母乳育児(完全母乳)は乳児湿疹を抑制できるのか?
アレルギー疾患を予防するために、多くの国や学会が少なくとも4ヵ月間の完全母乳育児を推奨しています。これは限られた臨床試験の結果に基づいていますが、試験デザインや時代背景から、同様の結果が得られるとは限りません。定期的に見直していく必要があります。
そこで今回は、2011年に発表された国際的臨床試験の結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
研究対象者は、21ヵ国でランダムに選ばれた8~12歳の学童51,119例でした。
「完全母乳育児歴」および「完全母乳育児期間6ヵ月未満」に関連して、「湿疹歴」が報告されるリスクがわずかに増加していました。
☆プールされた調整済みオッズ比(OR)
完全母乳育児歴 :OR 1.11、95%信頼区間(CI)1.00〜1.22
完全母乳育児期間6ヵ月未満:OR 1.10、95%CI 1.02〜1.20
「湿疹歴」の報告と6ヵ月以上の完全母乳育児との間には有意な関連は認められませんでした。
☆プールされた調整済みOR 1.09、95%CI 0.94〜1.26
より重篤な湿疹については、完全母乳育児が睡眠障害性湿疹のリスクを低減させましたが(プールされた調整済みOR 0.71、95%CI 0.53〜0.96)、この効果は、4ヵ月以上の完全母乳育児の場合には失われました(プールされた調整済みOR 1.02、95%CI 0.67〜1.54)。
アレルギー感作および母親のアレルギー疾患の既往歴は、これらの所見に何ら影響しませんでした。
コメント
完全母乳育児は、充分なエビデンスがない状況で推奨されています。これを受けて医師や看護師だけでなく、非医療従事者も完全母乳育児を推奨している背景があります。このような背景から母親にとっては多大な圧力がかけられることが推察されます。
さて、本試験結果によれば、完全母乳育児および完全母乳育児期間6ヵ月未満に関連して、湿疹歴が報告されるリスクがわずかに増加していました。一方、湿疹歴の報告と6ヵ月以上の完全母乳育児との間には有意な関連は認められませんでした。つまり、完全母乳育児で湿疹のリスクが少しだけ増加するかもしれないということです。試験結果をみるとリスク増加はそこまで大きくなく、個人的には誤差程度であると捉えています。このリスクの捉え方は人によって異なると思いますが、2〜3時間置きに母親が起きなければならない “苦行” をするほどの効果はなさそうです。
また完全母乳育児が睡眠障害性湿疹のリスクを低減させましたが、この効果は、4ヵ月以上の完全母乳育児の場合には失われました。つまり、完全母乳育児が湿疹の発生リスクを低下できるのか、反対に増加させるのかについては一貫した結果が示されていません。したがって、母親や乳児の環境や置かれた状況により、完全母乳育児を行っても良いのではないかと捉えています。同様に母乳に加えて、人工ミルクを併用してもなんら問題はないと捉えています(母親が寝れる時は父親がミルクを作るとか)。
本試験結果からは、完全母乳育児を推奨することも否定することも困難であると考えます。本試験結果が母親と乳児にとって健やかな生活を送る手助けになれれば幸いです。
完全母乳育児とアレルギー疾患との関連については引き続き取り追っていきたいテーマですので、続報にご期待ください。
✅まとめ✅ 完全母乳育児は、より重度の疾患に対して保護効果があるかもしれないが、4ヵ月以上の完全母乳育児が湿疹を予防するという証拠は見つからなかった
根拠となった論文の抄録
背景:アレルギー疾患を予防するために、多くの政府やアレルギー団体が少なくとも4ヵ月間の完全母乳育児を推奨している。
目的:母乳育児が小児湿疹を予防するかどうかを調査すること。
方法:研究対象者は、21ヵ国でランダムに選ばれた8~12歳の学童51,119例であった。湿疹と完全母乳育児に関する情報は、親へのアンケートで集められた。また、子どもたちは屈曲性湿疹の検査と、皮膚プリックテストを受けた。オッズ比(OR)は、各研究センターで算出した後、母集団全体でプールした。
結果:「完全母乳育児歴」および「完全母乳育児期間6ヵ月未満」に関連して、「湿疹歴」が報告されるリスクがわずかに増加していた。
☆プールされた調整済みオッズ比(OR)
完全母乳育児歴 :OR 1.11、95%信頼区間(CI)1.00〜1.22
完全母乳育児期間6ヵ月未満:OR 1.10、95%CI 1.02〜1.20
「湿疹歴」の報告と6ヵ月以上の完全母乳育児との間には有意な関連はなかった。
☆プールされた調整済みOR 1.09、95%CI 0.94〜1.26
リスク推定値は、2ヵ月未満、2~4ヵ月、4ヵ月以上の完全母乳育児、過去12ヵ月間の湿疹症状、皮膚検査での湿疹について、非常によく似ていた。より重篤な湿疹については、完全母乳育児自体が睡眠障害性湿疹のリスクを低減させたが(プールされた調整済みOR 0.71、95%CI 0.53〜0.96)、この効果は、4ヵ月以上の完全母乳育児の場合には失われた(プールされた調整済みOR 1.02、95%CI 0.67〜1.54)。アレルギー感作および母親のアレルギー疾患の既往歴は、これらの所見を何ら変えなかった。
結論:完全母乳育児は、より重度の疾患に対して保護効果があったが、4ヵ月以上の完全母乳育児が湿疹を予防するという証拠は見つからなかった。この結果は、前向き研究の最近のシステマティックレビューの結果と一致している。湿疹に関する英国の母乳育児ガイドラインは見直されるべきである。湿疹やその他のアレルギー疾患の予防のために、完全母乳育児と並行して固形物をいつ、どのように導入すべきかを検討するための介入研究が必要である。
引用文献
Lack of evidence for a protective effect of prolonged breastfeeding on childhood eczema: lessons from the International Study of Asthma and Allergies in Childhood (ISAAC) Phase Two
C Flohr et al. PMID: 21883137 DOI: 10.1111/j.1365-2133.2011.10588.x
Br J Dermatol. 2011 Dec;165(6):1280-9. doi: 10.1111/j.1365-2133.2011.10588.x. Epub 2011 Nov 2.
ー続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21883137/
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