心不全を合併する透析患者に対するβ遮断薬の効果はどのくらいなのか?
β遮断薬は心不全患者に推奨されていますが、血液透析患者におけるその有用性は不明です。また血液透析に移行した慢性腎臓病の心不全患者において、β遮断薬の使用とその透析性の特徴が早期死亡率と関連するかどうかについても不明です。
そこで今回は、血液透析に移行した心不全患者におけるβ遮断薬の使用の有無と、死亡や入院リスクを検証した後向き研究の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
患者3,503例が本研究に参加し、血液透析移行時にβ遮断薬を使用していた患者は2,115例(60.4%)でした。β遮断薬非使用者と比較して、6ヵ月以内の全死亡のHRは、移行時にいずれかのβ遮断薬使用者で0.79(95%CI 0.65〜0.94)、メトプロロール使用者で0.68(95%CI 0.53〜0.88)でした。
全原因および心血管関連の入院には差が認められませんでした。
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心不全患者におけるβ遮断薬使用は、死亡や入院リスクを低下することが明らかになっています。しかし、慢性腎臓病から血液透析へ移行した心不全患者におけるβ遮断薬の有用性は不明です。
今回の研究において、血液透析移行時にβ遮断薬を使用していた患者は、β遮断薬非使用者と比較して、6ヵ月以内の全死亡リスクが有意に低下していました。
つまり、血液透析に移行した心不全患者において、β遮断薬を使用していた方が、薬剤の透析性の有無に関わらず、死亡リスクが低下する可能性があります。本試験のデザインから、因果関係まで述べることはできませんが、β遮断薬が有益となる可能性はありますが、害となる可能性は低そうです。
✅まとめ✅ β遮断薬は心不全を有する血液透析患者の死亡率の低下と関連しているかもしれない。透析移行後6ヵ月以内の入院では、同様の関連性は認められなかった。
根拠となった論文の抄録
合理性と目的:β遮断薬は心不全患者に推奨されているが、透析患者におけるその有用性は不明である。β遮断薬は、血液透析による除去に関しても不均一である。我々は、透析に移行した慢性腎臓病の心不全患者において、β遮断薬の使用とその透析性の特徴が早期死亡率と関連するかどうかを評価することを目的とした。
研究デザイン:レトロスペクティブコホート研究。
設定および参加者:2007年1月1日~2016年6月30日に統合医療システム内で血液透析または腹膜透析のいずれかを開始した18歳以上の慢性腎臓病とHFを有する成人患者を対象とした。
暴露:透析移行日をカバーする量の薬剤が調剤されていれば、β遮断薬を投与された患者とした。
アウトカム:維持透析への移行後、6ヵ月以内および1年以内の全死亡、または6ヵ月以内の入院。
解析手法:治療群間の共変量のバランスをとるために、傾向スコアを用いた治療重み付けの逆確率を用いた。β遮断薬の使用と試験結果との関連を調べるために、Cox比例ハザード分析とロジスティック回帰を用いた。
結果:患者3,503例が本研究に参加した。血液透析移行時にβ遮断薬を使用していた患者は2,115例(60.4%)であった。非使用者と比較して、6ヵ月以内の全死亡のHRは、移行時にいずれかのβ遮断薬使用者で0.79(95%CI 0.65〜0.94)、メトプロロール使用者で0.68(95%CI 0.53〜0.88)であった。全原因および心血管関連の入院には差が認められなかった。
限界:観察研究であるため、残余交絡を十分に考慮することができなかった。
結論:β遮断薬はHFを有する血液透析患者の死亡率の低下と関連していた。透析移行後6ヵ月以内の入院では、同様の関連性は認められなかった。
引用文献
β-Blocker Use and Risk of Mortality in Heart Failure Patients Initiating Maintenance Dialysis
Hui Zhou et al. PMID: 33010357 DOI: 10.1053/j.ajkd.2020.07.023
Am J Kidney Dis. 2020 Nov 15;S0272-6386(20)31001-5. doi: 10.1053/j.ajkd.2020.07.023. Online ahead of print.
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