心不全患者におけるカルベジロールの安全性—COPDや喘息を合併する場合の検討(観察研究; Am Heart J. 2002)

a sick man covering his mouth 02_循環器系
Photo by cottonbro studio on Pexels.com
この記事は約6分で読めます。
ランキングに参加しています!応援してもよいよという方はポチってください!

心不全患者にβ遮断薬を使う難しさ

慢性心不全(CHF)の治療において、β遮断薬(カルベジロールなど)の使用は必須ですが、気道病変を有する患者では慎重な投与が求められます
特に、COPDや喘息を合併する患者では、β遮断薬が気管支収縮を引き起こすリスクがあり、安全性が懸念されます。

カルベジロールはβ1およびβ2受容体遮断作用を持つため、特に喘息患者では禁忌とされる一方、COPD患者には慎重投与が推奨されています。
しかし、実際の臨床現場では、CHF患者がCOPDや喘息を合併しているケースは少なくなく、安全性データが限られていました。

本研究は、CHFとCOPDまたは喘息を併発した患者に対するカルベジロールの忍容性と効果を評価することを目的としています。

試験結果から明らかになったことは?

試験デザインと対象

項目内容
研究デザイン観察研究(オープンラベル)
対象者CHF患者487名(COPD併発31名、喘息併発12名)
評価項目呼吸機能(FEV1、PEFR)、カルベジロールの忍容性、左室リモデリング
試験期間1996~2000年
投与方法カルベジロール開始(入院中に60%が投与開始)
フォローアップ期間平均2.5年

主な結果

呼吸機能への影響

疾患群FEV1 (%予測)FEV1/FVC (%)PEFR (L/min)PEFR変化率忍容性
COPD患者62% ± 13%62% ± 8%325 ± 115+17%(p=0.04)84%が忍容
喘息患者80% ± 17%74% ± 11%407 ± 161変化なし50%が忍容不可
  • COPD患者では、カルベジロール投与後にPEFRが17%改善(p = 0.04)
  • 喘息患者ではPEFRに有意な変化なし
  • COPD患者の84%がカルベジロールを忍容できたが、喘息患者では50%が忍容不可であった

心機能への影響(生存者のみ、12か月時点)

指標ベースライン12か月後P値
左室拡張末期径(LVEDD)76 ± 11 mm72 ± 14 mm0.01
左室収縮末期径(LVESD)65 ± 13 mm60 ± 15 mm0.01
短縮率(FS)14% ± 7%17% ± 7%0.05
  • 左室リモデリングが改善し、収縮能が向上した(短縮率:14%→17%)
  • 2.5年後の生存率は72%

コメント

COPD患者ではカルベジロールが比較的安全

COPD患者では、カルベジロールが気道収縮を引き起こさず、安全に使用可能であることが示されました。
特に、PEFRが改善している点は注目に値し、β2受容体遮断作用の影響が少なかったと考えられます。

喘息患者ではリスクが大きい

一方で、喘息患者の半数はカルベジロールを忍容できず喘息発作(喘鳴)などの理由による中止がみられました。
β2受容体遮断が直接気管支収縮を引き起こした可能性があり、喘息患者には引き続き禁忌とされます。

実臨床への提言

  • COPD合併CHF患者にはカルベジロールを慎重に導入し、呼吸機能をモニタリングすることが重要
  • 喘息合併患者には使用を避けるべき
  • 心機能改善効果が確認されているため、適応患者に対しては有用
red check mark in a box

✅まとめ✅ 観察研究の結果、CHFとCOPDを併発している患者では、カルベジロールが安全かつ忍容性が高いことが示された。特に、呼吸機能(PEFR)が有意に改善し、気道収縮のリスクが低いと考えられた。一方で、CHFと喘息を併発している患者ではカルベジロールの忍容性が低く、喘鳴を誘発しやすいため注意が必要である。

根拠となった試験の抄録(日本語訳)

背景:うっ血性心不全(CHF)患者の中には、気道疾患を合併している人が少なくない。しかし、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を持つ患者におけるカルベジロールの忍容性については、これまでほとんど報告がない。
本研究では、CHF患者でCOPDまたは喘息を併発している症例におけるカルベジロールの忍容性と有効性を評価した。

方法:1996年から2000年の期間に、合計487名のCHF患者がオープンラベルでカルベジロールの投与を開始した。そのうち、43名(9%)はCOPD(31名)または喘息(12名)を合併していた。全ての患者で臨床診断をスパイロメトリーにより確認し、71%の患者では完全な肺機能検査を実施した。

患者の60%は入院中にカルベジロールを開始し、投与前後のピーク呼気流量(PEFR)を測定した。
呼吸機能評価として、1秒量(FEV1)、1秒率(FEV1/FVC)、および気管支拡張薬使用後の可逆性
を評価した。

結果:

【COPD患者の呼吸機能】

  • 平均FEV1:62% ± 13%(予測値)
  • 可逆性:4% ± 4%(気管支拡張薬使用後)
  • FEV1/FVC:62% ± 8%
  • 平均PEFR(カルベジロール投与前):325 ± 115 L/min
  • 投与2時間後のPEFR変化:+17%(p = 0.04)

カルベジロールは、COPD患者の84%で安全に導入されたが、1名(3%)喘鳴(wheezing)のため治療中止となった。

【喘息患者の呼吸機能】

  • 平均FEV1:80% ± 17%(予測値)
  • 可逆性:13% ± 7%(気管支拡張薬使用後)
  • FEV1/FVC:74% ± 11%
  • 平均PEFR(カルベジロール投与前):407 ± 161 L/min
  • 投与2時間後のPEFR変化:変化なし

喘息患者では、カルベジロールの忍容性が低く、**12名中6名(50%)**が治療中止となった。


心機能評価(カルベジロール治療後、12か月時点)

生存者の心機能改善が確認された。

  • 左室拡張末期径(LVEDD):76 ± 11 mm → 72 ± 14 mm(p = 0.01)
  • 左室収縮末期径(LVESD):65 ± 13 mm → 60 ± 15 mm(p = 0.01)
  • 左室短縮率(FS):14% ± 7% → 17% ± 7%(p = 0.05)
  • 2.5年生存率:72%

結論:CHFとCOPDを併発している患者では、カルベジロールが安全かつ忍容性が高いことが示された。特に、呼吸機能(PEFR)が有意に改善し、気道収縮のリスクが低いと考えられた。一方で、CHFと喘息を併発している患者ではカルベジロールの忍容性が低く、喘鳴を誘発しやすいため注意が必要である。

本研究では、カルベジロールが左室リモデリング改善効果を示し、心機能改善に寄与することが確認された。COPD合併CHF患者では、カルベジロールを安全に使用できる可能性が示唆されたが、喘息患者に対しては依然として禁忌であると結論付けられる。

引用文献

Tolerability of Carvedilol in Patients With Congestive Heart Failure and Chronic Obstructive Pulmonary Disease
Bristow MR, et al.
PMID: 12490274
Am Heart J. 2002 Dec;144(6):1077-82. doi:10.1067/mhj.2002.125416
ー 続きを読む:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12490274/

コメント

タイトルとURLをコピーしました