小児ワクチン接種時の痛みは「冷やす」だけで軽減できる?(PLoS One. 2025)

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― 局所冷却の有効性を検証したランダム化比較試験

ワクチン接種時の “痛み” に対するクーリングの効果は?

小児の予防接種では、注射時の痛みや恐怖心が大きな課題です。甘味刺激、授乳、体位調整、ディストラクション(嫌なものから気をそらす)など、エビデンスに基づく疼痛緩和法は複数存在しますが、手間や人員の問題から日常診療では十分に実施されていないのが現状です。

今回ご紹介する論文では「注射前に接種部位の皮膚を冷やす」という非常にシンプルな介入が、ワクチン接種時の痛みを軽減できるかを検証しています。


試験結果から明らかになったことは?

◆研究の概要

本研究は、兵庫県内の2つの小児科クリニックで実施された、単盲検・ランダム化・並行群間・多施設試験です。

研究の対象

  • 3~6歳の未就学児
  • 日本脳炎ワクチンまたはインフルエンザワクチンの皮下接種予定児

介入

  • 冷却群:接種前に冷却パックで局所冷却を実施
  • 非冷却群:室温の冷却パックを接触(プラセボ対照)

※割付はコンピュータ生成によるブロックランダム化
※評価者(動画を用いて疼痛評価する第三者)は群割付を盲検化


◆評価項目(アウトカム)

主要評価項目

  • FLACCスケールによる疼痛評価
    (Facial expression / Leg movement / Activity / Crying / Consolability)
    参考サイト:行動的疼痛評価ツール

◆試験結果

項目冷却群(n=30)非冷却群(n=30)統計結果
FLACCスコア(中央値[IQR])1[0–1.25]2.5[1–6]P=0.011
有害事象認めず認めず
  • 両群で年齢・性別・ワクチン種類に有意差なし
  • 全例が試験を完遂
  • 日本脳炎ワクチンが54例、インフルエンザワクチンが6例

この研究から分かること

  • 局所冷却は、3~6歳児の皮下ワクチン接種時の疼痛を有意に軽減した
  • 冷却による有害事象は報告されていない
  • 特別な器具や追加人員を必要とせず、日常診療に導入しやすい介入である

試験の限界

本研究には、以下のような明確な限界があります。

  1. 症例数が少ない(n=60)
    小規模試験であり、結果の精度や一般化可能性には制限があります。
  2. 対象年齢が3~6歳に限定されている
    乳児や学童期以降の小児に同様の効果が得られるかは不明です。
  3. ワクチンの種類が限定的
    大半が日本脳炎ワクチンであり、他の皮下・筋肉内ワクチンへの外挿には注意が必要です。
  4. 単盲検試験である点
    施術者や保護者は介入内容を把握しており、行動や声かけの違いが影響した可能性は否定できません。
  5. 短期評価のみ
    痛みの評価は接種直後に限定されており、接種体験が次回以降の不安や拒否行動に与える影響は評価されていません。

臨床現場への示唆(結果の解釈)

本研究は「エビデンスはあるが実装が難しい疼痛対策」に対し、

簡便・低コスト・安全

という現実的な代替案を提示しています。

特に、

  • 人手が限られる外来
  • 定期接種で多数の小児を対応する場面

では、局所冷却は実践的な選択肢になり得ます。


まとめ

  • 注射前の局所冷却は、小児ワクチン接種時の痛みを有意に軽減
  • 有害事象は報告されず、安全性に大きな懸念は示されていない
  • ただし、小規模・年齢限定・短期評価という限界があり、今後の大規模研究が必要

小児のワクチン接種体験を少しでも改善するために、
「冷やす」というシンプルな工夫は、検討に値する方法と言えるでしょう。

ただし、FLACCスケールの群間の絶対差は1.5です。カットオフ値を2とした場合、感度と特異度はそれぞれ94.9%と73.5%であることが報告されています。したがって、MCID(臨床的に重要となる差異の最小差)を2とするのが良いでしょう。とすれば、クーリング介入の効果は実臨床において、そこまで大きくないのかもしれませんが、患者背景により有効である場合もあると考えられます。

再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ ランダム化比較試験の結果、皮下ワクチン接種中の局所冷却は、3~6歳児の疼痛を軽減する安全かつ効果的な方法であることが示された。

根拠となった試験の抄録

背景: 小児における皮下ワクチン接種時の疼痛緩和には、エビデンスに基づいた治療法が数多く存在します。しかし、これらの方法は一般的に労力を要するため、臨床現場では日常的に適用されていません。

目的: 幼児における皮下ワクチン注射中の局所冷却の安全性と鎮痛効果を評価する。

方法: 本試験は、兵庫県内の2つの小児科診療所において、日本脳炎またはインフルエンザワクチン接種予定の3~6歳未就学児を対象とした、単盲検ランダム化並行群間多施設共同試験として実施されました。参加者は、ワクチン接種前に冷却パックを用いて局所冷却を行う冷却群と、室温の冷却パックを提供する非冷却群に無作為に割り付けられました。無作為化はコンピュータブロック法を用いて行われました。主要評価項目は、ワクチン接種過程のビデオを第三者が評価し、FLACCスケール(表情、脚の動き、活動性、泣き声、慰めやすさ)を用いて測定した乳児の疼痛でした。

結果: 合計60名の小児が冷却群(n = 30)と非冷却群(n = 30)に無作為に割り付けられ、全員が試験を完了した。54名が日本脳炎ワクチンを、6名がインフルエンザワクチンを接種した。年齢、性別、ワクチンの種類などの人口統計学的データは、両群間で有意差は認められなかった。冷却群のFLACCスコアの中央値は、非冷却群(2.5 [IQR 1-6])と比較して有意に低かった(1 [IQR 0-1.25])(P = 0.011)。冷却に関連する有害事象は認められなかった。

結論: 皮下ワクチン接種中の局所冷却は、3~6歳児の疼痛を軽減する安全かつ効果的な方法である。この方法は、患者の快適性を向上させるために、定期予防接種に容易に導入できる。

試験登録: 日本臨床試験登録システム jRCTs052200149、2021年3月9日、https://jrct.niph.go.jp/en-latest-detail/jRCTs052200149

引用文献

Use of a cooling pack to reduce subcutaneous vaccine injection pain in children aged 3-6 years: A single-blind, randomized, parallel-group multicenter study
Ikuo Okafuji et al. PMID: 40138383 PMCID: PMC11940606 DOI: 10.1371/journal.pone.0318322
PLoS One. 2025 Mar 26;20(3):e0318322. doi: 10.1371/journal.pone.0318322. eCollection 2025.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40138383/

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