カルシウムとビタミンD摂取は予後にどのように影響するのか?
カルシウムとビタミンDサプリメントは、骨粗鬆症の予防と治療のために頻繁に使用されていますが、地域社会に住む女性と男性の骨折を予防するという証拠は弱く、一貫性が示されていません(PMID: 31860103、PMID: 29677308、PMID: 31371314、PMID: 26420387)。また、カルシウム(PMID: 31311164)およびビタミンD(PMID: 23790560、PMID: 31548248)のその他の効用や副作用もいくつか示唆されています。これらの栄養素と全原因死亡率および心血管疾患死亡率との関連性に関する疫学的証拠は一貫しておらず、長寿に関するデータも乏しいです(PMID: 25912278、PMID: 29852980、PMID: 25252963、PMID: 26749423、PMID: 24690623、PMID: 31405892、PMID: 31215980)。カルシウムとビタミンDを単独または同時に補給すると、血清カルシウム(S-Ca)濃度が上昇し、摂取のたびに4時間後にピークを迎え、ビタミンDの状態を示す代謝物である血清25-ヒドロキシビタミンD(S-25(OH)D)の上昇はより長く持続することが報告されています(PMID: 15734899、PMID: 24488080、PMID: 25274192、PMID: 26239247)。しかし、定期的にカルシウムを補給することで、数ヵ月後にS-Caが上昇するかどうかは議論の余地があります(PMID: 31684833)。
そこで今回は、カルシウムおよびカルシウムにビタミンDを加えた補給がS-Ca濃度に及ぼす長期的な影響をメタ解析で検討し、メンデルランダム化解析を用いて、遺伝的に予測される生涯にわたる血清CaおよびS-25(OH)D濃度のわずかな上昇が、長寿、ならびに心血管疾患およびがんのリスクと関連するかどうかを評価した試験の結果をご紹介します。
Mendelian Randomization(MR、メンデルランダム化)デザインは、疫学研究における潜在的な交絡やその他のバイアスを克服し、遺伝的変異を曝露の操作変数として利用することで、曝露とアウトカムの関連についての因果推論を強化することができます(Book)。
試験結果から明らかになったことは?
症例11,262例と対照25,483例を対象としたゲノムワイド関連メタ解析では、個人の生存期間が死亡予想年齢の90パーセンタイルよりも遅い場合と最大でも60パーセンタイルよりも長い場合との関連について、また、症例7,182例と対照79,767例を対象としたUKバイオバンクでは、親の長寿(両親ともに上位10%パーセンタイル)との関連について、これらの指標の要約レベルのデータを得ました。また。心血管疾患(111,108症例、107,684対照)と、がん(38,036症例、180,756対照)のデータは、FinnGenコンソーシアムから入手しました。
血清Ca濃度の 1標準偏差の増加 | 25-(OH)ビタミンDの 1標準偏差の増加 | |
長寿 | オッズ比 0.72 (95%CI 0.55〜0.95) P=0.022 | オッズ比 0.92 (95%CI 0.82〜1.02) P=0.123 |
心血管疾患 | オッズ比 1.11 (95%CI 1.03〜1.20) P=0.007 | オッズ比 1.03 (95%CI 0.99〜1.07) P=0.140 |
がん | オッズ比 0.95 (95%CI 0.85〜1.06) P=0.352 | オッズ比 1.01 (95%CI 0.97〜1.05) P=0.680 |
遺伝的に予測される血清カルシウム(Ca)レベルの1標準偏差の増加は、長寿におけるオッズの低下(オッズ比 0.72、95%CI 0.55〜0.95)および心血管疾患のリスク増加(オッズ比 1.11、95%CI 1.03〜1.20)と関連していました。これらの関連性は、確認的分析においても一貫していました。遺伝的に予測される血清Caレベルとがんとの関連を支持する証拠はなく、遺伝的に予測される25-ヒドロキシビタミンD(S-25(OH)D)と研究結果との関連もありませんでした。
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メンデルランダム化試験について
観察研究は、多くの交絡因子の影響があるため、結果の解釈が難しく、あくまでも相関関係を示すことしかできません。一方、適切にデザインされたランダム化比較試験(RCT)から得られた結果は、介入と転機の因果関係を述べることができます。しかし、RCTの実施はコストが高く、予算的に実施できない場合があります。したがって仮にRCTを実施できたとしても長期の介入効果を検証することが困難なことが多いです。また限られた集団を試験対象としていることから、より広い一般的な集団への介入効果とは異なる可能性が高いです。さらには、一部の対象集団(妊婦や授乳婦など)においては、倫理的側面からランダム化比較試験の実施が困難であることがあります。
上記の課題を克服するために、観察研究において操作変数(instrumental variable)を導入した解析方法の一種である”メンデルランダム化“が注目されています。この方法を用いることで、観察研究のデータから因果関係を考察することが可能となります。具体的には、試験参加者の遺伝子多型を用いてランダム化観察研究を実施するという手法です(詳細については、別の記事でまとめる予定です)。
今回の試験では、さまざまな観察研究のデータを用いて、メンデルランダム化を行い、ゲノムワイド関連メタ解析を実施しています。
試験結果について
試験の結果、遺伝的に予測される血清カルシウム(Ca)レベルの1標準偏差の増加は、長寿におけるオッズの低下(つまり寿命が短くなる)および心血管疾患のリスク増加と関連していました。これらの関連性は、操作変数を基にした確認的(因子)分析においても一貫していました。一方で、遺伝的に予測される血清Caレベルとがんとの関連を支持する証拠はなく、遺伝的に予測される25-ヒドロキシビタミンD(S-25(OH)D)と格研究アウトカムとの関連もありませんでした。血清Caレベルについて、あまり上げすぎない方が良いのかもしれませんが、血清Caレベルを低下させるような介入を行ってみないと結論付けられません。少なくとも血清の活性型ビタミンDの影響はなさそうです。
ただし、試験間の異質性は、血清Caレベルのメタ解析においては64.8%、血清25(OH)Dでは52.6%でした。中程度の異質性があることから、今後の試験結果により結果が変わる可能性はあります。
それにしてもメンデルランダム化は面白いアプローチですね。今後、研究報告が増えてきそうです。続報に期待。
✅まとめ✅ 生涯にわたって血清Caレベルが高いと、寿命が短くなり、心血管疾患のリスクが高まる可能性がある。
根拠となった試験の抄録
背景・目的:血清カルシウム(S-Ca)および25-ヒドロキシビタミンD(S-25(OH)D)濃度と、長寿、心血管疾患、がんとの関連は明らかではない。我々は、S-CaおよびS-25(OH)Dと、長寿、心血管疾患およびがんのリスクとの関連を調べるために、メンデルランダム化試験を実施した。
方法:S-CaとS-25(OH)Dの主要な遺伝指標は、S-Caについて61,054例、S-25(OH)Dについて最大79,366例を対象としたゲノムワイド関連メタ解析から得られた。また、UK BiobankにおけるS-CaおよびS-25(OH)Dに関連する遺伝子変異を確認手段として用いた。参照元のメタ解析には、Ca補充に関する試験32件と、CaとビタミンD補充に関する試験19件が含まれていた。
結果:症例11,262例と対照25,483例を対象としたゲノムワイド関連メタ解析では、個人の生存期間が死亡予想年齢の90パーセンタイルよりも遅い場合と最大でも60パーセンタイルよりも長い場合との関連について、また、症例7,182例と対照79,767例を対象としたUKバイオバンクでは、親の長寿(両親ともに上位10%パーセンタイル)との関連について、これらの指標の要約レベルのデータを得た。
心血管疾患(111,108症例、107,684対照)と癌(38,036症例、180,756対照)のデータは、FinnGenコンソーシアムから入手した。
遺伝的に予測されるS-Ca濃度の1標準偏差の増加は、長寿におけるオッズの低下(オッズ比 0.72、95%CI 0.55〜0.95)および心血管疾患のリスク増加(オッズ比 1.11、95%CI 1.03〜1.20)と関連していた。これらの関連性は、確認的分析においても一貫していた。遺伝的に予測されるS-Caとがんとの関連を支持する証拠はなく、遺伝的に予測されるS-25(OH)Dと研究アウトカムとの関連もなかった。
結論:生涯にわたってS-25(OH)Dではなく、S-Caのレベルが高いと、寿命が短くなり、心血管疾患のリスクが高まる可能性がある。
引用文献
Serum calcium and 25-hydroxyvitamin D in relation to longevity, cardiovascular disease and cancer: a Mendelian randomization study
Shuai Yuan et al. PMID: 34650087 PMCID: PMC8516873 DOI: 10.1038/s41525-021-00250-4
NPJ Genom Med. 2021 Oct 14;6(1):86. doi: 10.1038/s41525-021-00250-4.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34650087/
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