ワクチン接種集団において、SARS-CoV-2感染の有無によりブレークスルー感染リスクに差はあるのか?
SARS-CoV-2の先行感染が将来の感染に対するワクチン保護に及ぼす影響は、まだ充分に明らかとなっていません(PMID: 33931567、プレプリント、PMID: 33865504)。カタールでは、2020年12月21日に国民に対するCOVID-19接種を開始しました。最初にBNT162b2(Pfizer-BioNTech社製)ワクチン(PMID: 33301246)を使用し、その3カ月後にRNA-1273(Moderna社製)ワクチン(PMID: 33378609)を追加しましたが、いずれも米国食品医薬品局が承認したプロトコルに従っています(PMID: 33951357、PMID: 34244681、PMID: 34614327)。
ワクチン接種の拡大に伴い、2021年1月から6月にかけてSARS-CoV-2が2期連続して流行し、α(B.1.1.7)とβ(B.1.351)の変異体が主流となっていました(PMID: 33951357、PMID: 34244681、WHO、GISAID Initiative、プレプリント、PMID: 34525398)。Delta(B.1.617.2)変異体は、2021年3月末頃に初めてコミュニティに伝播し、2021年夏にはDeltaが優勢な変異体となりました(WHO、GISAID Initiative、プレプリント、PMID: 34525398)。
以上のことから、過去にSARS-CoV-2に感染した後にワクチン接種した集団は、過去に感染していない場合にワクチンを接種した集団に比べて、ブレイクスルー感染の発生率が低いかどうかを評価する機会となりました。そこで今回は、カタールにおけるBNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech社製)およびmRNA-1273ワクチン(Moderna社製)のマッチドコホート研究の結果についてご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
BNT162b2ワクチンを接種したコホートでは、PCR検査で感染が確認された99,226例と、マッチさせたPCR検査で感染が確認されなかった290,432例で構成されていました(年齢の中央値37歳、男性68%)。mRNA-1273ワクチンを接種したコホートでは、PCRで感染が確認されたことのない58,096例とマッチさせた169,514例で構成されていました(年齢の中央値36歳、男性73%)。
再感染の発生件数 | 感染歴のある集団 | 感染歴のない集団 |
BNT162b2ワクチン (Pfizer-BioNTech社製) | 159件 | 2,509件 |
mRNA-1273ワクチン (Moderna社製) | 43件 | 368件 |
BNT162b2ワクチン接種者では、2回目の投与から14日以上経過した時点で、感染歴のある集団では159件、ない集団では2,509件の再感染が発生しました。mRNA-1273ワクチン接種者では、感染歴のある集団で43件、感染歴のない集団で368件の再感染が発生しました。
累積感染率 | 感染歴のある集団 | 感染歴のない集団 | 既往感染を伴う ブレークスルー感染 |
BNT162b2ワクチン (Pfizer-BioNTech社製) | 推定0.15% (95%CI 0.12~0.18%) | 推定0.83% (95%CI 0.79~0.87%) | 調整ハザード比 0.18 (95%CI 0.15~0.21)P<0.001 |
mRNA-1273ワクチン (Moderna社製) | 43件 | 368件 | 調整後のハザード比 0.35 (95%CI 0.25〜0.48)P<0.001 |
BNT162b2ワクチン接種者の累積感染率は、120日間の追跡調査で、感染歴のある集団で推定0.15%(95%CI 0.12%~0.18%)、感染歴のない集団で推定0.83%(95%CI 0.79%~0.87%)でした(既往感染を伴うブレークスルー感染の調整ハザード比 0.18[95%CI 0.15~0.21]、P<0.001)。mRNA-1273ワクチン接種者の累積感染率は、120日間の追跡調査で、感染歴のある集団では 0.11%(95%CI 0.08〜0.15%)、感染歴のない集団では0.35%(95%CI 0.32〜0.40%)と推定されました(調整後のハザード比 0.35 [95%CI 0.25〜0.48]、P<0.001)。
1回目接種の6か月以上前に過去に感染したワクチン接種者は、1回目接種の6か月未満に接種したワクチン接種者に比べて、ブレイクスルー感染のリスクが統計的に有意に低いことが明らかになりました(調整後のハザード比 BNT162b2では0.62[95%CI 0.42〜0.92];P=0.02、mRNA-1273ワクチン接種では0.40[95%CI 0.18〜0.91];P=0.03)。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチン接種前に、新型コロナウイルスに感染した集団では、抗体価が増加し、2回目の感染を抑制したり、mRNAワクチンの1回の接種で2回接種と同等の抗体価の上昇が認められたりしています。
今回の研究では、mRNAワクチン接種集団におけるSARS-CoV-2感染の有無でブレークスルー感染リスクに差があるのか検証しています。その結果、SARS-CoV-2の感染歴は、ブレイクスルー感染のリスクが統計学的に有意に低いことと関連していました。
予想通りの結果ではありますが、やはり感染歴があると抗体価の上昇が大きく、その影響が示されたのかもしれませんね。
✅まとめ✅ mRNAワクチン接種集団において、SARS-CoV-2感染歴は、ブレイクスルー感染のリスクが統計学的に有意に低いことと関連していた。
根拠となった試験の抄録
試験の重要性:SARS-CoV-2の先行感染がワクチン防御に及ぼす影響はまだよくわかっていない。
目的:SARS-CoV-2感染歴のある集団とない集団のmRNAワクチン接種後のSARS-CoV-2ブレイクスルー感染からの防御能を評価すること。
試験デザイン、設定、参加者:BNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech社製)およびmRNA-1273ワクチン(Moderna社製)のカタールにおけるマッチドコホート研究。2020年12月21日から2021年9月19日の間にいずれかのワクチンを接種した1,531,736例を対象に、2回目の接種を受けた14日後から2021年9月19日まで追跡調査を行った。
曝露:SARS-CoV-2感染の既往とCOVID-19ワクチン接種
主要評価項目と測定法:SARS-CoV-2感染症の発生(PCR検査の理由や症状の有無にかかわらず、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)陽性の鼻咽頭ぬぐい液と定義)。累積発生率は、Kaplan-Meier推定法を用いて算出した。
結果:BNT162b2ワクチンを接種したコホートでは、PCR検査で感染が確認された99,226例と、マッチさせたPCR検査で感染が確認されなかった290,432例で構成されていた(年齢の中央値37歳、男性68%)。mRNA-1273ワクチン接種者は、PCRで感染が確認されたことのない58,096例とマッチさせた169,514例で構成されていた(年齢の中央値36歳、男性73%)。
BNT162b2ワクチン接種者では、2回目の投与から14日以上経過した時点で、感染歴のある集団では159件、ない集団では2,509件の再感染が発生した。mRNA-1273ワクチン接種者では、感染歴のある集団で43件、感染歴のない集団で368件の再感染が発生した。
BNT162b2ワクチン接種者の累積感染率は、120日間の追跡調査で、既往感染者で推定0.15%(95%CI 0.12%~0.18%)、感染歴のない集団で推定0.83%(95%CI 0.79%~0.87%)であった(既往感染を伴うブレークスルー感染の調整ハザード比 0.18[95%CI 0.15~0.21]、P<0.001)。mRNA-1273ワクチン接種者の累積感染率は、120日間の追跡調査で、感染歴のある集団では 0.11%(95%CI 0.08〜0.15%)、感染歴のない集団では0.35%(95%CI 0.32〜0.40%)と推定された(調整後のハザード比 0.35 [95%CI 0.25〜0.48]、P<0.001)。
1回目接種の6か月以上前に過去に感染したワクチン接種者は、1回目接種の6か月未満に接種したワクチン接種者に比べて、ブレイクスルー感染のリスクが統計的に有意に低かった(調整後のハザード比 BNT162b2では0.62[95%CI 0.42〜0.92];P=0.02、mRNA-1273ワクチン接種では0.40[95%CI 0.18〜0.91];P=0.03)。
結論と関連性:2020年12月21日から2021年9月19日までの間にカタールでBNT162b2またはmRNA-1273ワクチンを接種した集団において、SARS-CoV-2の感染歴は、ブレイクスルー感染のリスクが統計学的に有意に低いことと関連していた。観察研究デザインのため、2つのワクチン間の感染リスクを直接比較することはできない。
引用文献
Association of Prior SARS-CoV-2 Infection With Risk of Breakthrough Infection Following mRNA Vaccination in Qatar
Laith J Abu-Raddad et al. Laith J Abu-Raddad et al.
JAMA. 2021 Nov 1. doi: 10.1001/jama.2021.19623. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34724027/
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