【ゆるく批判的吟味】駆出率が保たれている心不全(HFpEF)患者におけるエンパグリフロジンの効果は?(DB-RCT; EMPEROR-Preserved試験; N Engl J Med. 2021)

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駆出率が保たれている心不全(HFpEF)患者におけるエンパグリフロジンの効果は?

これまで駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者に対する治療薬の承認が相次いでいますが、駆出率の保たれた心不全(HFrEF)に対する治療薬はありません。

SGLT2阻害薬は、尿中にグルコースを排出することで血糖を低下させる糖尿病治療薬として承認されましたが、その作用機序から慢性腎臓病(CKD)や心不全患者への治療効果が期待されています。

そこで今回は、2021年8月27日の欧州心臓学会の国際会議(ESC Congress)で発表されましたEMPEROR-Preserved試験の結果をご紹介します。本試験では、NYHAクラスII~IVの心不全で駆出率が40%以上の患者5,988例を対象に、通常治療に加えてエンパグリフロジン(10mgを1日1回投与)またはプラセボを投与したランダム化比較試験です。

試験結果から明らかになったことは?

中央値26.2ヵ月の間に主要アウトカムが発生したのは、エンパグリフロジン群では2,997例中415例(13.8%)、プラセボ群では2,991例中511例(17.1%)でした。

☆ハザード比 0.79、95%信頼区間[CI] 0.69~0.90、P<0.001

この効果は主に、エンパグリフロジン群で心不全による入院リスクが低下したことに関連していました。

エンパグリフロジンの効果は、糖尿病の有無にかかわらず一貫して認められました。心不全による入院の総数は、エンパグリフロジン群がプラセボ群よりも少ないことが明らかとなりました(エンパグリフロジン群407例、プラセボ群541例:ハザード比 0.73、95%CI 0.61~0.88、P<0.001)。

非複雑性の性器感染症や尿路感染症、低血圧症はエンパグリフロジンでより多く報告されました。

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PICO

P:NYHAクラスII~IVの心不全で駆出率が40%以上の患者(糖尿病患者は約50%)
I :エンパグリフロジン(10mgを1日1回投与)
C:プラセボ(1日1回投与)
O:心血管死または心不全による入院の複合

批判的吟味

  • ランダム割り付けされているか? ⭕️
  • ランダム化が隠蔽化されているか? 🔺(おそらくされている)
  • 患者背景に差はないか? ⭕️
  • ITT解析か? ⭕️
  • マスキング(盲検化)されているか? ⭕️(患者、医師、アウトカム評価者)
  • サンプルサイズは計算されているか?充分か? ⭕️ イベント-ドリブン試験:主要評価項目であるハザード比0.8を検出するために、両側アルファレベル0.05で90%の検出力を得るために、841件の主要評価項目が判定されることを目標とした。プラセボ群のイベント発生率を年間10%、募集期間を18ヵ月、追跡期間を20ヵ月と仮定し、4,126例の患者を登録する計画を立てたが、主要評価項目の集積が予想よりも遅かった場合には、最大で6,000例の患者を登録することも可能であった。そこで、試験期間中の主要評価項目のイベント発生率をモニタリングした結果、目標のイベント発生数を変更することなく、ランダム化を行った患者数を少なくとも5,750例に増やした。

結果の解釈

層別解析に結果から、駆出率60%未満、特に50%未満で、エンパグリフロジンによる有益性が最大化しそうです。また主要評価項目は複合アウトカムであることから、結果の解釈に注意を要します。主要評価項目の構成要素である心血管死については、ハザード比 0.91(95%CI 0.76〜1.09)で有意差はありません。あくまでも減少傾向ですので、主要評価項目の減少は、心不全による入院(0.71、0.60〜0.83)を抑制したことが大きく影響していると考えられます。

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✅まとめ✅ エンパグリフロジンは、糖尿病の有無にかかわらず、駆出率が保たれている心不全(HFpEF)患者の心血管死または心不全による入院の複合リスクを減少させた

根拠となった試験の抄録

背景:ナトリウム-グルコースコトランスポーター2(SGLT2)阻害薬は、心不全で駆出率が低下している患者において心不全による入院リスクを低減するが、心不全で駆出率が保たれている患者での効果は不明である。

方法:今回の二重盲検試験では、クラスII~IVの心不全で駆出率が40%以上の患者5,988例を、通常の治療に加えてエンパグリフロジン(10mgを1日1回投与)またはプラセボを投与するようランダムに割り付けた。主要アウトカムは、心血管死または心不全による入院の複合とした。

結果:中央値26.2ヵ月の間に主要アウトカムが発生したのは、エンパグリフロジン群では2,997例中415例(13.8%)、プラセボ群では2,991例中511例(17.1%)であった(ハザード比 0.79、95%信頼区間[CI] 0.69~0.90、P<0.001)。この効果は主に、エンパグリフロジン群で心不全による入院リスクが低下したことに関連していた。エンパグリフロジンの効果は、糖尿病の有無にかかわらず一貫して現れていた。心不全による入院の総数は、エンパグリフロジン群がプラセボ群よりも少なかった(エンパグリフロジン群407例、プラセボ群541例、ハザード比 0.73、95%CI 0.61~0.88、P<0.001)。非複雑性の性器感染症や尿路感染症、低血圧症はエンパグリフロジンでより多く報告された。

結論:エンパグリフロジンは、糖尿病の有無にかかわらず、駆出率が保たれている心不全患者の心血管死または心不全による入院の複合リスクを減少させた(資金提供:Boehringer Ingelheim社およびEli Lilly社。EMPEROR-Preserved ClinicalTrials.gov番号 NCT03057951)。

引用文献

Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction
Stefan D Anker et al. EMPEROR-Preserved investigators
N Engl J Med. 2021 Aug 27. doi: 10.1056/NEJMoa2107038. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34449189/

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