Angiotensin-Neprilysin Inhibition and Renal Outcomes in Heart Failure with Preserved Ejection Fraction
Finnian R Mc Causland et al.
Circulation. 2020 Aug 17. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.120.047643. Online ahead of print.
PMID: 32845715
DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.120.047643
Clinical Trial Registration: URL: https://clinicaltrials.gov/ Unique Identifier: NCT01920711.
Keywords: Preserved Ejection Fraction; renal outcomes.
背景
心不全患者では慢性腎臓病(CKD)が一般的であり、CKDのない患者に比べて腎イベントのリスクが高い。
我々は、PARAGON-HFに登録された心不全で駆出率が温存されている患者を対象に、アンジオテンシン/ネプリルリシン阻害剤の腎作用を評価した。
方法
本試験では、HFpEF患者4,822例をサキュビトリル/バルサルタン投与群(n=2,419)またはバルサルタン投与群(n=2,403)に割り付け、ランダム化二重盲検イベント駆動型試験を実施した。
ここでは、あらかじめ指定された腎複合アウトカム(50%以上のeGFR低下、末期腎疾患、腎死亡のいずれかが最初に発現するまでの時間)、この複合アウトカムの個々の構成要素、およびeGFRの傾きに対する治療の影響についての結果を提示する。
結果
・ランダム化時のeGFRは63±19mL/min/1.73m2であった。
・試験終了時の複合腎アウトカムは、サキュビトリル/バルサルタン群33例(1.4%)、バルサルタン群64例(2.7%)であった。
★ハザード比[HR] 0.50、95%CI 0.33~0.77;P=0.001
・複合腎エンドポイントに対する治療効果は、ベースラインのeGFR(<60 vs. ≥60 mL/min/1.73m2(相互作用のP=0.92))によって差がなかった。
・eGFRの低下はサキュビトリル/バルサルタンの方がバルサルタンに比べて少なかった。
★HR -1.8、95%CI -2.0~ -1.6] vs. -2.4、95%CI -2.6~ -2.2] mL/min/1.73m2/年
結論
HFpEF患者において、サキュビトリル/バルサルタンはバルサルタンと比較して、腎イベントのリスクを低下させ、eGFRの低下を抑制した。
コメント
心血管死亡および心不全による入院の複合アウトカムを1次エンドポイントに設定したPARAGON-HFでは、駆出率の保たれた心不全(HFpEF)に対するサキュビトリル/バルサルタンの使用は、バルサルタンと比較して、イベント発生率を低下することが出来ませんでした。一方、NYHAクラスの改善や腎アウトカム悪化の抑制は、バルサルタンと比較して、サキュビトリル/バルサルタンで優位でした。
- 1次アウトカム :発生率比 0.87、95%信頼区間[CI] 0.75~1.01;P=0.06
- 心血管疾患による死亡率:ハザード比 0.95、95%CI 0.79~1.16
- 心不全による総入院 :発生率比 0.85、95%CI 0.72~1.00
- NYHAクラスの改善 :オッズ比 1.45;95%CI 1.13~1.86
- 腎機能の悪化 :ハザード比 0.50、95%CI 0.33~0.77
さて、PARAGON-HFの事前設定解析によれば、腎複合アウトカムについて、サキュビトリル/バルサルタンはバルサルタンと比較して、イベント数が有意に少なかったとのこと。
患者背景としては、駆出率が約58%、利尿薬の使用が約95%、ACE阻害薬あるいはARBの使用が約86%、β遮断薬の使用が約80%、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の使用が約25%でした。これらを使用しても、なお腎機能の悪化や心血管イベントリスクが高い患者について、サキュビトリル/バルサルタンの使用を考慮しても良いのかもしれません。しかし、サキュビトリル/バルサルタンの効果は駆出率の低下した心不全患者(HFrEF)で、より明確な心血管アウトカムへの効果が示されています。
HFpEF患者の心血管あるいは腎アウトカムに対するサキュビトリル/バルサルタンの効果は、かなり限定的であり、恩恵を受けられる患者は、HFrEF患者における使用と比較して少ないと考えられます。
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