◆ はじめに:「寝不足は万病のもと」って本当?
現代人の多くが抱える「平日の睡眠不足」。
その影響を和らげるため、週末にまとめて眠る「週末の寝だめ(Weekend Catch-Up Sleep: WCS)」をしている方も多いのではないでしょうか?
今回ご紹介する研究は、週末の寝だめと心血管代謝疾患の多重併存(Cardiometabolic Multimorbidity: CMM)との関連性を調査したアメリカの大規模データに基づく注目の報告です。
試験結果から明らかになったことは?
◆ 研究の概要
- 研究対象:2017–2018年の全米健康栄養調査(NHANES)から抽出された3,431名
- CMMの定義:高血圧、糖尿病、脳卒中、心血管疾患のうち2つ以上を有する状態
- 週末の寝だめ(WCS)の定義:週末の睡眠時間が平日より長いこと
- 解析方法:加重ロジスティック回帰モデルでWCSとCMMとの関連性を評価
◆ 主な結果
比較項目 | 結果・傾向 |
---|---|
WCSの有無とCMMの関係 | WCSあり群でCMMの有病率が有意に低い(p<0.001) |
WCSの保護効果(全体) | OR 0.531(95%CI 0.360~0.784) |
睡眠時間別の効果 | 睡眠時間が8時間未満の群でもWCSは一貫してCMMリスクを低減 |
さらに、層別解析により、週末睡眠時間や平日睡眠時間が8時間未満の場合、WCSの増加に伴いCMMのリスクが下がる傾向が示されました。
◆ 解説:なぜ寝だめが病気を防ぐのか?
平日に十分な睡眠がとれないと、交感神経が優位になり、インスリン抵抗性や高血圧、脂質異常など、代謝異常のリスクが高まることがわかっています。
一方、週末に睡眠を「取り戻す」ことで、これらの生理的負担が一時的に回復し、慢性的な心血管・代謝負荷を軽減する可能性があると考えられています。
◆ 臨床的意義と実生活へのヒント
この研究は観察研究ながら、以下のような臨床的・社会的意義があります。
- 「週末の寝だめ」は悪ではなく、むしろ保護的に働く可能性がある
- 平日忙しくて睡眠時間が確保できない人でも、週末の工夫が健康維持につながる可能性
- 特に睡眠時間が少ない人ほど、寝だめによるメリットが大きい
ただし、「寝だめだけで睡眠不足を帳消しにできる」と過信せず、平日もできるだけ質の良い睡眠を確保することが基本です。
◆ 試験の限界と注意点
この研究にはいくつかの限界があります:
- 横断研究のため因果関係は証明できない
WCSがCMMを予防するのか、あるいはCMMを持たない人がWCSしやすいのかは明確ではありません。 - 自己申告による睡眠時間の偏り
NHANESでは睡眠時間が自己報告であるため、客観的な測定に比べて誤差を含む可能性があります。 - WCSの質に関する情報が不足
「長く寝る」ことの質(睡眠の深さや中途覚醒など)が考慮されていません。
◆ おわりに:現代人にやさしい「予防」のヒント
「週末に少しでも長く寝る」——
それは単なる怠惰ではなく、心と体の健康を守るための“戦略”なのかもしれません。
もちろん、理想は毎日7〜8時間の安定した睡眠ですが、現実はなかなか難しいもの。
そんなときに、週末のリカバリー睡眠がもたらす健康効果は、私たちにとって大きな希望となるでしょう。
ただし、繰り返しとなりますが、あくまでも相関関係が示されたにすぎず、一般化するには更なる検証が求められます。再現性の確認だけでなく、他の国や地域、対象集団の背景など、より “寝だめ” 効果が得られる集団の特定が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 米国の横断研究の結果、週末の寝だめは心血管代謝性多疾患(CMM)と関連し、保護因子である可能性が示唆された。また、8時間未満の睡眠時間であっても保護因子であり続けた。
根拠となった試験の抄録
背景: 心血管代謝性多疾患(Cardiometabolic multimorbidity, CMM)は、高血圧、糖尿病、脳卒中、心血管疾患など、2つ以上の心血管代謝性疾患が併存する状態と定義されます。週末の追い込み睡眠(Weekend catch-up sleep, WCS)は睡眠負債の効果的な返済法ですが、WCSとCMMの関連性、また平均睡眠時間、平日の睡眠時間、週末の睡眠時間の影響下におけるWCSとCMMの関連性は不明です。本研究の目的は、WCSとCMMの関連性、そして異なる睡眠時間下におけるそれらの関連性を明らかにすることです。
方法: 2017~2018年米国国民健康栄養調査(N=3431)データセットを用いて横断研究を実施した。重み付け多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、WCSとCMM間のオッズ比(OR)とその95%信頼区間(95%CI)を推定し、異なる睡眠時間層別化におけるWCSとCMMの関連性を検証した。様々な睡眠時間、WCS時間、およびCMMの有病率の関係を示すために、制約付き3次スプラインプロットを用いた。
結果: WCSは、CMM群とCMM非群の間で統計的に有意な差を示した(p<0.001)。共変量を調整した結果、WCSはCMMの保護因子であることが示され、オッズ比は0.531(0.360, 0.784)であった。睡眠時間が異なる層別解析を行った結果、WCSは8時間未満の睡眠時間を持つ患者においてもCMMの保護因子であることが示された。
結論: WCSとCMMの間には関連が認められた。WCSはCMMの保護因子であった。WCSは8時間未満の睡眠時間にかかわらず、CMMの保護因子であり続けた。
キーワード: 平均睡眠時間、心血管代謝多疾患、平日の睡眠時間、週末の追いつき睡眠、週末の睡眠時間
引用文献
Association of weekend catch-up sleep, sleep durations and cardiometabolic multimorbidity: Based on NHANES
Yu Han et al. PMID: 40518072 DOI: 10.1016/j.jjcc.2025.06.005
J Cardiol. 2025 Jun 14:S0914-5087(25)00158-3. doi: 10.1016/j.jjcc.2025.06.005. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40518072/
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