―― BMJ調査報道から臨床での受け止め方を整理する(BMJ. 2025)
臨床試験の結果を鵜吞みにできないとする根拠とは?
◆調査結果の概要
- 今回のBMJ記事は、チカグレロルの承認・普及を後押しした「2つの血小板機能試験(Circulation誌に掲載)」について、主要評価項目の誤報告やデータ欠落などの “データ完全性(integrity)” 問題を指摘しています。
- これは「チカグレロルが効かない/危険」という結論を直接示すものではなく、根拠として提示されてきた “薬理学的な説明(強い血小板抑制が得られる)” の信頼性に疑義を投げかける位置づけです。
- 臨床では、自己判断での中止は避け、不安がある場合は「何が問題視されているのか」を整理したうえで、主治医と代替選択肢も含めて相談する、という態度が現実的です(本稿は治療変更の指示/後押しするものではありません)。
対象論文(今回扱う一次情報)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 文献 | Doshi P. Ticagrelor doubts: inaccuracies uncovered in key studies for AstraZeneca’s billion dollar drug |
| 雑誌 | The BMJ |
| 掲載年 | 2025年6月19日 |
| PMID / DOI | PMID: 40537247 / doi: https://doi.org/10.1136/bmj.r1201 |
| 研究デザイン | 臨床試験ではなく 調査報道(Investigation) |
BMJが指摘した内容とは?
◆「何が問題なのか?」
BMJ Groupのプレスリリースで明示されている主な指摘点は次のとおりです。
| カテゴリ | 指摘内容(要約) | 臨床的に何が困る?(結果の解釈) |
|---|---|---|
| 主要評価項目 | 2つの試験で、主要評価項目(primary endpoint)の結果がCirculationで不正確に報告された | 「薬理作用が強い/速い」という “説明” の信頼性が揺らぐ |
| データ欠落 | 血小板機器の282測定のうち60超がFDA提出データセットに存在しない | “都合の悪い測定が除外された可能性” を疑われる余地 |
| 著者・研究体制 | 実際に関与した研究者が著者になっていない/著者が関与を否定、多くの研究者が取材に応じない | 研究のガバナンス(責任の所在・透明性)に疑問が残る |
| 企業・雑誌対応 | CirculationとAstraZenecaがコメント要請に応じなかった | 外部検証・説明責任が果たされにくい |
出典:BMJ Groupプレスリリース(BMJ調査報道の要点)
調査結果が意味することは?
◆ “薬が効く/効かない” とは別の論点)
今回の話は、ざっくり言うと次の構造です。
| 項目 | 何を支える証拠? | 今回揺らいでいるのはどこ? |
|---|---|---|
| ① 薬理(血小板機能試験) | 「チカグレロルは速く・強く・一貫して血小板を抑える」→ 臨床的優位の説明 | この “説明” に使われた重要試験の報告・データの整合性 |
| ② 臨床アウトカム(大規模試験など) | 「イベント(死亡/MI/脳卒中など)が減る」 | 今回の情報だけでは、臨床アウトカム全体を直接再評価した結論にはならない(別途検証が必要) |
現場での実務的な受け止め方
| 目的 | 実務アクション例 |
|---|---|
| 患者対応 | ・「報道の要点(何が問題視されているか)」を誇張せず説明し、服薬継続の重要性(特にDAPT中)を共有。 ・自己中断は心血管イベントの発症リスクに影響。 |
| チーム連携 | 循環器医へ「患者不安が出ている」、「代替P2Y12阻害薬の選択は患者背景(出血リスク、併用薬、アドヒアランス等)で変わる」など、相談の論点を整理して共有。 |
| エビデンス評価 | “結果の大小” ではなく、データ完全性・再現性・プロトコル逸脱・解析集団定義の観点で点検する。 |
試験の限界
今回のBMJ記事は重要な問題提起ですが、読み手が誤解しないために限界も明確にします。
| 限界 | 何が言えないか |
|---|---|
| これは臨床試験ではなく調査報道(Investigation) | 有効性・安全性の因果効果を直接推定する設計ではない |
| 指摘対象が「承認根拠の一部(血小板機能試験)」 | 本調査結果だけでチカグレロル全体の臨床アウトカムを結論づけられない |
| 取材に応じない関係者が多い | 反証や説明が十分に得られず、未解決の点が残る(一方で、説明がないこと自体が透明性の問題になり得る) |
| 本文の一次データ全体を第三者が自由に再解析できる状況ではない | 読者側で完全な追試が難しく、結論の確度は今後の追加検証に依存 |
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◆まとめ
- 今回の調査結果は、チカグレロルの評価を支えた重要な血小板機能試験について、主要評価項目の誤報告・データ欠落・著者資格など複数の懸念を提示しました。
- ただし、これは「薬の有効性を否定した臨床試験結果」ではなく、根拠の透明性と信頼性を問うものです。
- 臨床の基本は、自己判断の服薬中止を避け、患者の不安を拾い上げつつ、主治医と代替選択肢も含めて合理的に検討することです。
チカグレロル(商品名:ブリリンタ)は適応症により、服用用量が異なるだけでなく、低用量アスピリンと併用が必須など条件があります。そのため使用しにくく、実臨床において使用量は決して多くありません(アンケート調査:抗血小板薬における使用割合0.2%。参考:日経DI)。
今回の調査結果によれば、ブリリンタの製造販売承認の根拠となった臨床試験において、複数の懸念が提示されています。個人的に気にかかるのは、これらの懸念に対する説明責任が果たされていないことです。多くのヒトが関わる臨床試験において、個人の思惑が入り込むことは少なく、組織的な関与(同調圧力含む)が大きいでしょう。
どのような説明がなされるのか、追加調査が求められるのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 調査の結果、チカグレロル(商品名:ブリリンタ)の評価を支えた重要な血小板機能試験について、主要評価項目の誤報告・データ欠落・著者資格など複数の懸念が提示された。
引用文献
Ticagrelor doubts: inaccuracies uncovered in key studies for AstraZeneca’s billion dollar drug
Peter Doshi
BMJ. 2025 Jun 19:389:r1201. doi: 10.1136/bmj.r1201.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40537247/


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