高齢者においてもSGLT-2阻害薬は有益なのか?
◆導入
高齢者(65 歳以上)で心血管疾患を持つ患者は、心不全入院や心血管死などの発生リスクが高い “ハイリスク群” です。
近年、SGLT2 阻害薬(sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors)は、糖尿病のみならず心・腎領域でも有益性が報告されており「高齢者での有効性・安全性」は臨床的に重要なテーマとなっています。
今回ご紹介するのは「65 歳以上で心血管疾患を有する患者」を対象に、SGLT2 阻害薬の心血管アウトカムを系統的レビュー・メタ解析した論文です。
試験結果から明らかになったことは?
◆背景
SGLT2 阻害薬は当初、2型糖尿病患者における高血糖用薬として開発されましたが、大規模臨床試験により心不全入院(HHF)・心血管死・腎保護効果が認められ、ガイドラインでも適応が拡大しています。
しかしながら、高齢者(特に65歳以上)では併存症・腎機能低下・脱水リスクなどが増大するため、「本当に高齢者でも同様のメリットが得られるか」「安全性はどうか」という点が議論されてきました。
試験結果から明らかになったことは?
◆研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 研究デザイン | RCTを対象としたシステマティックレビューおよびメタ解析 |
| 対象患者 | 年齢≥65歳、かつ心血管疾患(CV disease)を有する患者サブグループ |
| 主要評価項目 | 「心不全入院(HHF)/緊急心不全受診/心血管死」の複合アウトカム |
| 副次評価項目 | 全原因死亡、心血管死(CVD)、心不全入院 (HHF) 個別 |
| サブ群解析 | 心不全患者のみ、糖尿病患者のみ、年齢 65-74 vs. ≥75、SGLT2薬剤種類別、安全性 |
| 解析対象数 | 9件のRCTを解析:HRなど報告あり。 |
| 期間 | 2015年1月~2025年1月の文献検索 |
◆主な結果(表形式)
| 評価項目 | ハザード比 HRあるいは相対リスク (95%CI) | 備考 |
|---|---|---|
| 複合アウトカム(HHF+緊急HF受診+心血管死) | HR 0.75 (0.67–0.83) | 高齢者≥65歳対象群 (I²=51%) |
| 全死亡 | HR 0.80 (0.66–0.97) | I²=68% |
| 心血管死 (CVD) | HR 0.78 (0.65–0.94) | I²=61% |
| 心不全入院 (HHF) | HR 0.73 (0.65–0.83) | I²=0% |
| 安全性:性器感染 | RR 3.18 (2.35–4.30) | I²=0% |
| 安全性:その他の重篤副作用 | RR 0.92 (0.86–0.97) | I²=64% |
※HR=ハザード比、CI=信頼区間、I²=異質性の指標。対象は「心血管疾患を有する高齢者」に限定されています。
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◆解説・読み取りポイント
- 有効性が明らかに示された
65 歳以上の心血管疾患を有する集団において、SGLT2阻害薬は複合アウトカムで約25%のリスク低下(HR 0.75)を示しており、心不全入院では約27%のリスク低下(HR 0.73)と安定した効果が認められています。 - 全死亡および心血管死でも有意差あり
全死亡 HR 0.80、心血管死 HR 0.78 といった減少が報告されており、単に入院を減らすだけでなく生存に関わる効果も示唆されています。 - 安全面も概ね良好だが注意点あり
性器感染のリスクは明らかに上昇(RR 3.18)していますが、その他の重篤な副作用ではむしろリスク低下(RR 0.92)も見られています。高齢者では脱水・腎機能低下・転倒などのリスクが考えられるため「モニタリング」が重要です。 - 年齢層(65-74 vs. ≥75)や薬剤種類による効果差は明確ではない
サブ群解析では、年齢 ≥75 歳でも効果は維持されており、SGLT2薬剤の種類間での統計的な差も認められません(p=0.090)としており、クラス効果が期待されます。 - 臨床応用上の示唆
高齢者でも積極的に SGLT2 阻害薬を検討すべき背景が整ってきたと言えます。ただし「腎機能状態」、「脱水傾向」、「併用薬(利尿剤など)」、「転倒リスク」など高齢特有のリスクファクターを確認しながら使用した方が良いでしょう。
◆限界・留意点
- メタ解析対象の RCT内サブグループ解析であるため、高齢者専用の試験ではなく、結果の一般化には注意が必要。
- 異質性I²が全てのアウトカムで低くない(例:全死亡 I²=68%)ため、試験間で効果のばらつきがある可能性があります。
- 高齢者における長期(5年超)フォローアップのデータや「脆弱高齢者(frailty)」、「認知機能低下あり」など更にハイリスク群のデータは十分ではありません。
- 安全性に関しては性器感染など明らかになっていますが、「転倒・脱水・骨折・腎急変」など臨床的に懸念されるアウトカムがRCTレベルで十分検討されていないため、現場での慎重な観察が必要です。
◆今後の検討課題
- 高齢者(特に>75歳、フレイル・認知機能低下・多剤併用あり)を対象とした専用試験や実臨床データの蓄積
- 長期フォローアップによる死亡・腎保護・転倒・骨折など複合リスクの評価
- 実臨床での安全性プロファイル(特に脱水・体重減少・電解質異常など)を集めるリアルワールドデータの活用
- 個別化医療の観点から、「高齢者における投与開始時期」「併用薬・腎機能・体力状態に基づいた最適化」に関するガイドライン化
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◆まとめ
このメタ解析は、65 歳以上の心血管疾患を有する患者においても、SGLT2阻害薬が有意に心不全入院・心血管死・全原因死亡を低減しうるという強いエビデンスを示しています。一方で、高齢者特有のリスク(性器感染、脱水、腎機能低下など)に対する配慮が不可欠です。
薬剤師としては、高齢心血管疾患患者に対して SGLT2 阻害薬を検討する際、年齢や腎機能、体液状態、転倒リスク、併用薬などを丁寧に評価した上で、使用開始・モニタリングを行うことが重要です。
今後、さらに高齢者を対象としたデータが蓄積されれば「高齢×心血管疾患」領域における SGLT2阻害薬の使用基準がより明確になるものと期待されます。
続報に期待。

✅まとめ✅ システマティックレビュー・メタ解析の結果、心血管疾患を有する65歳以上の成人において、SGLT2阻害剤は、心不全、心不全緊急受診、CVDの複合リスクと全死因死亡率、CVD、心不全の二次的アウトカムを有意に低減した。加齢に伴うリスクを注意深くモニタリングしながらこの集団でSGLT2阻害剤を使用することを支持している。
根拠となった試験の抄録
背景: 2型糖尿病(T2DM)向けに開発されたナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は、心血管疾患(CV)を含む疾患において心腎機能へのベネフィットを示すことが実証されている。しかしながら、高齢者のCV疾患におけるアウトカムを統合したメタアナリシスはほとんど存在しない。
方法: 2015年1月から2025年1月までに発表されたランダム化比較試験のシステマティックレビューとメタアナリシスを、MEDLINE(PubMed)、Embase(Ovid)、CENTRALを用いて実施した。心血管疾患を有する65歳以上の高齢者のサブグループにおける心血管疾患転帰リスクを報告した研究を対象とした。
主要評価項目は、心不全(HHF)による入院、心不全(HF)緊急受診、および心血管死(CVD)の複合であった。副次評価項目は、全死亡率、CVD、およびHHFを個別に評価した。サブグループ解析は、HF、2型糖尿病、年齢層(65~74歳 vs. 75歳以上)、SGLT2阻害薬、および有害事象について実施した。
結果: 9件の研究を解析した結果、SGLT2阻害薬は、複合アウトカム(HR 0.75、95%信頼区間 0.67~0.83、I2=51%)、全死亡率(HR 0.80、95%信頼区間 0.66-0.97、I2=68%)、CVD(HR 0.78、95%信頼区間 0.65-0.94、I2=61%)、および心不全(HR 0.73、95%信頼区間 0.65~0.83、I2=0%)のリスク低下と関連していた。心不全のみ、2型糖尿病のみ、および75歳以上の患者群では、SGLT2阻害薬の有効性は一貫していた。SGLT2阻害薬の種類による有意差は認められなかった(p=0.090)。 SGLT2阻害剤は性器感染症のリスクを増加させた(RR 3.18、95%CI 2.35~4.30、I2=0%)が、その他の重篤な有害事象のリスクは減少した(RR 0.92、95%CI 0.86~0.97、I2=64%)。
結論: 心血管疾患を有する65歳以上の成人において、SGLT2阻害剤は、心不全、心不全緊急受診、CVDの複合リスクと全死因死亡率、CVD、心不全の二次的アウトカムを有意に低減し、加齢に伴うリスクを注意深くモニタリングしながらこの集団でSGLT2阻害剤を使用することを支持している。
キーワード: SGLT2阻害剤、心血管疾患、メタ分析、高齢者
引用文献
SGLT2 Inhibitors in Older Adults With Cardiovascular Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis
Kota Minami et al. PMID: 41054314 DOI: 10.1111/jgs.70143
J Am Geriatr Soc. 2025 Oct 7. doi: 10.1111/jgs.70143. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41054314/

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