Colchicine in Patients With Acute Coronary Syndrome: The Australian COPS Randomized Clinical Trial
David C Tong et al.
Circulation. 2020 Nov 17;142(20):1890-1900. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.120.050771. Epub 2020 Aug 29.
PMID: 32862667
DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.120.050771
Registration: URL: https://www.anzctr.org.au; Unique identifier: ACTRN12615000861550.
Keywords: acute coronary syndrome; colchicine; coronary artery disease; inflammation.
背景
炎症は急性冠症候群(ACS)の臨床症状や合併症において重要な役割を果たしている。
痛風の治療薬として一般的に使用されているコルヒチンは、その抗炎症作用により、最近では循環器内科の新たな治療法の選択肢として浮上してきた。
我々はACS患者におけるコルヒチン治療の有用性を検討した。
方法
本試験は、オーストラリアの急性心疾患治療を行っている病院 17施設を対象とした多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照試験である。
対象者は成人(18~85歳)で、ACSを発症し、経皮的冠動脈インターベンションまたは内科的治療で管理されている冠動脈造影検査で冠動脈疾患が認められた患者であった。
患者は、標準的な二次予防薬物療法に加えてコルヒチン(最初の1ヵ月間は0.5mgを1日2回、その後11ヵ月間は0.5mgを1日1回)またはプラセボのいずれかに割り付けられ、最低12ヵ月間の追跡調査が行われた。
主要アウトカムは、全死亡、ACS、虚血駆動型(計画外)緊急再灌流術、非心筋梗塞性脳卒中を複合したイベントまでの時間解析とした。
結果
・2015年12月~2018年9月の間に合計795例(平均年齢 59.8±10.3歳、女性 21%)を募集し、396例をコルヒチン群に、399例をプラセボ群に割り付けた。
・12ヵ月間の追跡期間中、コルヒチン群では24件のイベントが発生したのに対し、プラセボ群では38件のイベントが発生した(P=0.09、log-rank)。
・全死亡率はコルヒチン群の方が高く(8 vs. 1;P=0.017、log-rank)、特に心血管系以外の死亡率が高かった(5 vs. 0;P=0.024、log-rank)。
・報告された副作用の割合に差はなく(コルヒチン23.0% vs. プラセボ24.3%)、主に消化器症状であった(コルヒチン23.0% vs. プラセボ20.8%)。
結論
標準的な内科的治療にコルヒチンを追加しても、ACS患者の12ヵ月時点における心血管アウトカムに有意な影響はなく、死亡率の上昇と関連していた。
コメント
温故知新、コルヒチンの抗炎症作用
近年、コルヒチンの抗炎症作用による心血管イベント発生の抑制効果が多く報告されています。そのため、急性冠症候群(ACS)など炎症が関与する疾病におけるコルヒチンの有効性に期待が寄せられています。
今回の研究で明らかになったことは?
死亡リスクが増加?
ACSを発症後に経皮的冠動脈インターベンションまたは内科的治療で管理されており、かつ冠動脈疾患を有する患者を対象とした本試験では、標準的な2次予防治療へのコルヒチンあるいはプラセボ追加の効果が検証されました。
主要複合アウトカムの発生については、以下の通り;
コルヒチン群 | プラセボ群 | |
発生数 | 24例 | 38例 |
ハザード比 (95%CI) | 0.65 (0.38〜1.09) | – |
P値 | 0.10 | – |
各構成要素については、以下の通り;
アウトカム :コルヒチン vs. プラセボ(ハザード比, 95%CI) P値
- 全死亡 :8例 vs. 1例(8.20, 95%CI 1.03〜65.61) P=0.047
- 心血管死:3例 vs. 1例(3.09, 95%CI 0.32〜29.71) P=0.33
- ACS :11例 vs. 20例(0.56, 95%CI 0.27〜1.18) P=0.13
- STEMI :3例 vs. 3例
- NSTEMI :4例 vs. 7例
- UA :4例 vs. 10例
- 脳卒中 :2例 vs. 5例(0.41, 95%CI0.08〜2.10) P=0.28
- 緊急再灌流術:3例 vs. 12例(0.26, 95%CI 0.07〜0.92) P=0.037
※STEMI:ST上昇型心筋梗塞、NSTEMI:非STEMI、UA:不安定狭心症
本研究結果によれば、標準治療へのコルヒチン追加は、プラセボと比較して、主要複合アウトカムの発生を減少させませんでした。ただし効果推定値としては減少傾向であり、また試験の限界(次項で解説)からも、内的妥当性が低かった可能性が高いと考えられます。
一方で、副次アウトカムである全死亡のハザード比については、有意にコルヒチン群で増加していました。あくまでも仮説生成的な結果ではありますが、気にかかるところです。
試験の限界
- サンプルサイズ:計算によれば1,009例が必要でしたが、患者募集が予想よりもはるかに遅く、目標としていたサンプル数に到達できなかったようです。パワー不足の試験であったものの、予想以上に高いイベント発生率を達成していました。これは、他のランダム化試験(COLCOTなど)に比べてリスクの高い集団を対象としており、対象基準の制限を最小限に抑えた広範な実世界での研究であったためであると考えられます。
- フォローアップ体制:本研究は限られた資金で行われた治験責任医師主導の研究であったため、電話によるフォローアップを行うスタッフが限られていたようです。
- 報告バイアス:追跡調査は電話で行われたため、患者が臨床的イベントの報告を省略するなど、報告バイアスがかかる可能性がありました。研究実施側は、すべての主要医療提供者に連絡を取り、研究期間中にすべての病院の記録を確認することで、可能な限り報告バイアスを最小限に抑えるように試みたとのこと。
- 試験からの脱落:追跡調査で失われた患者数は解析された死亡数と同程度であるため、本論文における死亡率のデータ解釈には注意が必要であると考えます。
- 実施施設:オーストラリアの病院 17施設ですので、結果の一般化が困難であると考えられます。
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