ピロリ除菌におけるアモキシシリン ベース2剤除菌療法の有効性と安全性はどのくらいですか?(RCTのメタ解析; J Clin Gastroenterol. 2020)

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抗生剤の耐性化が進みピロリ除菌率が低下?

抗生剤により人類は細菌感染症の脅威から逃れることができています。その一方で、抗生剤の使用頻度増加による薬剤耐性化(AMR)が進んでいます。

AMRにより、細菌感染症の重症化、重篤化により死亡リスクが増加しています。日本においては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)による菌血症死亡者数の推計が2017年に年間約8,000人でした。米国では年間3.5万人以上、欧州では年間3.3万人が死亡していると推定され、世界全体では2050年にAMR関連の死亡数が年間1,000万人に達する可能性があるとされています。

ピロリ菌は、難治性逆流性食道炎や胃潰瘍、胃癌などの発症リスクとの関連性が報告されているため、除菌される機会が増えています。ピロリ菌の一次除菌としては通常、抗生剤2種類とプロトンポンプ阻害薬を用いた3剤併用療法が行われます。日本においては、抗生剤としてアモキシシリン及びクラリスロマイシンが頻繁に用いられていますが、特にクラリスロマイシンの耐性化が報告されています。

そこでAMR対策として、除菌レジメンの見直しが行われており、アモキシシリンをベースとした2剤療法に関心が寄せられています。

そこで今回は、アモキシシリンをベースとした2剤療法と従来のピロリ除菌レジメンを比較したメタ解析の結果をご紹介します。

研究結果から明らかになったことは?

H. pylori感染症患者 1,672例を含む研究 8件が選択基準を満たし、評価されました。

著者除菌レジメン除菌率
% (ITT/PP)
Kim et al.アモキシシリン750mg + ランソプラゾール30mg
(いずれも1日3回、14日間投与)
67.3/78.4
アモキシシリン1g + クラリスロマイシン500mg + ランソプラゾール30mg
(すべて1日2回、14日間投与)
74.0/82.8
Hu et al.アモキシシリン750mg + ラベプラゾール20mg
(いずれも1日4回、14日間投与)
94.7/96.4
ラベプラゾール20mg(1日2回) + 二クエン酸ビスマス300mg(1日4回)
+ メトロニダゾール250mg(1日4回) + テトラサイクリン500mg(1日4回)
(14日間投与)
90.6/93.3
Hu et al.アモキシシリン750mg + ラベプラゾール10mg
(1日4回、14日間投与)
78.1/79.1
アモキシシリン1g + クラリスロマイシン500mg
+ ラベプラゾール20mg + ビスマス220mg
(1日2回、14日間投与)
84.3/86.2
Sapmaz et al.アモキシシリン750mg(1日4回) + ラベプラゾール20mg(1日3回)
(14日間投与)
84.7/84.9
ラベプラゾール20mg(1日2回)+ ビスマス120mg(1日4回)
+ テトラサイクリン500mg(1日4回) + メトロニダゾール500mg(1日3回)
(14日間投与)
87.8/88.8
Gao et al.アモキシシリン750mg + エソメプラゾール20mg
(1日4回、14日間投与)
82.9/89.2
アモキシシリン1g + クラリスロマイシン500mg
+ エソメプラゾール20mg + クエン酸ビスマス220mg
(1日2回、14日間投与)
86.1/93.9
Leow et al.アモキシシリン1g + ラベプラゾール20mg
(1日4回、14日間投与)
92.7/94.0
アモキシシリン1g + ラベプラゾール20mg + クラリスロマイシン500mg
(1日2回、14日間投与)
92.9/94.2
Tai et al.アモキシシリン750mg(1日4回) + エソメプラゾール40mg(1日3回)
(14日間投与)
91.7/95.7
アモキシシリン1g + クラリスロマイシン500mg
+ エソメプラゾール40mg + メトロニダゾール500mg
(1日2回、7日間投与)
87.5/92.1
Yang et al.アモキシシリン750mg + エソメプラゾール20mg
(1日4回、14日間投与)
87.9/91.1
アモキシシリン1g + クラリスロマイシン500mg
+ エソメプラゾール20mg + クエン酸ビスマス1g(ビスマス220mg含有)
(1日2回、14日間投与)
89.7/91.2

メタ解析の結果、修正2剤療法は、推奨される第一選択薬と比較して、同等の有効性(ITT解析 85.83% vs. 86.77%; RR 0.99、95%CI 0.95〜1.03、 PP解析 89.53% vs. 90.45%; RR 0.99、95%CI 0.96〜1.02)とコンプライアンス(95.77% vs. 95.56%; RR 1.00、95%CI 0.98〜1.02)を達成しました。


修正2剤療法とクラリスロマイシン3剤療法、ビスマス4剤療法、併用療法のそれぞれの除菌率を比較しても、有意な差は認められませんでした。また、抗生物質の感受性試験を実施した試験に基づくサブグループ解析でも、同様の有効性が確認されました。
一方、修正2剤療法の方が副作用が少ないことも明らかとなりました(8.70% vs. 22.38%; RR 0.39、95%CI 0.28〜0.54、P<0.00001)。

アモキシシリンをベースとした修正2剤療法は、従来の3剤療法と比較して、ピロリ菌の除菌率は同様であり、副作用については少ないことが明らかになりました。

試験の質としては、バイアスリスクや研究間の異質性が低いことから、内的妥当性は高そうです。本試験結果は、AMR対策となる有望な結果であると考えます。

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✅まとめ✅ H. pylori感染症に対し推奨される第一選択薬と比較して、アモキシシリンベースの修正2剤療法は同等の有効性とコンプライアンスを達成し、副作用はより少なかった

根拠となった論文の抄録

背景:抗生物質の耐性化が進む中、薬剤治療構成が単純でアモキシシリン耐性が低いことから、修正2剤療法が注目されている。しかし、第一選択薬としての除菌率はいまだに議論の余地がある。
本研究では、Helicobacter pylori(H. pylori)感染症の初期治療における修正2剤療法の有効性と安全性を、主流の第一選択療法と比較検討した。

方法:PubMed、Cochrane Library、Embaseを用いて、H. pylori除菌の初期治療としての修正2剤療法の有効性と安全性を、ガイドラインで推奨されている第一選択薬と比較して評価したランダム化臨床試験を検索した。メタアナリシスはReview Manager 5.3を用いて行い、二分法のデータはリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)で推定した。また、対照群や抗生物質感受性試験を実施した研究によるサブグループ解析を行った。

結果:H. pylori感染症患者 1,672例を含む研究 8件が選択基準を満たし、評価された。
メタ解析の結果、修正2剤療法は、推奨される第一選択薬と比較して、同等の有効性(ITT解析 85.83% vs. 86.77%; RR 0.99、95%CI 0.95〜1.03、 PP解析 89.53% vs. 90.45%; RR 0.99、95%CI 0.96〜1.02)とコンプライアンス(95.77% vs. 95.56%; RR 1.00、95%CI 0.98〜1.02)を達成した。
修正2剤療法とクラリスロマイシン三剤療法、ビスマス四剤療法、併用療法のそれぞれの除菌率を比較しても、有意な差は認められませんでした。また、抗生物質の感受性試験を実施した試験に基づくサブグループ解析でも、同様の有効性が確認された。
一方、修正2剤療法の方が副作用が少なく(8.70% vs. 22.38%; RR 0.39、95%CI 0.28〜0.54)、有意差が認められた(P<0.00001)。

結論:H. pylori感染症に対し推奨される第一選択薬と比較して、修正2剤療法は同等の有効性とコンプライアンスを達成し、より少ない副作用を示した。

引用文献

Efficacy and Safety of Modified Dual Therapy as the First-line Regimen for the Treatment of Helicobacter pylori Infection: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials
Qiuyue Huang et al. PMID: 33074949 DOI: 10.1097/MCG.0000000000001448
J Clin Gastroenterol. 2020 Oct 16. doi: 10.1097/MCG.0000000000001448. Online ahead of print.
ー続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33074949/

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