ACE阻害薬であるラミプリルは血液透析患者における心血管イベント発生を抑制できるのか?
レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬はCKD患者の心血管疾患の罹患率と死亡率を低下させることが報告されています(1)。
しかし、血液透析患者においても同様に有効性が認められるのかは不明なままです。そこで今回は血液透析患者を対象にラミプリル群、非RAS阻害療法を比較したランダム化比較試験をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
イタリアの28施設で実施され、高血圧症および/または左心室肥大症を有する維持透析患者において、ラミプリル群140例、非RAS阻害療法群に129例がランダム割り付けされました。その結果、主要複合エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中)に到達したのは、ラミプリル投与群では23例(16%)、非RAS阻害薬投与群では24例(19%)でした。
ラミプリル | 非RAS阻害療法群 | |
心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合 | 23/140例 (16%) | 24/129例 (19%) |
☆ハザード比 0.93、95%信頼区間 0.52~1.64;P=0.80
ラミプリルは、1年後の追跡調査で心臓質量指数を低下させたが(ベースラインからの変化量のグループ間差:-16.3 g/m2、95%信頼区間 -29.4 ~ -3.1)、その他の副次的なアウトカムには有意な影響を与えませんでした。
低血圧は、ラミプリルを割り当てられた参加者の方が対照者よりも高頻度でした(41% vs. 12%)。これは、事前に定義した目標BP値を達成するために最大耐用量まで漸増したためと考えられますが、対照群より多いことが気にかかります。
ラミプリルを服用した参加者20例と対象者9例が癌を発症し、そのうちラミプリルを服用した6例に消化器系悪性腫瘍(死亡4例)が発生しましたが、対照者には発生しませんでした。ACE阻害薬で腫瘍リスク増加あるいは影響がないとする報告(2, 3)がありますので、引き続き追った方が良い事象であると考えます。
RAS阻害薬はCKD患者の心血管疾患の罹患率と死亡率を低下させることが報告されていますが、血液透析患者においては、保護効果が認められないようです。
✅まとめ✅ ラミプリルは維持透析患者の主要心血管系イベントのリスクを減少させなかった
根拠となった論文の抄録
背景と目的:レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬はCKD患者の心血管疾患の罹患率と死亡率を低下させる。我々は、維持透析患者におけるアンジオテンシン変換酵素阻害薬ラミプリルの心血管保護効果を評価した。
試験デザイン、設定、参加者および測定方法:この第3相、前向き、ランダム化、非盲検、盲検エンドポイント、並行、多施設共同試験では、イタリアの28施設から、高血圧症および/または左心室肥大症を有する維持透析患者を募集した。2009年7月から2014年2月にかけて、140例をラミプリル(1.25~10 mg/日)に、129例を非RAS阻害療法にランダム割り付けし、いずれも事前に定義(設定)した目標BP値を達成するために最大耐量まで漸増した。
有効性の主要評価項目は、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合とした。副次的評価項目は、主要評価項目の単一要素、心房細動の新規発症または再発、症候性体液過多による入院、動静脈瘻の血栓または狭窄、および心臓質量指数の変化であった。すべての結果は、ランダム化後42ヵ月までに評価された。
結果:血圧コントロールが同等の場合、主要複合エンドポイントに到達したのは、ラミプリル投与群では23例(16%)、非RAS阻害薬投与群では24例(19%)であった(ハザード比 0.93、95%信頼区間 0.52~1.64;P=0.80)。
ラミプリルは、1年後の追跡調査で心臓質量指数を低下させたが(ベースラインからの変化量のグループ間差:-16.3 g/m2、95%信頼区間 -29.4 ~ -3.1)、その他の副次的なアウトカムには有意な影響を与えなかった。低血圧エピソードは、ラミプリルを割り当てられた参加者の方が対照者よりも頻度が高かった(41% vs. 12%)。ラミプリルを服用した参加者20例と対象者9例が癌を発症し、そのうちラミプリルを服用した6例に消化器系悪性腫瘍(死亡4例)が発生したが、対照者には発生しなかった。
結論:ラミプリルは維持透析患者の主要心血管系イベントのリスクを減少させなかった。
引用文献
Ramipril and Cardiovascular Outcomes in Patients on Maintenance Hemodialysis: The ARCADIA Multicenter Randomized Controlled Trial
Piero Ruggenenti et al. PMID: 33782036 DOI: 10.2215/CJN.12940820
Clin J Am Soc Nephrol. 2021 Mar 29;CJN.12940820. doi: 10.2215/CJN.12940820. Online ahead of print.
ー続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33782036/
- Am J Kidney Dis. 2016 May;67(5):728-41. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26597926/
- J Renin Angiotensin Aldosterone Syst. Jul-Sep 2020;21(3):1470320319895646. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32627649/
- Sci Transl Med. 2017 Oct 4;9(410):eaan5616. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28978752/
関連記事
【慢性腎障害CKDと心血管障害CVDの関連性は?】
コメント