ダラクソンラシブは膵がん治療を変えるのか?

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― 非盲検ランダム化比較試験(RASolute 302試験; N Engl J Med. 2026

臨床疑問

一次治療後に病勢進行した転移性膵管腺がん(mPDAC)患者において、新規RAS阻害薬ダラクソンラシブ(daraxonrasib)は標準化学療法より生存期間を延長できるのか?


研究の背景

膵管腺がん(pancreatic ductal adenocarcinoma:PDAC)は依然として予後不良ながんであり、転移例では5年生存率が極めて低いことが知られています。2026年の報告では、術後の5年生存率が13%でした(以前の報告では5%)。

一次治療としてFOLFIRINOX療法やゲムシタビン+nab-パクリタキセル療法が用いられるものの、治療後に病勢進行した患者に対する有効な治療選択肢は限られています。

PDACの分子生物学的特徴として、90%以上の症例でRAS経路の異常活性化が認められます。特にKRAS G12変異は最も頻度の高いドライバー変異です。

しかし、RASは長年「創薬困難(undruggable)」な標的と考えられてきました。

ダラクソンラシブは、活性化状態(RAS-ON)のRASを標的とする経口RAS阻害薬であり、G12のみならずG13やQ61変異にも作用することが期待されています。

本試験では、既治療mPDAC患者を対象にダラクソンラシブと標準化学療法が比較されました。

情報元


PICO

項目内容
P既治療転移性膵管腺がん患者
Iダラクソンラシブ
C医師選択化学療法
O全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)

試験デザイン

RASolute 302は、国際共同、第3相、オープンラベル、ランダム化比較試験です。500例の患者が登録され、ダラクソンラシブ群 248例、化学療法群 252例に割り付けられました。患者の91.8%がRAS G12変異を有していました。

主要評価項目は、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)でした。


試験結果

全生存期間(OS)

RAS G12変異集団

中央値OSハザード比(95%CI)
ダラクソンラシブ13.2か月HR 0.40(0.30 ~ 0.54)
P<0.001
化学療法6.6か月

全体集団

中央値OSハザード比(95%CI)
ダラクソンラシブ13.2か月HR 0.40(0.30 ~ 0.53)
P<0.001
化学療法6.7か月

無増悪生存期間(PFS)

RAS G12変異集団

中央値PFSハザード比(95%CI)
ダラクソンラシブ7.3か月HR 0.45(0.34 ~ 0.59)
P<0.001
化学療法3.5か月

全体集団

中央値PFSハザード比(95%CI)
ダラクソンラシブ7.2か月HR 0.49(0.38 ~ 0.64)
P<0.001
化学療法3.6か月

安全性

項目ダラクソンラシブ化学療法
全有害事象100%97.7%
Grade 3以上61.8%69.6%
治療関連有害事象による中止1.2%11.2%

全有害事象は両群で高頻度に認められましたが、治療関連有害事象による中止率はダラクソンラシブ群で低値でした。

※具体的な有害事象
ダラクソンラシブ群で最も頻度が高かった有害事象は、発疹(患者の86.3%)、下痢(67.2%)、口内炎(54.8%)、 悪心(52.3%)、嘔吐(42.3%)、疲労(33.6%)、および貧血(29.9%)。
※治療中止
ダラクソンラシブ群では、2名の患者が斑丘疹を理由に、1名の患者が肝酵素値の上昇を理由に治療を中止。


この研究から分かること

本試験では、標準治療である化学療法と比較して、ダラクソンラシブ使用によりOS中央値が約2倍、PFS中央値が約2倍に延長しました。

特にOSのHR 0.40という結果は、これまでの治療方法と比較して死亡リスクが約60%低下したことを意味します(追跡期間8.5ヶ月、範囲 3.2~15.9ヶ月)。転移性膵がん領域では極めて大きな治療効果です。

また、治療中止率が低かったことから、忍容性の面でも有望な結果と考えられます。

これまで有効なRAS標的治療が存在しなかった膵がん領域において、治療パラダイムを変える可能性のある試験といえるでしょう。


試験の限界(批判的吟味)

本試験は第3相RCTでありエビデンスレベルは高いものの、いくつかの重要な限界があります。

まず、本試験はオープンラベル試験です。OSは客観的評価項目であるため影響は限定的と考えられますが、QOL評価には観察者バイアスが入り得ます(PFSは画像評価のタイミングや判定方法の影響を受けるため、独立中央判定で実施されています)。

また、対照群は単一レジメンではなく「医師選択化学療法」で構成されています。そのため、使用された化学療法レジメンの内訳によって得られる結果が異なる可能性があります(ゲムシタビン+nab-パクリタキセル56.5%、リポソーム型イリノテカン+フルオロウラシルおよびロイコボリン32.7%、修正FOLFIRINOX5.6%、 FOLFOX5.1%)。

さらに、登録患者の91.8%がRAS G12変異であり、G13変異やQ61変異患者は少数でした。したがって、本試験結果の多くは実質的にRAS G12変異患者に基づくものであり、その他のRAS変異への一般化には注意が必要です。

加えて、対象患者は臨床試験に参加可能な全身状態の比較的良好な患者が中心と考えられます(ECOG PS 0-1の患者が対象)。高齢者やPS不良例、多数の併存疾患を有する患者において同様の効果が得られるかは不明です(年齢中央値65-66歳、年齢幅は30-88歳)。

安全性についても注意が必要です。本試験では治療中止率は低かったものの、Grade 3以上の有害事象は61.8%に認められており「副作用が少ない薬」と解釈すべきではありません。

さらに、本試験はRevolution Medicines社が資金提供しており、企業主導試験である点も踏まえて結果を評価する必要があります。


薬剤師としての視点

膵がん領域では長年にわたり大きなブレイクスルーが少ない状況が続いていました。

今回の結果は「RAS変異を直接標的とする治療が、生存期間の改善につながる」ことを示した点で非常に重要です。

一方で、2次治療でこれほど大きな効果量が示されたのは珍しいことです。再現性の確認が必要であり、今後の追試や実臨床データによる検証も重要になります。さらに1次治療での効果検証・安全性評価にも期待が寄せられます。

長期安全性、耐性機序、他治療との併用戦略、KRAS変異サブタイプ別の効果については今後の研究が待たれます。加えて、KRAS変異は他のがん種(大腸がんなど)でも認められることから、適応追加や他がんへの応用も期待されます。


まとめ

RASolute 302試験では、既治療転移性膵管腺がん患者においてダラクソンラシブが標準化学療法と比較して全生存期間および無増悪生存期間を有意に延長しました。

中央値OSは13.2か月vs6.6か月、HR 0.40という結果であり、膵がん領域では極めて大きな治療効果が示されました。

一方で、オープンラベル試験、医師選択化学療法との比較、RAS G12変異患者への偏り、企業主導試験などの限界も存在します。

それでも本試験は、RAS標的治療が膵がん治療の新たな選択肢となる可能性を示した重要な第3相試験と評価できるでしょう。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 非盲検ランダム化比較試験の結果、既治療の転移性膵臓癌患者において、ダラキソンラシブによる治療は、化学療法と比較して全生存期間および無増悪生存期間を有意に延長させた。

根拠となった試験の抄録

背景: 既存の治療法は、既治療の転移性膵管腺癌(mPDAC)患者に対して限られた効果しか提供していません。RAS経路の異常な活性化はPDACの主要な原因であり、90%以上の症例で発癌性RAS変異が認められます。ダラキソンラシブは、変異型および野生型RASの活性型グアノシン三リン酸結合状態を阻害する経口RAS(ON)多選択性三元複合体阻害剤です。

方法: この第3相国際非盲検ランダム化試験では、既治療の転移性膵管腺癌(mPDAC)患者を、ダラキソンラシブまたは治験責任医師が選択した化学療法にランダムに割り付けた。2つの主要評価項目は、RAS G12変異を有する患者サブグループ(RAS G12集団)における全生存期間および無増悪生存期間であった。主要副次評価項目には、全集団(RAS G12、G13、またはQ61変異を有する患者、あるいはRAS変異が認められない患者を含む)における全生存期間および無増悪生存期間、ならびにRAS G12集団および全集団における客観的奏効率および患者報告によるQOLが含まれた。安全性も評価した。

結果: 合計500名の患者(うち91.8%がRAS G12変異を有する)が、ダラキソンラシブ投与群(248名)または化学療法群(252名)に無作為に割り付けられた。RAS G12変異を有する患者群における全生存期間の中央値は、ダラキソンラシブ投与群で13.2ヵ月、化学療法群で6.6ヵ月であり、全患者群における全生存期間の中央値はそれぞれ13.2ヵ月および6.7ヵ月であった。ハザード比は両群とも0.40であった(P<0.001)。RAS G12変異を有する患者群における無増悪生存期間の中央値は、ダラキソンラシブ投与群で7.3ヵ月、化学療法群で3.5ヵ月であり、全患者群における無増悪生存期間中央値はそれぞれ7.2ヵ月および3.6ヵ月であった。ハザード比はそれぞれ0.45および0.49であった(両比較ともP<0.001)。治療開始後に発生した有害事象は、ダラキソンラシブ群の全患者と化学療法群の97.7%の患者で報告されました。グレード3以上の有害事象の発生率は、それぞれ61.8%と69.6%でした。治療中止に至った治療関連有害事象は、ダラキソンラシブ群の1.2%と化学療法群の11.2%の患者で発生しました。

結論: 既治療の転移性膵臓癌患者において、ダラキソンラシブによる治療は、化学療法と比較して全生存期間および無増悪生存期間を有意に延長させた。

資金提供: Revolution Medicines社

試験登録番号:ClinicalTrials.gov登録番号 NCT06625320

引用文献

Daraxonrasib or Chemotherapy in Previously Treated Metastatic Pancreatic Cancer
Eileen M O’Reilly et al. PMID: 42223072 DOI: 10.1056/NEJMoa2605555
N Engl J Med. 2026 May 31. doi: 10.1056/NEJMoa2605555. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42223072/

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