞれ切断、PAD、DFのリスク増加と有意に関連していました。
一方、年齢、性別、肥満度、糖尿病罹患期間、腎機能、PADの既往、SGLT2阻害薬により達成したHbA1c低下などの他の要因は、下肢合併症のリスクとは関連していませんでした。まだ明らかになっていない交絡因子があると考えられます。
これまでに多くのSGLT2阻害薬が承認されているため、少なくとも現時点において、カナグリフロジンをファーストで使用する理由はないように考えます。
✅まとめ✅ カナグリフロジン治療を受けた患者では、切断およびPADのリスクがわずかに増加した。SGLT2i治療を受けている患者では、体重と血圧の低下が下肢合併症と関連していた。
根拠となった論文の抄録
背景:ナトリウムグルコース共輸送体2阻害剤(SGLT2i)の使用と下肢合併症のリスクとの関連を検討し、関連要因を分析する。
方法:Pubmed、Medline、Embase、Cochrane Center Register of Controlled Trials for Studies、Clinicaltrial.govを開始から2020年11月まで検索した。切断、末梢動脈疾患(PAD)、糖尿病足(DF)のイベントが報告されている糖尿病患者を含む集団で実施されたSGLT2iのランダム化比較試験を対象とした。ランダム効果モデル、固定効果モデル、メタ回帰分析を適宜用いた。
結果:SGLT2i使用者と非SGLT2i使用者の切断、PAD、DFに関する解析結果は、それぞれ40,925/33,414、36,446/28,685、31,907/25,570であった。
非SGLT2iユーザーと比較して、カナグリフロジン治療を受けた患者では、切断およびPADのリスクがわずかに上昇した(切断:OR 1.60、95%CI 1.04~2.46、PAD:OR 1.53、95%CI 1.14~2.05)。
メタ回帰分析では、SGLT2i使用者の体重減少が大きいほど、切断(β -0.461、95%CI -0.726~ -0.197)、PAD(β -0.359、95%CI -0.545~ -0.172)、DF(β -0.476、95%CI -0.836~ -0.116)のリスク増加と有意に関連することが示された。
SGLT2i治療を受けた患者では、ベースラインの拡張期血圧が低いこと(β -0.528、95%CI -0.852~ -0.205)、収縮期血圧の低下が多いこと(β -0.207、95%CI -0.390~ -0.023)、拡張期血圧の低下が多いこと(β -0.312、95%CI -0.610~ -0.015)が、それぞれ切断、PAD、DFのリスク増加と有意に関連していた。
結論:カナグリフロジン治療を受けた患者では、切断およびPADのリスクがわずかに増加した。SGLT2i治療を受けている患者では、体重と血圧の低下が下肢合併症と関連していた。
引用文献
SGLT2 inhibitors and lower limb complications: an updated meta-analysis
Chu Lin et al. PMID: 33910574 DOI: 10.1186/s12933-021-01276-9
Cardiovasc Diabetol. 2021 Apr 28;20(1):91. doi: 10.1186/s12933-021-01276-9.
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