肺炎治療におけるセフトリアキソンの最適用量とは?(後向き研究; J Antimicrob Chemother. 2025)

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◆ はじめに

肺炎は入院治療が必要となる代表的な感染症であり、特に高齢者や基礎疾患を持つ患者においては重篤化することも少なくありません。
その治療の中心に位置するのが、第3世代セフェム系抗菌薬「セフトリアキソン(Ceftriaxone)」です。

しかし、日常診療においては「1日1gでよいのか、2gが必要なのか」という投与量の判断に悩む場面も多くあります。
今回紹介する研究では、日本全国の大規模入院データを用いて、肺炎患者におけるセフトリアキソンの用量と有効性・安全性を比較検討しています。


◆ 研究の概要と方法

  • 対象:2010年7月〜2022年3月に肺炎で入院した日本の成人患者(47万1694例)
  • データソース:診療報酬明細書(DPCデータベース)
  • 比較群
    • 1g/日群(36.7%)
    • 2g/日群(63.3%)
      ※いずれも入院後2日以内にセフトリアキソンを開始した患者が対象
  • 主要評価項目:30日以内の院内死亡
  • 副次評価項目:有害事象(胆道感染症、C. difficile感染症、アレルギー反応)
  • 解析手法:傾向スコアに基づく重み付け(overlap weighting)

◆ 主な結果

🔍 全体集団での比較

評価項目1g/日群2g/日群統計的有意差
30日以内の院内死亡4.6%4.5%差なし(P=0.219)
有害事象(全体)1.8%1.9%やや高い(P=0.007)

※2g群でC. difficile感染症の割合が高かった。

🔍 サブグループ(人工呼吸管理を要する重症患者)

評価項目1g/日群2g/日群統計的有意差
30日以内の院内死亡20.4%17.2%有意に低下(P=0.006)

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◆ 解説:1gと2g、どちらを選ぶべきか?

今回の研究結果からは、一般的な肺炎患者においては、1g/日と2g/日で死亡率に差はないことが示されました。
むしろ、2g/日投与ではわずかながらC. difficile感染症などのリスクが上昇する傾向も見られています。

一方で、人工呼吸器管理が必要な重症肺炎患者では、2g/日の方が明確に予後改善に寄与する可能性が示唆されました。

このことから、セフトリアキソンの投与量は「重症度に応じた個別化」が重要であると考えられます。


◆ 臨床的意義と今後の課題

✅ 臨床的意義

  • 軽症~中等症肺炎では、1g/日でも十分な効果が期待できる
  • 重症例やICU管理が必要な患者では、2g/日投与を検討した方が良さそう
  • 過剰投与は耐性菌リスクや有害事象の増加に注意

⚠ 試験の限界

  1. 観察研究であるため、因果関係は断定できない
  2. 抗菌薬以外の治療介入(例:ステロイド、補助療法)は考慮されていない可能性あり
  3. 微生物学的診断(病原体の有無)に基づく解析は行われていない

◆ まとめ

本研究は、日本全国のDPCデータを用いた非常に大規模かつ実臨床に近い解析であり、肺炎治療における抗菌薬適正使用の重要性を改めて示した結果と言えます。

「肺炎だからといって漫然と2g投与する」のではなく、患者背景・重症度を踏まえた柔軟な用量調整が、医療の質と安全性の両立につながります。

日本の研究結果であるため、外的妥当性は高いと考えられますが、再現性の確認を含めて更なる検証が求められます。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 日本の後向きコホート研究の結果から、通常の肺炎治療ではセフトリアキソンの投与量が1g/日を超える必要はないかもしれないが、機械的人工呼吸器を必要とする重症肺炎の患者には2g/日の投与が考慮されるかもしれない。

根拠となった試験の抄録

目的: セフトリアキソンは市中肺炎の入院患者に広く使用されていますが、その最適な投与量は依然として不明です。

方法: 2010年7月から2022年3月までに肺炎と診断された患者を、日本のDPC入院データベースから後方視的に抽出した。患者は、入院後2日以内にセフトリアキソン2g/日投与群と1g/日投与群に分類された。
主要評価項目は30日院内死亡率とした。副次評価項目は、総有害事象(胆道感染症、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症、アレルギー反応の複合)および各有害事象とした。機械的人工呼吸器を必要とする患者については、サブグループ解析を実施した。比較には傾向スコア重複重み付け分析を用いた。

結果: 適格患者471,694名のうち、63.3%がセフトリアキソン2g/日を、36.7%が1g/日を投与された。傾向スコア解析の結果、両群の30日入院死亡率に有意差は認められなかった(4.5% vs. 4.6%、リスク差(RD) -0.1%、95%信頼区間(CI) -0.3% ~ 0.1%、P=0.219)。全体的な有害事象は2g/日群でわずかに高く(1.9% vs. 1.8%、リスク差(RD) 0.1%、95%信頼区間(CI) 0.0%~0.2%、P=0.007)、特にクロストリジウム・ディフィシル感染症の割合が高かった。機械的人工呼吸器を必要とする患者のサブグループ解析では、2g/日の投与法は30日死亡率の低下と関連していた(17.2% vs. 20.4%、RD -3.2%、95%CI -5.6% ~ -0.9%、P=0.006)。

結論: 通常の肺炎治療ではセフトリアキソンの投与量が1g/日を超える必要はないかもしれないが、機械的人工呼吸器を必要とする重症肺炎の患者には2g/日の投与が考慮されるかもしれない。

引用文献

Outcomes of ceftriaxone 2 g versus 1 g daily in hospitalized patients with pneumonia: a nationwide retrospective cohort study
Jumpei Taniguchi et al. PMID: 40492536 DOI: 10.1093/jac/dkaf189
J Antimicrob Chemother. 2025 Jun 10:dkaf189. doi: 10.1093/jac/dkaf189. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40492536/

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