◾この記事でわかること
- オピオイド誘発性便秘(OIC)の概要と課題
- ナルデメジンの予防的使用に関するエビデンス
- 試験結果の要約(主要評価項目・副次評価項目)
- 臨床現場での応用のポイント
◾研究の背景|オピオイド使用による便秘の予防が課題
がん性疼痛に対する強オピオイドの使用は、痛みの緩和に必須ですが、その副作用として最も頻度が高く、自然には改善しにくいものの1つが「オピオイド誘発性便秘(OIC)」です。
OICはアドヒアランスの低下や疼痛管理の障害につながるため、初回投与時からの予防が重要視されています。しかし、OIC予防を目的とした薬剤使用に関する質の高いエビデンスは限られていました。
◾研究の概要|ナルデメジン vs. プラセボの予防効果を検証
本研究は、日本の4つの学術病院で実施された多施設共同・ランダム化・二重盲検・プラセボ対照試験です(jRCTs031200397)。
- 対象:がん性疼痛で初めて強オピオイドの定期投与を受ける20歳以上の患者
- 介入:ナルデメジン0.2mg vs. プラセボ(1日1回、14日間)
- 主要評価項目:14日目における便通機能指数(BFI)が28.8未満の割合
- 副次評価項目:自発排便回数(SBM)、QOL、オピオイド誘発性の悪心・嘔吐(OINV)
◾試験結果から明らかになったことは?
評価項目 | ナルデメジン群 | プラセボ群 | 群間差 | 有意差 |
---|---|---|---|---|
BFI<28.8達成率(14日目) | 64.6% (95%CI 51.1–78.1) | 17.0% (95%CI 6.3–27.8) | +47.6% (95%CI 30.3–64.8) | P<0.0001 |
SBM頻度、QOL、OINV | 有意な改善傾向あり | — | — | 名目的に有意 |
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◾どんな患者に使うべき?現場での応用のヒント
この試験結果から、以下のような臨床応用が考えられます。
- がん性疼痛で新たに強オピオイドを導入する患者に対し、ナルデメジンを予防的に投与することが、便秘や関連するQOLの低下を防ぐ一助となり得ます。
- OICが発現してからではなく、「最初からの予防」が効果的であることが示唆されました。
- 悪心・嘔吐(OINV)に対しても改善効果がみられた点は、今後の研究課題として注目されます。
◾今回の試験の特徴と限界
▶ 試験の特徴
- 高い内部妥当性を持つRCT:本研究はプラセボ対照・二重盲検・ランダム化という堅牢なデザインにより、バイアスの影響を最小限に抑えたエビデンスです。
- 明確なアウトカム指標:主要評価項目として「BFI<28.8」という客観的かつ臨床的に妥当な指標を採用しており、便秘の改善を定量的に評価できる設計となっています。
- 初回オピオイド導入患者に限定:オピオイド歴のない患者に対象を絞ったことで、ナルデメジンの「予防的効果」を明確に評価することができました。
▶ 試験の限界
- 観察期間が14日間と短い:長期的な有効性や安全性、習慣性や依存の可能性は評価されていません。慢性的な投与を行う場合には、追加のデータが必要です。
- 症例数が比較的少ない(n=99):サンプルサイズは大規模試験とは言えず、稀な副作用の検出力やサブグループ解析には限界があります。
- 日本国内の学術病院のみが対象:日本人患者、かつ特定の医療機関でのデータに基づいているため、一般化可能性(外的妥当性)は限定的です。地域や文化、食生活が異なる他国での再検証も必要でしょう。
- プラセボ対照で既存の下剤との比較はなし:既存の便秘治療薬との直接比較ではないため、「他の治療薬と比べてどの程度優れているか」は不明です。
◾まとめ
がん疼痛に対する強オピオイド開始時の便秘対策として、ナルデメジンの予防的使用が高い有効性を示しました。14日間の使用において、便通改善だけでなくQOLの維持にも貢献する可能性があります。
OIC対策として「起こってから治す」のではなく、「起こる前に予防する」という視点が、これからの緩和ケアにおいてより重視されるのかもしれません。
ただし、小規模かつ短期間の検証結果であることから、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、ナルデメジンは便秘を予防し、便秘に関連するQOLを改善し、定期的にオピオイド投与療法を開始する癌患者のオピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)に対する予防効果がある可能性が示された。
根拠となった試験の抄録
目的: オピオイド誘発性便秘は、オピオイド鎮痛薬の最も頻度が高く、かつ自然治癒しない副作用であり、服薬アドヒアランスを低下させ、鎮痛効果を阻害する。本臨床試験は、強オピオイドの定期投与療法を開始する癌患者における便秘に対するナルデメジンとプラセボの予防効果を明らかにすることを目的とした。
方法: 本多施設共同、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照、検証的試験は、2021年7月から2023年5月にかけて、日本の4つの大学病院で実施された(日本臨床試験登録番号:jRCTs031200397)。がん性疼痛に対し、初めて強オピオイドの定期投与を開始する20歳以上のがん患者を対象とした。適格患者は、ナルデメジン(商品名:スインプロイク, Symproic 0.2mg)群またはプラセボ群に1:1の割合でランダムに割り付けられ、14日間、プロトコル治療を受けた。
主要評価項目は、14日目に腸機能指数(BFI)が28.8未満である患者の割合とした。副次的評価項目は、自発排便頻度(SBM)、生活の質(QOL)、およびオピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)の頻度とした。
結果: 適格性評価を受けた103名の患者のうち、99名がナルデメジン(n=49)またはプラセボ(n=50)を投与された。14日目のBFI <28.8の発生率は、ナルデメジン群(64.6%、95%CI 51.1~78.1)でプラセボ群(17.0%、95%CI 6.3~27.8)と比較して有意に高く、群間差は47.6%(95%CI 30.3~64.8; P<0.0001)であった。SBMの頻度、QOL、およびOINVの重症度は、ナルデメジン群で対照群と比較して名目上有意であった。
結論: ナルデメジンは便秘を予防し、便秘に関連するQOLを改善し、定期的にオピオイド投与療法を開始する癌患者のOINVに対する予防効果がある可能性がある。
引用文献
Naldemedine for Opioid-Induced Constipation in Patients With Cancer: A Multicenter, Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trial
Jun Hamano et al. PMID: 39255425 PMCID: PMC11637578 DOI: 10.1200/JCO.24.00381
J Clin Oncol. 2024 Dec 10;42(35):4206-4217. doi: 10.1200/JCO.24.00381. Epub 2024 Sep 10.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39255425/
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