― ロッテルダム研究から見えてきた新たな可能性(Am J Ophthalmol. 2026)
臨床疑問(Clinical Question)
ナイアシン(ビタミンB3)やコバラミン(ビタミンB12)の摂取量が多い人では、開放隅角緑内障(Open-Angle Glaucoma: OAG)の発症リスクは低下するのだろうか?
研究の背景
緑内障は世界的な失明原因の上位を占める疾患であり、日本でも中途失明原因の第一位であることが知られています。
これまで緑内障の危険因子として、眼圧上昇、加齢、家族歴、近視、血流障害などが知られてきました。
一方、近年では視神経変性疾患としての側面にも注目が集まっており、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、ホモシステイン代謝異常、神経細胞障害との関連が報告されています。
ビタミンB群は、神経保護作用、血管内皮機能維持、ホモシステイン代謝調節に関与するため、緑内障発症リスクを低下させる可能性があります。
特に、ナイアシン(ビタミンB3)、コバラミン(ビタミンB12)は神経細胞保護との関連が示唆されているものの、長期的な疫学的データは限られていました。
そこで本研究では、オランダの大規模前向きコホート「Rotterdam Study」を用いて、食事由来ビタミンB群摂取量と開放隅角緑内障発症リスクとの関連が検討されました。
研究デザイン
前向きコホート研究
データソース
Rotterdam Study(オランダ)
対象
ベースライン時点で緑内障のない住民
対象者数:6,742名
- 平均年齢 62.4歳
- 女性 58.2%
追跡期間中に162例(約2.4%)が新規OAGを発症しました。
評価項目
主要評価項目
新規開放隅角緑内障(incident OAG)
副次評価項目
- 眼圧(IOP)
- 網膜神経線維層厚(RNFL)
- 神経節細胞層厚(GCL)
試験結果から明らかになったことは?

ビタミンB3(ナイアシン)
ナイアシン摂取量が多いほど、開放隅角緑内障リスクは低下しました。摂取量1 mg/日増加ごとのリスクOR 0.94(95% CI 0.90–0.98)でした。
最多摂取群 vs 最少摂取群
Q5(23.27 mg/日)vs Q1(9.98 mg/日)の場合、OR 0.43(95% CI 0.21–0.86, 傾向のp=0.02)でした。
ビタミンB12(コバラミン)
B12摂取量もOAGリスク低下と関連しました。摂取量1μg/日増加ごとのリスクOR 0.90(95% CI 0.83–0.97)でした。
最多摂取群 vs 最少摂取群
Q5(10.47 μg/日)vs Q1(0.19 μg/日)の場合、OR 0.25(95% CI 0.12–0.52, 傾向のp<0.001)でした。
眼圧への影響
摂取量増加に伴い、ナイアシン(傾向のp=0.04)、ビタミンB12(傾向のp=0.03)で眼圧低下傾向が認められました。
網膜神経節細胞への影響
ビタミンB12摂取量増加は神経節細胞層(GCL)厚増加と関連しました(β=0.01, 95% CI 0.00–0.03, 傾向のp=0.002)。
これは神経保護効果の可能性を示唆しています。
他のビタミンB群はどうだったか?
ビタミンB1、B2、B5、B6、そして葉酸については、OAG発症との有意な関連は認められませんでした。
著者らの考察
著者らは、ナイアシンがNAD+産生、ミトコンドリア機能維持、神経保護を介して視神経障害を抑制している可能性を指摘しています。
またビタミンB12については、ホモシステイン低下、神経保護作用、血流改善が関与している可能性があると考察しています。
批判的吟味(研究の限界)
① 観察研究である
本研究は前向きコホート研究です。そのため、「ビタミンB3やB12が緑内障を予防した」ことを証明したわけではありません。
健康的な食生活や社会経済的要因などの残余交絡が存在する可能性があります。
相関関係が示されたにすぎず、あくまでも仮説生成的な結果です。
② 食事調査による誤分類
摂取量は質問票から推定されています。実際の摂取量とのズレが生じる可能性があります(思い出しバイアス)。
特に長期間の食習慣変化は完全には反映できません。
③ 発症例数が比較的少ない
対象者は6742名でしたが、OAG発症は162例でした。
そのため推定値には不確実性が残ります。
④ サプリメント介入試験ではない
今回の研究から「ビタミンBサプリを飲めば緑内障予防になる」とは言えません。
実際に予防効果を証明するにはランダム化比較試験が必要です。
⑤ 一般化可能性
対象は主にオランダ人です。日本人に同じ結果が当てはまるかは不明です。
特に食事パターンや遺伝的背景の違いを考慮する必要があります。
薬剤師・医療従事者への実務的メッセージ
今回の研究は、「ビタミンB3(ナイアシン)」と「ビタミンB12」が開放隅角緑内障発症リスク低下と関連したことを示した興味深い報告です。
特に、ナイアシン最多摂取群やビタミンB12最多摂取群でリスクが低下する可能性が示唆された結果は注目に値します。
ただし本研究は観察研究であり、現時点で「緑内障予防のためにナイアシンやB12サプリメントを推奨する」エビデンスには至っていません。
それでも、高齢者、緑内障家族歴、高度近視、視神経脆弱性が懸念される患者において、栄養状態やビタミンB群摂取状況に目を向ける価値を示した研究といえるでしょう。
今後の介入試験による検証が期待されます。
まとめ
本研究では、ナイアシン(ビタミンB3)およびコバラミン(ビタミンB12)の摂取量が多い人ほど、開放隅角緑内障(OAG)の発症リスクが低いことが示されました。また、眼圧低下との関連も認められました。ビタミンB12については神経節細胞層厚増加とも関連が示されました。
一方で、本研究は観察研究であり因果関係は証明できません。現時点ではサプリメント投与を推奨する根拠とはなりませんが、ビタミンB群と緑内障の関連を示した重要な疫学研究といえます。
今後、ナイアシンやビタミンB12を用いたランダム化比較試験が実施されれば、緑内障予防の新たな戦略につながる可能性があります。
再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ オランダのロッテルダムコホートを用いた解析の結果、ナイアシンとコバラミンの食事摂取量が多いほど、特発性開放隅角緑内障(iOAG)のリスクが低いことが示唆された。
根拠となった試験の抄録
目的: ビタミンB群は、神経保護、血管の健康、および視神経の完全性や眼圧(IOP)に影響を与える可能性のあるホモシステイン代謝の調節において重要な役割を果たすことから、開放隅角緑内障(OAG)の予防に重要であるという証拠が増えつつある。そこで、ビタミンB群の食事摂取量と新規発症OAG(iOAG)との関連性を検討した。
研究デザイン: 本研究では、オランダで行われた前向き住民コホート研究であるロッテルダム研究のデータを使用した。
試験参加者: ベースライン時に開放隅角緑内障がなく、少なくとも 1 回の眼科フォローアップを受け、食事摂取に関するデータがすべて揃っている参加者を含めました。6742 人の参加者 (平均 [標準偏差]、年齢 62.4 [7.4] 歳、女性 58.2%) のうち、162 人が iOAG を発症しました。
方法: エネルギー調整後のビタミンB群の食事摂取量と特発性開放隅角緑内障(iOAG)、眼圧(IOP)、網膜神経線維層(RNFL)厚、神経節細胞層(GCL)厚との関連性を、それぞれ多変量ロジスティック回帰分析および線形回帰分析を用いて評価した。すべての分析は、少なくとも年齢、性別、カロリー摂取量、食事の質、および追跡期間で調整した。
主要評価項目: 主要評価項目は特発性開放隅角緑内障(iOAG)でした。副次評価項目には、眼圧(IOP)、網膜神経線維層(RNFL)厚、および神経節細胞層(GCL)厚が含まれました。
結果: ナイアシン(ビタミンB3;オッズ比[OR]と対応する95%信頼区間[CI]:0.94 [0.90-0.98]/mg/日)およびコバラミン(ビタミンB12;OR [95%CI]:0.90 [0.83-0.97]/µg/日)の食事摂取量は、iOAGの減少と有意に関連していた。ナイアシン摂取量が最も多い参加者(Q5、平均粗摂取量:23.27 mg/日)は、摂取量が最も少ない参加者(Q1、平均粗摂取量:9.98 mg/日)と比較して、iOAGのリスクが有意に低かった(OR [95%CI]:0.43 [0.21-0.86]、p-trend=0.02)。コバラミンについても同様の関連性が観察された(Q5[平均粗摂取量:10.47 µg/日]対Q1[平均粗摂取量:0.19 µg/日]、OR[95%CI]:0.25[0.12-0.52]、p傾向<0.001)。さらに、ナイアシン(p傾向=0.04)およびコバラミン(p傾向=0.03)の摂取量が多いほど眼圧が低下する有意な傾向が見られた。加えて、コバラミン摂取量はGCL厚の増加と関連していた(β[95%CI]:0.01[0.00-0.03]µg/日、p傾向=0.002)。他のBビタミンはiOAGまたはOAG関連のアウトカムとは関連していなかった。
結論: ナイアシンとコバラミンの食事摂取量が多いほど、特発性開放隅角緑内障(iOAG)のリスクが低いことが示された。開放隅角緑内障に対する遺伝的感受性が高い人には、ナイアシンのサプリメント摂取が推奨される可能性がある。コバラミンについては、さらなる研究が必要である。
引用文献
Vitamin B Intake Is Associated With Lower Incidence of Open-Angle Glaucoma: The Rotterdam Study
Maurits T van Haarlem et al. PMID: 42034209 DOI: 10.1016/j.ajo.2026.04.020
Am J Ophthalmol. 2026 Apr 23:288:120-130. doi: 10.1016/j.ajo.2026.04.020. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42034209/

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